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一匹の竜の話をしよう

 夕焼けで黄昏色(たそがれいろ)に輝く谷を抜けたところに、ある若い竜が住んでいました。

竜は孤高の生きものです。

その強さゆえに、群れを作らず。めったに他の種族と係わらず。ひっそりと、誰も近寄れないような谷間で生きるのです。

永い、永い時を。


若い竜も例に漏れず、そうして生きる竜のひとりでした。

そう、すべてはちょっとした気紛れだったのです。

彼が深い眠りから三年ぶりに目を覚まし、久方ぶりに住みかから抜けて出たのも。


若い竜は鈍色(にびいろ)に輝く羽を広げ、雪解け水に作られた湖へ降り立ちました。人里からそれほど遠くないそこは、けれどもめったに人は訪れません。

湖に竜がときおり舞い下りるので、人々には(おそ)れられていたのです。

静かで美しいそこは彼のお気に入りの場所でした。


竜は優美な動作で翼をおりたたみ、静かに湖のはしへ身体をあずけました。


しばらく翼を休めていると、不意になにかの気配が湖へ近づいてきました。

竜は気配を探り、眉を寄せました。あれは人です。


見つかったら面倒なことになりそうです。眉を寄せたままの格好で竜は恐ろしい声で唸りました。

その声に弾かれたように、近くで休んでいた小鳥や動物は一斉に逃げ出します。

彼らには悪いことをしましたが、これで人間も近づいてこないでしょう。竜はまどろみに身をまかせ、瞳を閉じました。


次に瞳を開けたとき、竜は驚きのあまり叫びだしたくなる口を閉じました。


竜から少し距離をおいた場所に 人間の、それも十五ぐらいの女が、座り込んで本を読んでいたのです。


竜はじっと片目を開けて女を警戒していましたが、彼女は竜に危害を加えることもなく、ただひたすら分厚い本を読んでいました。

場にページをめくる音と、戻ってきた小鳥のさえずりだけが響いています。

女は空がオレンジ色に染まる頃、ゆっくり帰って行きました。


竜の姿を見て、悲鳴をあげない人間は初めてでした。



次の日も女は湖にやってきました。

その次の日も、また次の日も。そうして竜の隣に座って、編み物をしたり、本を読んだり。なんと竜にもたれかかり眠ることもありました。

この孤高の王に、この世界で一番恐れられている伝説の化け物に!


滑らかな竜の鱗にはじめて彼女の体温が触れたときの驚きをなんと言い表わしたらいいか、竜が目を見張ったのは想像に容易いでしょう。


彼女が竜にもたれかかったまま寝てしまうと、竜は呆れ、いつも体を揺らし彼女を落としてしまおうかと悩みました。

もし竜が人の言葉がしゃべれたなら、すぐにでも彼女に『もっと慎重になさい!』と親のように長々と説教したことでしょう。


けれど結局、いつだって竜は彼女を起こしてしまわないように、そっと息を潜め女に背を貸すのです。自分でもなぜそうするのか分からぬまま、ただ彼女の寝顔があまりにも幸せそうなので起こすのが忍びないのだと、そう結論づけるのでした。


女はたまに竜の体を小さな手で撫でます。

最初は子供が親を伺うように恐る恐る触れてきましたが、竜が何も咎めなかったので、味を占めたのが遠慮せずに触るようになりました。

あまりに嬉しそうに瞳を輝かせるので竜は好きにさせています。


彼女は気高き孤高の王を、ウサギかなにかと勘違いしてるのではないか。

竜は呆れ半分で思いながら、優しく鱗を撫でる手に喉を鳴らしました。

なんだか悪くない気分でした。


そんな心地になることに首をひねることも何度かありました。

けれどその疑問を考えるたびに、どこかきまりが悪いような、落ち着かない気持ちになるのです。

なので竜は誰に咎められている訳でもないのに『きっと、暇すぎて情でも移ったのだ。そうだ、あまりに暇だったから。』と、自分に言い訳しては片目を開けて帰っていく彼女を見送りました。



