第七話 もう逃げられない
亮が死んだ。俺のために…!!真一は床を拳で叩いた。
それにしてもあの言葉。いずれ俺達も消える。そう察した真一は家族に向けて言った。
「父さん!!母さん!!この住宅から出よう!!引っ越そう」
「でもすぐ家が見つかるか?」
「どこでもいい!ここから逃げられれば、どこでもいいんだ!」
「わかった。でも真一、明日にしよう。明日になったら俺の実家に行こう。いいな」
真一はうなずいた。
ついに逃げれる。
真一以外にも家族全員がそう思っていた。
だが、地獄住宅はそうかんたんには逃げられない。
翌日、和也がニュースを見ながら朝食を食べていたら、何かに驚いてコーヒーをこぼしてしまった。
「ああもう、何してるの!?」
美樹がふきんでこぼしたコーヒーを拭きながら言った。
「見ろよ!!あの写真。あいつ、俺達が引っ越したすぐに引っ越した会社員だよ。原因不明の変死だと。もう、逃げられないんだ!!この地獄住宅からはもう逃げられないんだ!!」
家族が一斉に黙った。引っ越しても助かるのか?そう思うと不安で何も出来ないのだ。
「もうお引っ越しなさるのですか?」
管理人が残念そうな顔をして真一達を見る。
「なあ、あんた知ってるか?この住宅…地獄住宅は呪われてるんだ!!」
気が動転した和也は管理人の胸ぐらを掴んだ。
「はい。知ってますよ」
えっ?真一達は管理人を見つめる。
管理人は不適な笑みで真一達を見ている。その目は何かに操られたような目だ。
「じゃあなんで、なんで何も言わないんだ!?」
「そりゃそうでしょ。自分の利益を自分から無くす奴がどこにいるんだい?」
「クソっ!!」
真一が住宅の柱をおもいっきり蹴った。
管理人とのもめごとも済んで、久保一家は荷物をまとめていた。
「あなた、電子レンジとか冷蔵庫はどうするの?」
「冷蔵庫はリサイクルショップにでも売って、小さいやつとかは持っていこう。お袋と親父にはちゃんと事情を言ったからこのぐらいなんとかなるだろう。」
真一が窓から何かを見つけたらしく、和也に声をかけた。
「お父さん、引っ越し屋、もう来た」
「呼んできてくれ」
真一はこくりとうなずいて、ドアに向かって走り、ドアノブに手をかけ、回そうとした。だが、うまく回らない。
「あ…あれ?開かない。ドア開かないよー」
「ちゃんと回したのか?」
「ちゃんと回してるけど…」
真一が何回もドアノブを回していたら、急にドンドン!!とドアをノックする音がした。
急な音で退いた真一だが、そっとレンズを覗いた。
その人は、髪が濡れた女がにぃっと笑っていた。
「うわぁあああああああ!!」
真一が驚いてベランダの窓を開けようとするが開かない。
何回もドンドン叩いたり、鍵が掛かってるか確認するが開かない。
「開かない!!この部屋のドアが全部開かない!!」
「ほら、言っただろ。この住宅に入った時点で誰も逃げられないんだ」
和也が怯えてる時、美樹が荷物を入れようとダンボールを開けたら、色白の女が美樹を見つめてニッと笑った。
「いやあぁあああ!!」
美樹がダンボールをひっくり返した。衣服以外中には何もなかった。
「たたけ、ガラスを叩け!!」
和也が冷や汗をかきながら真一に向かって叫んだ。
真一は和也の必死そうな顔を見て、何かを察して金属バットを出してガラスを叩き割った。
和也がダンボールの中から綱を出した。
これで、家族が助かると和也は安心してベランダに出た。
「美樹!!今綱を垂らすからこれを使って降りてくれ。それからマンションの中に入って家のドアを開けてくれ!!」
「わかった!!」
和也は綱を下に垂らして美樹に綱を掴ませた。
「真一、綱を押さえるの手伝ってくれ!!頼む!!」
「分かった!!」
美樹がそっとベランダの柵を乗り越え、綱を掴んだまま慎重に綱を下ろす。
「コワイよ〜」
すると、真一は見えない気配を感じた。透明人間がいるみたいに感じる。そして、
チョキン。きゃああああああああああああああ!!グシャ。
真一と和也がベランダから下を見ると、綱を掴んだ美樹の死体があった。何者かに綱を切られたのだ。
「うわっ!!」
真一は自分を攻める顔になっている。
「やっぱりだ。やっぱり。この住宅は…」
和也が腰を抜かしたように座った。
「地獄住宅からは逃げられないんだ…」
ピンポーン。チャイムが鳴った。真一と和也が驚いて振り向く。
「真一、あなた。私よ」
この、声は…。和也と真一が凍り付く。
「お母さん…」
「美樹…」
いや、違う。
美樹は今さっき死んだはずだ。
何者かに綱を切られて死んだはずなんだ。
真一はそう思いながら、ブルブル震えながら、美樹の死体を見た。
その時、真一の目にありえない状況が映った。
「お父さん…」
「なっ、なんだ?」
「お母さんの死体が、ない…」
「えっ?」
和也が下を見ると、そこには血と綱しかなかった。
「うそだ、うそだぁあああ!!」
真一が叫ぶと、ドアノブが壊れそうな勢いで回ってる。
「あけろぉおおおおお」
これは美樹とは違うもの凄く低い声だった。
「うわぁあああ」
真一と和也が叫ぶと、ドアノブも微動だにせず、何も聞こえなくなった。
「助かったの、か…?」
「やったよ、助かったんだよ!!お父さん!!」
「やったな!!」
ついに、助かったんだ。
一家の大黒柱の和也は、二人だけでも助かった事に変わりはないと思った。
「ダカライッタデショ。モウニゲラレナイノジゴクジュウタクハネ…」
耳にずっと残るような低い声で誰かが言っている。
二人が静かに振り向くと、
「うわぁあああ!!!!!!」
二人は消えた。
地獄住宅はこれで終わりです。まだまだこの住宅の謎は残ってますが、この謎は次回に残しましょう。ありがとうございました。