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[00.世界の入り口]

『WIN』

 静かにそう表示される半透明の縁取りに収ったメッセージを横目に、俺はさっさとログアウトした。

 すぐさま意識が遠ざかるような感覚とともに、都市という過去の面影を残す廃退した荒野から、現実の体へと意識が移行する。

 ぼやけた視界に映るのは、明かり一つつけていない真っ暗な部屋。ディスプレイの明かりだけが俺を正面から照らしていた。

「………あきた」

 俺は頭に被っていたフルフェイスディスプレイを投げだし、寄っかかっていた椅子にもたれた。

「なーんかおもしろいのないかな~……」

 気だるげに溜まった電子メールを消費しながら、俺は呟く。

 もう何十ものVRMMOを渡り歩いただろうか。自分でもつくづく廃人プレイと思いながら遊んでいたが、正直飽きた。

 縛りプレイや裸プレイもしたものの、それでも難なくこなせるようになると、もはやそこに楽しみを見いだせない。

 今さっきの決闘(デュエル)も、相手を即殺して終了。それはもはや戦闘ではなく作業だ。

「どっかに強敵いないかなー」

 呟きつつ、俺はそれがかなりの無茶振りであることを承知していた。

 世界的トッププレイヤー【ヤクモ】。

 それが自分の名であり、忌々しい称号でもあった。

 連戦連勝。東方不敗。―――それを望んだのは自分だけど、そこまでたどり着くと、こうもつまらないものかと嘆きたくなる。

 今さっきのバトルだって企業からのオファーだし、だからといって手抜きはしなかったが、相手が弱すぎる。はっきりいって何をしたいのかわからないほど弱すぎる。

 だが、それで金を貰っているのだから無下にすることはできず、軽く相手をした。

 当然、俺の本気を出す必用もない。

 つくづく思う。なんで俺はトッププレイヤーになってしまったのか。

 俺はゲームをしたいのであって、作業をこなしたい訳ではない。

 だけど、今の俺にとってゲームは―――作業でしかなかった。

「……はぁ~…………」

 こぼれたため息。

 長くなった髪を邪魔に思いつつ、改めて自分のことを考える。

 去年十五歳になって(せいじんして)、相変わらずの年中引きこもり。だけど、お金はゲームの賞金とか、会社からのオファーで稼いでいるからニートではない。生まれてこのかた彼女無し、それ以前に興味なし。

 五歳の頃からネットの世界にどっぷり浸かり、気づけば世界的トッププレイヤー。

 青春? 全学年通信制で過ごしましたが―――何か?

 改めて思い返してみると、はじめたばかりのあの頃が懐かしい。

 やり始めの頃なんて、よく全滅したり、よくPKされたり。今では考えられないようなことばかりあった。

 自分にも仲間がいた頃には、よくギルドで馬鹿な真似をしたものだ。だけど、心満たされて毎日が楽しかった。

 けど、それも時間が経つほどに、互いに圧倒的差が開きはじめた。あえて自分から離れていくもの、寄生してくるもの、色々な他人(なかま)がいた。

 結局、誰一人として疎遠となり、今に至る。最高につまらない毎日。

「…………」

 トッププレイヤーに近づいてくる他人(プレイヤー)はいない。どこか遠巻きに俺を眺め、口々に噂するだけ。

 新規アカウントを造れど、自分の性が停滞を望まず、気づけば【ヤクモ】を量産する日々。

 現実がつまらなかった。だから仮想へと逃げたのに、その仮想さえつまらなくなった。

「ほんと、なにかおもしろ―――」

 言いかけ、俺は口を止めた。

 相変わらず、部屋で唯一の光源であるパソコンの画面(ディスプレイ)。そこに一つだけ、目にとめった電子メール。それはよく送られてくるゲーム広告の一つにすぎない。

「………」

 俺はそれを開いた。

 そして、見出しを流し読み、次第に熱中し―――引き込まれていた。

 そして最後に、一言書かれたセリフ。


『本当のゲームをはじめてみませんか?』


 安い誘い文句だと思う。だけど、その言葉にどこか惹かれている俺がいる。

「…………」

 無言で脱ぎ捨てたヘッドギアを被る。社長椅子とでも例えが一般的と思われる椅子に背中を預け、俺は一言呟いた。

「ファンタジック・リアリティ―――フルダイブスタート!」

 流れるように紡いだ言葉は、俺の意識を現実からさらった。

 

 ファンタジック・リアリティ―――それが俺が目にとめたVRMMORPGの名前だ。

 世界観はありきたりな幻想世界。竜や獣人というファンタジーならではの種族が闊歩する、そんな世界だ。

 さっそくログインするのだが……。

「転生手続き………?」

 いわゆる種族設定のことだろう、が………。

 ちなみに、現在俺がいる場所はちょっとっした不思議空間。全面、宇宙を思わせる星空が広がり、魔法陣にしか見えない淡く輝く明かりに下から照らされ、ちょっとしたライトアップをされている。

 そして、画面となるメニューが表示されているのは、タケノコのようにニョキッと生えている水晶のような六角形の石碑(オベリスク)の上。ちなみにその下には当然星空が広がっている。

「種族変えられないじゃん」

 人間―――と書かれた種族欄はどうも固定らしく、全く動かない。

 性別の方は、当然現実のものと起因する。一昔前の画面でのオンラインゲームとは違って、VRMMOでは、別の性別にしてしまうと色々と問題があるため、変更できないようになっているのが普通だ。

 とりあえず、己の手で決められるのは………名前ぐらいだったりする。

「……なにこのゲーム」

 開始前からハズレの予感がしなくもないが、やってみてらやめるか続けるかを決めればいいだろうと、俺はそんな安直な考えで名前を入力。【ヤクモ】と名前欄に刻まれた。

 これだけで、設定完了。さっさと『入力終了』の文字を押すと『設定が完了しました。これより転生します。本当によろしいですか? YES/NO』とのシステムメッセージが。

 当然、『YES』を選択。

『本当に、本当によろしいのですか?』

「…………」

 俺は無言に『YES』をタッチ。

『本当の本当に―――』

「くどいなッ!!」

 呆れ気味に『YES』を連打すると『転生手続きをはじめます』との表示が現われ、俺はほっと一息。

 途端、淡い粒子に俺は囲まれ、少し驚く。

「―――おっ……」

 まるで光る白い草原にいるような―――そんなことを連想しつつ、俺の意識は光の中に散っていった。bonn

逃げちゃダメだ。

逃げちゃダメだ。

逃げちゃダメだ―――

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