やがて湖にも冬が来ました。

秋にはたくさんの木の実を籠に詰め湖を訪れていた彼女も、冬はさすがに堪えるようです。

コートを顔が埋もれるまで着こんで、暖かそうなショールでぐるぐる巻きになっていても、小さなくしゃみをしていました。


その時彼は初めて気が付いたのです。

竜はそれほど寒さを感じません。しかし人にはこれは凍えるような寒さなのだと。人間の身体はとても脆いのです。思い立った事実に竜は愕然としました。

知ってました。知っていた筈でした。

知っているつもりな、だけだったのです。


竜は彼女に会うのをやめることにしました。

このままではあの子は病気になってしまいます。竜には伝える言葉を持たないので、そうするのが一番だと思いました。

そのまま消えるのは心配だったので、次の日竜は湖が見よく見える人の目には映らない崖の洞窟から彼女の様子をこっそり覗きました。


彼女は一日中そこで座り込み本を読んでいました。ときどき、何かを探しすように空や谷の方を眺めながら。

自分を探しているのだと、竜にはわかりました。


二日、三日たつにつれ、彼女が探すように空を見る回数が増えました。それと一緒に増える咳の回数に、固い鱗に覆われているはずの竜の心臓はツキンと痛みました。


吹雪の吹いた四日目に、やっとあの子は湖まで来るのをやました。


春になったらまたあの子に会えるだろうか。

吹雪に閉ざされた穴蔵の中で竜は考えました。

もう一度笑ってくれるだろうか、それとも怒っているだろうか。

もしかしたら二度と湖には来ないかもしれない。

そう考えるだけで、胸の奥が凍ったように痛みました。



湖の雪が解けるころ、竜は再び湖へ降り立ちました。


彼女は居ないのではないか、という不安は湖が見えた時に吹き飛びました。

はやる気持ちを抑え舞い降りると、あの子は大きな青い目を零れそうなぐらい見開いて次の瞬間とびっきりの笑顔を浮かべました。


何度も転びそうになりながら彼女は竜へ駆け寄って、翼を折り畳んだ竜に飛びついて。

竜は少し肝を冷やしましたが、彼女の顔を見るとグルグルと喉を鳴ならしました。


それから三度の春が巡りました。


冬は春を想いながら雪解けを待ち。

春になれば湖のそばでゆっくりと時間を楽しむ。

最初と同じように、時は流れます。


いいえ、ほんとは変わっていました。

あの子は少しずつ美しい大人の女性になり、竜の太陽の光で輝きの変わる瞳もますます深みを帯びました。



ある日、彼女は泣いていました。

いえ、泣いていたというのはいくらか語弊があるでしょう。空と同じ色の瞳に今にも零れ落ちそうなほど涙をためて、それでも微笑むのです。


「もう、会えないわ」


彼女は竜の鼻先に淡い黄色の花で作った花冠(かかん)をそっとかぶせました。

それは若い人間の男女が春先に花束にして交換し合う、ふんわりとしたやわらかい花弁の花でした。

甘い香りに鼻をくすぐられ目を細めた竜に、彼女は(うれ)いを帯びた瞳を伏せました。

そうして、小さく微笑みました。


「さようなら」


その顔を見た竜は動くことすらできませんでした。なぜそんな顔をするのか、問いかける声がありませんでした。

そうして彼女は湖に来なくなりました。



あの子最後の言葉の理由は、そのあとすぐにわかりました。

風や動物たちが、彼女と領主の結婚式が行われるという知らせを運んできたのです。

雷を身に受けたような衝撃に、竜の縦に裂けた瞳孔は糸のように細まりました。


結婚、結婚?

