第5話「最後の言葉」
トスッ
首に何かが刺さった。
敵なんかいないと思っていたので、顔周りの結界を解除してあったのである。
「なっ!!!?」
急いでそれを首から引き抜く。
注射器だった。
羽根のついた注射器。
なんでこんものが・・・。
そう思う間もなく強烈な眠気が襲ってきた。
「くっ!!」
一気に全身の力が抜けていく。
そのことに気がついた周りの市民が何人か悲鳴を上げる。
刺さってからかなり素早く注射器を抜いたのによく気付いたな・・・。
なんて考える余裕さえない。
乱れていく魔力をなんとか整えて、周囲を観察して・・・・。
「見つ・・けた・・」
注射器が飛んできた方向を知覚の目で凝視すると銃を持っている男を発見。
「天女の・・・羽衣・・」
そういった俺の巫女服の袖から半透明のリボンが伸びて、一瞬で男を簀巻きにする。
リボン越しに、男の思考を読む。
『見つけてくれた!俺だけの・・・!!俺だけの舞姫だ!俺から迎えに行こうと思って眠ってもらったけど、君から来てくれるなんて感激だ!
さあ!一緒に行こうよ。
俺は君のために生まれてきた。君は俺のために生まれてきたんだ!』
精神が病んでいる・・・・。
考え事をしていたとはいえ、殺気がなかったので気が付けなかった。
殺してやろうかとも思ったが、やめておく。
こんなやつ殺す価値もない。
羽衣を切り離して簀巻きの状態の男を放置する。
注射器に気がつかなかった周りの市民たちや後方の魔法使いたちは、突然『天女の羽衣』を出した俺に驚いているが、今はそれどころではない。
一体どんな薬を使ったのか分からないが強烈な眠気は一向に覚める気配がない。
「く・・・・そ・・・」
俺は耐えきれなくなって片膝をついた・・・・・・、
強烈な魔の気配を感じた。
正面の50mほどの距離、地上から5mくらいの位置に何かが現れた。
普段の俺ならなんともない距離。
普段の俺ならたいした事の無い魔物。
けども、・・・・・今は違った。
全身が紫色で象並みの大きさ、動物というより、形を捉えづらく不定形で無機質に近い身体を持った魔物は、空間の亀裂のなかで真っ白な魔法使いを見ていた。
あいつを食べたい。
そう思ったが、ついさっきおいしくなさそうな魔法使いと戦ったときに怪我をした。
だから今食べに行ってもやられてしまうかもしれない(無傷でも殺されるが本人は気づいてない、所詮けものだから)。
だけどチャンスが来た。
真っ白な魔法使いの魔力が突然乱れ始めたのだ。
フラフラと頼りなく、今に倒れてしまいそうだった。
今なら・・・・、
殺せる。
意思のある魔物は涼を殺すために空間から這い出した。
魔物は空間の裂け目から姿を現して1秒も時間をおかずに、その不定形で生物のようで無機質の硬さをもっている体表から、直径10cmで長さ1mはある棒状の物体が突き出て、涼に向かっていくつも撃ち出された。
「ヴォオオオォォォォォォ!」
ドドドドドドドドドドドドドドド!
声というよりは音。
けっして生物には出せない異質な音を空気に震わせて、魔物は涼に攻撃を続ける。
涼は必死で朦朧とする意識の中リボン状ではなく、広げて羽衣状にして攻撃を防ぐ。
魔物の攻撃はただの質量てきな重みだけでなく特別な負荷も掛かっているらしく、羽衣1枚だと2発くらいで抜かれてしまう。
意識を保つため自分で自分の身体を傷つけるが、ほとんど効果がなく。
次々に飛来する紫色の棒を受け止めるため羽衣を幾重にも展開していく。
涼の戦闘のスタイルとしては受け流すほうが得意なのだが、注射器の催眠剤で意識がはっきりしないため『天女の羽衣』を精密に操作できないことと、受け流せば周囲の市民にまで被害が出る。
だから、ほんらい得意としない真向うからの攻撃を受ける羽目になっていた。
ここにきてようやく後ろにいた魔法使いたちが援護をしてきた。
しかし。
「やめ・・・・ろ・・」
涼はそれをとめようとするが声がかすれる様にしか出ない。
後ろの魔法使いたちでは束になろうがこの魔物は倒せない。
殺されてしまうのがわかる。
それを止めようとするが、涼が何も言えず、何も行動できないうちに彼らは動いた。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
「舞姫様から離れろぉぉぉぉ!!」
ドオォォン!
