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二月

「ね、ねねねね」

「どうしたの、弟」

「姉ちゃん」

「はい」

「ちっ違うんだよこれは! これはぼくのせいじゃなくて、いやまあたしかにぼくが踏んだんだけどでも故意でやったわけじゃなくて不可抗力で」

「貯金くずして買ったゴ●ィバを溶かして固めた力作が……」

「なんで溶かすの?!」

「明日はどうやらバレンタインらしいから手作りの極意でも会得しようかと」

「いやそのままわたしなよ。踏んじゃって元の形わかんないけど姉ちゃんのことだからどうせ変な形だったんでしょ、ばか!」

「まあまあそれはおいといて。弟」

「なに」

「その恰好は一体……」

「!」

「これでもかとウエストを絞ってるけどそれに対してふんだんに重ねられたフリルで広がるスカート部分が中々素敵なワンピースだね。ちょっと丈が短いけど白いニーソックスとのバランスがいいしなにより褐色を帯びた絶対領域が男の子ならではの魅力。そんなちょっぴりハッスルした太ももとワンピースのオレンジの組み合わせは毎週日曜朝に素敵スマイルを見せてくれる日●あ●ねちゃんを連想させるよ。あ、その髪の毛はカツラかな? しっかり編まれた三つ編みがやんちゃ成分を抑えてるね。弟はカラスの塗れ羽のような艶やかな黒髪だけど、茶髪も結構似合うんだね。胸元の大きな赤いリボンも薄い胸板を彩っていて良いアクセントになってるよ。でもその手に持ってるほうきはちょっと弟にはでかいんじゃない? ワンサイズ小さいものに替えてもらうといいよ。しかしあれだね、なんでうちの弟はこんなにかわいいんだろう。●ディバより弟を食べたいくらいだ。で、その魔法少女のコスプレは一体」