だったらなぜあの子はあんな顔をしたのでしょう。竜だって知っています。結婚とは祝福されるものです。愛される人同士が結ばれる幸せな行事と聞きます。

彼女が望んだのなら、あんな悲しそうな目をするはずがありません。


竜は雄々しく翼を広げ穴倉から飛び出しました。胸に静かな決心を抱いて。


戸惑うことはありません。

竜はすべてに恐れられる生き物です。

ならば自分がなってしまえばいいのです。

おとぎ話に登場するような、邪悪で凶悪な竜に。

姫をさらうおぞましい化け物に。



結婚式の当日、突如現れた影に広場は騒然となりました。


いきなり現れたおぞましい化け物に、平静を失い混乱に陥いる人々。ざわめき、泣き叫ぶ声、甲高い悲鳴。

その群衆の中で、ひとり唖然と化け物を見つめる美しい花嫁。

彼女を見つけて、竜は柔らかく目を細めました。

彼女は隣で腰を抜かして後ずさる親子ほどの年の差があるだろう男を押しのけ、竜に向かって駆け出そうとしています。


その様子を見て、慌てて竜は彼女の方へ飛びました。

危ないところです。彼女が自分から来てはいけないのです。

あくまでも恐ろしい竜にさらわれたのでなければいけないのです。

鋭い爪で傷つけないように、けれども決して落とさないように、力加減に細心の注意を払って竜は彼女をやわらかくつかみます。


続々と兵たちが広場へかけつけてきました。

花婿が花嫁を取り返せと躍起になって叫んでいます。次々と飛んでくる矢から彼女を守るように身体につつみ、竜は近づいてくる兵たちに牽制(けんせい)の炎を噴きました。


矢は別に痛くありませんでした。竜のうろこに傷をつけれるのは鋼の武器だけです。

兵たちが炎を避けるときにできた、その一瞬の隙を使い、竜は勢いよく空へ駆け上がりました。

ざわめきと悲鳴が一段と高くなりました。

空中へ飛んでしまえばこっちのものです。人は追いかけることができません。

風を切り、竜はみるみるうちに町から遠ざかっていきました。


町や人里からだいぶ離れると、竜は彼女を背に乗せなおし空を飛ぶ速度を下げました。

乗り心地はあまりよくあいだろうに、彼女は背の上で微笑むばかりです。空色の瞳を瞬かせると、弾むような声で竜に尋ねました。


「わたしを助けに来てくれたの?」


竜は何も答えませんでした。

そんな彼に小さくはにかむと、彼女はうろこに覆われた頬に柔らかな手をそえました。


「ありがとう」


竜は答える代わりにちいさな手に頬を寄せました。

彼がグルリと喉を鳴らし目元を緩めると、彼女は花が咲くような笑みを浮かべました。



竜の住む洞窟につくと二人は一気に忙しくなりました。

人が住めるように洞窟を整え、人間の食べれる薬草や木の実をさがして、これからの生活に備えていくのです。

とはいっても、竜は彼女の指示通りに動くだけでしたが。荷物を運びこみながらちらりと覗き見た彼女の表情は、いままでみたことがないくらい生き生きとしていました。

一通り片付けが終わると、それからは二人で竜の採ってきた魚を焼いて食べたり、一緒に果実をつみにいったり。

竜はなにも食べなくても平気でしたが、彼女があまりに嬉しそうに竜を見るので、彼女の作った料理をもそもそと共に食べました。

そうそう、あの豪華な花嫁のドレスは上等な毛布代わりになりました。


彼女は一日中あれこれと働きまわり、竜の世話をしたがりました。

そしてなにもすることがなくなると、かならず彼の隣へ寄り添いにきました。


静かで穏やかな日々でした。

くすぐるような胸の高鳴りも、鮮やかに彩られていく日々も。

永いながい日々を生きる竜にとってもそれはあまりに愛おしく。

