幸せになりたいくろい少女
こんにちは火野村です。
もしかしてオリジナルものは初めてなんじゃなかろうか。
突発的に書いた話です。
わけわかんない根暗な話ですがよろしくお願いします。
しあわせな話なんて、私が書くべきじゃないと思う。
まったく架空の、文字の中のキャラクターたちはずっと笑っている。
私なんかが書いていいものじゃないと思う。
「『とっても面白かったです』…『こっちまで幸せな気分になりました』…」
優しい言葉。正直に嬉しい。とても嬉しい。けど、違う。
私なんかがもらえる言葉じゃない。
「『コメントありがとうございます。そう言われるとほんと嬉しいです』…」
「『更新しました。キャラクターたちをほんと幸せにしてあげたい!』…」
今日も私は、幸せな話を書き続ける。
*
かたかた、かたかた。キーボードを打ち続ける。
文字の中ではキャラクターたちが幸せそうにしてる。
ほら、また。ヒロインが笑った。
主人公も笑った。ヒロインがうれし泣きをし始める。
「…幸せそうにしやがって。」
私は苦笑した。ずり落ちる伊達眼鏡を直した。
苦笑の中に隠した本音は一生私しか知らない。
私は奥歯を噛みしめた。ぎりりと音が鳴った。
涙の中の欲望は永遠に誰にも知られたくない。
「…幸せになりたいってのは、贅沢なことかい?」
昨日見たライトノベルの主人公みたいに言った。
言葉は肌寒い虚空に消える。
ぽろりぽろり涙を流す私はヒロインとお揃いだ。
だけど私の涙は冷たい涙だ。
ヒロインの涙は温かい涙だ。
「幸せそうにしやがって…。」
ヒロインを優しく主人公の腕が包み混む。
涙の雨はやみそうにない。
*
私のペンネームは「くろ」。
理由なんてない。ただ本名をもじっただけだ。
そんなメジャーでもなさそうな小説サイトで小説を公開してる。
サイトで仲がよくなった人には「くろさん」とか、「くーちゃん」とか呼ばれてるけど、そんなことは別にどうでもいい。
私の小説は主にしあわせな話ばかりだ。
本当の自分は根暗で弱くて内気で暗いオーラを放ってるのに。
主人公はたいてい好青年。
ヒロインはたいてい美少女。
似合わねー。
その一言が本当ぴったりな話ばかりだ。
「なんで私こんなことしてるんだろ」
作品の数はもうかるく両手の指の数をこえている。
アクセス数だってすでにかなりの数になっている。
もう後にはひけないよって、言われてる気がした。
「『くろさんの幸せな話が大好きです』…」
幸せな話なんて、こんな私に書く資格ないのにな。
*
父親はいない。
母親はいる。
姉もいない。
弟もいない。
兄はいない。
妹はいない。
「かつて少女の家には母と父と姉と弟がいました」
「今は、母以外の人はみーんないなくなりました」
だってとらっくにはねられておほしさまになっちゃったんだもの。
みんなのちがわたしのほうにとんだのをいまでもおぼえているよ。
わたしちでまっかになりながらなきさけんだのをおぼえているよ。
「しょうじょはしあわせでした」
「おおきくなったしょうじょはしあわせではありません」
「でもしあわせになりたいとおもっています」
「しあわせになれないともおもっています」
「しあわせなはなしをつづりながら」
もう次でこの作品は終わりだな。
今度の作品は幸せな家族の話にしよう。
前にもかいたけど、ちょっと違う話にしよう。
あれ、おかしいな。
「しょうじょはなみだがとまりません」
*
かたかたかたかたかたかた。
私の部屋にキーボードの音がひびく。
久々に主人公が女の子の話だ。
幼なじみの男の子との恋の話。
「『かわいいなんて言わないで』」
勘違いするじゃない。
主人公はひとり赤くなって言う。
幸せそうだね。
そうね。
「幸せになりたいのは誰?」
だん!
エンターキーをおもいっきり押して呟いた。
主人公でもない。
ヒロインでもない。
ライバルキャラでもない。
モブキャラでもない。
「…私は…?」
バックスペースの文字が書かれたキーに指を置いた。
しあわせな話は消えていく。
「しあわせになりたいのは
しょうじょじしんです」
幸せになりたいのは少女自身です。
*
次の話は少女の話を書こう。
「くろいしょうじょのはなしを。」
幸せになりたいのは誰でもなくて誰だってそうで。
少女であって少女でないんだ。
次の話は家族の話を書こう。
「しあわせになれなかったかぞくのはなしを。」
その家族はは幸せになりたいと今でも願っているけれど。
幸せになりたかったのは少女自身です。
幸せになりたいのは少女自身です。
少女はただキーボードを打ち続けた。
ありがとうございました。
すみませんでした。
主人公にモデルはいません。実際「くろ」というペンネームの方がいたらすみませんでした。
誹謗・中傷の意図は一切ありません。