「コスプレって言うなぁっ!」

「違うの?」

「ね、姉ちゃんじゃあるまいし」

「弟、そのコスプレよく似合ってるよ。今度一緒にイベント行こうよ。きっとアイドルになれるよ。楽しいよ」

「楽しくない絶対楽しくない!!」

「で、そのコスプレは一体」

「…………」

「姉に隠し事か、弟」

「……姉弟だってお互い隠し事くらいするでしょ」

「弟に隠れてあんなことやこんなことをしてもいいと」

「……一体何する気」

「教えてほしいなら弟も姉に隠し事しない」

「……」

「……」

「……えっと」

『新着任務が一件入りました』

「?! 初●ミク?!」

「うわあああああ」

「ちょっと弟、今のは」

「そ、空耳だよ」

「その羽の付いた可愛らしいリュックから聞こえたんだけど……そおいっ!!!」

「ぎゃあああああぼくのリュック返して!」

「なんだこれ。ス●イル●クト?」

「ちがうよ! ラブパワーMAXフォンバージョンセブンだよ……って、ハッ」

「弟」

「はい……」

「その話詳しく」

「話せば長くなるんだけど」

「望むところだ!」

「……ええと、姉ちゃん。ぼく、実は――――」



***



「……ええと、つまり弟は塾の帰りにあやしい女に魔法少女にスカウトされたと」

「たしかに魔女だけど先生普段はOLさんだからあやしいわけじゃ……」

「タイトスカートで弟を惑わそうなんて、小癪な真似を!」

「全国の働くOLさんたちに謝罪しろ!」

「で、そのOLは弟を女だと勘違いしていたと」

「そう、先生はぼくを女の子だと勘違いしてたんだ。それは魔法少女を引き受けてから大分後に知ったことだけど」

「なんで引き受けたの?」

「模試の結果が悪くてむしゃくしゃしてたから、つい、ノリで。すぐ後悔したけどやめさせてもらえなかった」

「魔法少女は男がなっちゃダメなんでしょ? 男だってバレた時やめられなかったの」

「ぼく、先生にバレたときには実績のおかげで結構えらくなってたから。女の子のフリして続けざるをえなかったんだよ」

「さすが弟は魔法少女界でも優秀だったか……すごいや……」

「元々こういうのは得意だったし」

「困ってる人を助けるんだよね」

「大雑把に言うとね。魔女の先生は全国各地にいる魔法少女に人助けの任務を課すんだ。ぼくらの仕事はそれを全うすること」

「ほー。空とか飛べたりするの?」

「まあね。そういう特別な能力は魔法少女になった時にもらったから」

「魔女何者だよ」

「ぼくが知りたいよ」

「しかし魔法少女か……胸が高鳴るね……ぎゅー」

「離れて暑苦しい」

「女子の姿だとなんだかイケナイ気持ちになるね……」

「男でもダメだからね」

「なんで?」

「なんで?! なんでって、まさか姉ちゃん手当たり次第こうやって男に抱きついてるんじゃ!」

「まさか! だれか道行くおっさんなんかを! 私は少年愛好者だよ!」

「それ他の人には言っちゃダメだからね……!」

「心配しないで。私が抱くのは弟だけだよ」

「やめてその言い方」

「ところで弟」

「なんですか」

「魔法少女のコスプレついでに、こんなコスプレはいかが」

「は? エプロン? チョコでもつくってほしいの?」

「! そうだ弟、なんでさっき私の力作を」

「溶かして固めただけのね。実はさっきまで敵に追われてて」

「なんだって!」

「先生……魔女と犬猿の仲の人がいて、その人魔王なんだけど、魔物使って僕らの仕事の邪魔したり、たまに今日みたいに自らちょっかいかけにくるんだよね」

「暇だな魔王」

「で、逃げてたんだけど、姉ちゃんのチョコ、窓のすぐ下にあったでしょ?」

「うん」

「窓から家に入ったから、気づかないで踏んじゃった……ごめん」

「許すよ。この服着てくれたらね!」

「いやそれ服じゃないよね。エプロンだよね」

「服だよ。服だから服の上に着ちゃダメだよ。あ、やっぱ下着もダメ。裸の上に着」

「そんなの服って言わないよ! 絶対着ないから!」

「ひ、ひどい。勇者と王女のロマン溢れる逃亡劇を描いたRPG『エロエロ迷宮(ラビリンス) ~逃げるか、ヤり逃げるか~』のメインヒロイン、魔界一のパティシエ、エロリーナたんの立派な衣装だよ。謝りなさい!」

「ご、ごめ……じゃなくて! また姉ちゃん変なゲームやって! 大体勇者と王女の逃亡劇なのになんでメインヒロインがパティシエ?!」

「王女はヤリ逃げ対象だもん。それに変なゲームじゃないし」

「嘘だ」

「クソ●ーオブザイ●ー20××の二位を受賞した立派なクソ……エロゲだもん!」

「クソって言ってるじゃん! そんなゲームのメインヒロインのコスプレなんてぼく絶対しないから!」

「ケチ! エロリーナたんは裸エプロンでホワイトチョコレート作ってくれたのに!」

「ゲームと現実を混同するのいい加減やめようね、このオタク!」

「ゲームキャラみたいなことしてるくせに何をえらそうに! おまえなんかこうしてやるー!」

「うわああああああ仕事服があああああああ」

「ちょっと……これすっごい破けやすいんだけど。こんなピラッピラな服で仕事とか大丈夫? 襲われない? 布替えてもらいな?」

「今まさに襲われてるもんね! 先生によく言っとくよ!」

『パシャリ』

「うわあああああああやめろおおおおおおおおお」



「やめて弟! 弟お願いだからそれだけはやめてえっ! 姉ちゃんそんなことされたらこの先どうやって生きていけばぁっ!!」

「消去」

「チクショー! 覚えてろ、今度は完全に脱がせてこのマイガラケーの弟フォルダに収めてやるんだからね! ふんっ!」

「携帯折ってやろうか……」

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