ガギギィィン!
キンキンキン!
魔法使いたちが攻撃するが魔物の皮膚を軽く引っ掻いた程度にしか傷を与えられなかった。
「ヴォオオオオオオオォォォォォォ」
魔物は奇怪な音を発すると、目ざわりとばかりに後ろの魔法使いたちに対して紫の棒を撃ち出す。
「くっ・・・・・・」
涼は魔法使いたちを守るために羽衣を広く展開する。
ドドドドドドドドドドドドドド!
ズバッ!
紫の棒を防御していた羽衣。
広く展開していたことで薄くなった防御を1本の棒が突き抜けた。
ドガッッ!!!
紫の棒は真っ直ぐに涼に向かって飛んできて、涼に直撃した。
巫女服の防御機構によって傷は負わなかったが衝撃で地面にたたきつけられる。
ななめ上からの攻撃は涼を吹き飛ばすのではなく、仰向けに倒れた涼をその場に縫い付けた。
ドカッ!
ドカッ!
一度抜かれるとあとは次々と棒が身体に当たる。
味方の魔法使いの1人がなんとか攻撃を防ごうと前に飛び出し、何本か耐えただけで肉片に変わっていくのを、涼は別の世界の出来事のように見ていた。
もはや『天女の羽衣』は紫の棒を半分ほどしか防御しておらず、羽衣を突き抜けた棒のうち3分の1は涼の身体に命中する。
「あ・・・ぐぁぁ・・、ぐぁぁあああ・・」
涼は棒のあたる衝撃と催眠剤によって半分以上の意識が飛ばされる。
碌な抵抗も行えず、されるがままとなっていた。
ビシッ!
それまで棒をはじいてきた巫女服。
その防御機構が不吉な音を立てた。
ビシビシッ!
パリィィィィンンン!
巫女服の防御機構が砕けた。
次の瞬間!
「うぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」
涼の右のわき腹に直径15cmの紫の棒が深々と突き刺さっていた。
魔物は攻撃をやめない。
棒は防御することのない涼の身体を蹂躙する。
右足の先が叩き潰される。
左手のひじの部分が半分えぐれて、腕はかすかにつながっているだけとなる。
右の肩口に当たり、涼の身体が衝撃で跳ねて純白の髪を血で赤く染めていく。
身に纏う白い巫女服は涼の身体を守ることはせず、傷跡から赤い血の染みを広げていった。
周りにいる人々は、この一方的な殺戮をなにもできずに、皆一様に蒼白な顔で見つめていた。
「あ・・・・ぅぁぁああ・・・・・ぅぁぁぁ・・」
涼が声にならないうめき声をあげる。
お・・・れ・・、死ぬ・・・・のか・・な・・・・・・
手を動かそうとして動かないことを気付いた涼は、最後に自分を殺すであろう魔物を見ようと、意識を手放しかけていた脳を動かし、瞳をあけた。
その眼には、紫色のよくわからない形の魔物が写る。
は・・・はは・・、みに・・・く・・いな・・・
・・死に・・・・た・・・・くねぇな・・・
そう考えて意識を手放す瞬間に・・・・
醜い紫色の魔物が粉々になったように見えたが・・・・
涼にそれを確認する力は残っておらず・・・・
静かに目を閉じた。
自分で書いていてテンション下がってきました。