あの子も同じ想いだったのかも知れません。洞窟に来てから彼女は以前のような曇りのない顔で笑うようになりました。

どうか同じ想いでいてほしい。

彼に抱きつき寝息をたてる愛し子を見つめ、竜は目蓋を閉じました。



しかし、楽しい時間は長く続きません。風が新たな噂を運んできました。

花嫁をさらった凶悪な竜。

その竜に怯える人々に、ついに王国が動きだしたのです。

都で竜の討伐隊が編制され、討伐命令がだされました。



穏やかな風が吹く、春も終わりが近づいた日。


風が運んできた森の香りと、それに混じった人間と鋼の匂いに、竜はついにその時が来ましたのを知りました。

いつもと違う竜の様子に、女のほっそりとした手が心配そうに彼の喉元へふれます。


「どうしたの?」


安心させるようになでる手に、竜は気持ちよさそうに目を閉じました。


竜が彼女の手、首筋、そして頬にスンスンと鼻を寄せます。

彼女はくすぐったそうに笑い、そしてもう一度いつものように心を込めて美しいうろこを撫でました。


しばらく静かな時が過ぎました。


やがて彼女の手が止まり彼の大きな首筋に抱き着くと、竜はゆっくりと目蓋を開きました。静かな決意を胸に秘め。



竜は女を担ぐと、宝物庫へつれてゆきました。


そこは、彼の大切なものを集めた部屋です。ここなら、万が一にも戦いに巻き込まれ彼女が傷つくことはありません。

背から彼女を下ろすと、竜は静かに向き直ります。

彼の凪いだ海のような穏やかなひとみに、女は胸騒ぎを覚えました。


「ねえ、どうしたの?」


竜は何も答えませんでした。ただあご上げ彼女に穴倉の奥へ行くように促します。そんな竜に、女は震える声で言いました。


「いやよ、置いていかないで。もしかしてわたし、悪いことしてしまった?」


今にも泣きだしそうな声です。

竜は困ってしまいました。

別に彼女を一生ここへ閉じ込めるつもりじゃないのです。

ただ外が危ない間だけ、此処にいてほしいのです。

長い間、二つの視線が交差していました。

そしてしばらくたった頃。じっと諭すように見つめてくる瞳に、とうとう彼女が折れました。


「……きっと、すぐに迎えに来てね」


ゆっくりと、石の扉が閉まります。

竜は扉が閉じられてしまうまで、ずっと彼女を見ていました。


女を宝物庫へ非難させ、竜はほっと小さな息を吐きました。

比較的わかりやすいあそこなら、騎士たちは彼女の居場所に気付くでしょう。

岩の扉は彼女一人の細腕じゃ無理でも、鍛え上げられた騎士たちなら開けれます。



風はたくさんの噂を竜のもとへ運んでいました。

王が今回の事件を事細かに調べられたこと、あの領主が咎められたこと、そしてあの子を無理やり花嫁にするのを禁じられたこと。

王は公平な方と聞きます。もう二度と彼女があの領主の花嫁させられる事はないでしょう。


彼女は無理やり領主に請われ、そして竜に攫われた哀れな花嫁。

間違っても罰を受けることはありません。



静かに騎士を待ち受ける竜のもとに、ふいに鋼の矢が飛び込んできました。

息をつく間もなく次々と射られる矢に、竜が唸りとともに浅く刺さった矢を振り落とします。


その時でした。

竜のもとへ一斉に雄叫びを上げた騎士たちが傾れ込んできました。


囲まれ矢を放たれ、四方から切り付けられ身体に鋼の槍と弓が深々と突き刺さります。

炎の息吹きを吐こうとすると、素早く間合いを詰めた騎士が竜の喉元へ槍を突き出してきました。それを鋭い爪で振り払うと、竜は地に響くような咆哮をあげました。


「追い詰めろお!奴を空に逃がすなっ!」


うめく竜の前に一人の騎士とび出しました。


騎士は素早く地を駈けると、竜の右目へ剣を突き刺しました。痛みに呻きながらも竜は、騎士の頭部へ爪を振り下ろします。

騎士は紙一重で後ろへ跳び、爪を紙一重で避けたようです。

それでもわずかに爪の先が当たったのかカランと、騎士の頭部の鎧が弾け落ちました。


竜は目を見開きました。


鎧の下に隠されていた、騎士の精悍な顔が外気へさらされました。

その顔に受けた竜の血をそのままに、青年が竜へ挑むように視線を向けています。

鎧を壊されてもなお、彼の瞳には力が宿っていました。


目が覚めるような思いでした。


彼は持っていました。

鱗に覆われることのない、竜がどんなに望んでも手に入らぬ人の顔を、

恐ろしい鉤爪ではなくあの子を抱きしめられる立派な腕を、

彼女と共に、同じ時を歩むことができる地をゆく足を。

そっとふれるのにも壊してしまいそうでためらう竜とは違い、彼女を傷つけたりしない人間の(同じ)体を。


自分の歪さを、人とは決して交われぬ者だということを、いま一度思い知らされたような気がして竜の動きがわずかに止まります。


竜が目を見開いたのは、ほんの一瞬でした。

そのわずかな隙に、騎士たちは次々と竜へ斬りかかります。

それを強引にふり払い、竜は無我夢中に後ずさりました。

気がつけば、あと一歩で崖というところまで来ていました。



騎士が最後の一太刀を、竜の胸に斬りつけました。

(やいば)を受けた竜はバランスを崩し、崖から落ちていきます。

おわったのだ。竜は思いました。さびしくて哀しくてそしてわずかな安堵とともに。

これで、ぜんぶ終わったのだ。



そのとき、谷底へ崩れ落ちていく竜の耳に、絹を裂くような悲鳴が聞こえました。片目を上へ向けると、宝物庫にいるはずのあの子が、絶望に凍り付いた表情で竜をみていました。


竜は自分の姿を確かめました。

いまや彼女が愛した自慢の鱗も翼も、槍や矢が突き刺さりボロボロでした。彼女と視線を交わし会った瞳も、片目が無残に潰れています。


そうする間にも竜の鈍虹色に輝く鱗は剥がれ落ち、七色に輝きながら谷底へ落ちていきました。


竜は渾身の力を振り絞り、翼を広げました。

付け根からもげてしまいそうな痛みをねじ伏せ、唸りを噛み殺し、穴だらけの翼で風を受けます。


ここで死んではいけない、

強い想いが竜を動かしました。

どこでもいい、あの子から見えないところに。

風に乗り、彼の身体は空へ舞い上がりました。谷をぬけ、山を越え、いくつもの町をすぎ。



翼が風を受け止められなくなり、竜は地面に叩きつけられました。

霞む片目で見た光景に、竜はふと穏やかな吐息をもらしました。

力尽きて落ちた場所は、どこかあの湖に似ていたからです。

もうおぼろにしか見えない目を眇め、胸によぎったのはあたたかくやさしい日々の群れ。抱きしめたいほどに愛おしい記憶たち。抜けるような青空の色と同じあの子の瞳。



あとひとつ、ひとつだけ、やらなくてはならない事があります。

最後の力を振り絞って立ち上がると、竜は大地を揺らすような咆哮を上げました。

ながくながく、息の続くかぎり。喉が裂けんばかりに痛んでも。


いななきは山々にこだまし、この国を駆け巡ります。谷をぬけ、町を通り、山を風のように駆け、あの子の場所まで。


あまくやわらかい、いつかの花の香りが鼻孔をくすぐりました。足元にこぼれた薄黄色の花弁が風に揺れています。

空を見上げるように首をもたげ、竜は浅く息を吸いこみました。


そして、ゆっくりと動きを止めました。



それっきりでした。



まだ伝説の生きものが生きていた時代、人を愛した馬鹿な竜の一生です。



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