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第9話「クレルの視点」

涼が攫われる数時間前・・・・・



「クレル様、待ってください!私も行きます!ぜひお供させてください」



青髪で丸顔をした子猫のような雰囲気の少女がクレルの後ろをアヒルの子のようについて歩いていた。


クレルはめんどくさそうに眉をしかめながらも歩くことをやめないで話しかけた。



「断る。一応、王に進言して侵攻と偵察という名目で人間界に行くが、今回の目的は完全に私用だ、連れていくことはできない。命令だ」



少女はまだ何か言いたさそうにしていたが、俯いてぶつぶつといっていたがついていくこと自体をやめることはしなかった。





王都から少し離れた施設の中にクレルと少女・・・サイールは立っていた。


施設といっても外縁を城壁に囲まれたかなり巨大なとりでといってもいい建造物だった。


その一室でクレルの前でかしずいている子供のような小柄の人物がいた、子供のような体格でもその顔はひどく歪んでおり、醜悪といってもいいかもしれない。



「ゼル、出撃する。数は低級250に中級20程でいい、すぐ用意できるか?」


「もちろんでございます、クレル様。5分未満で用意いたします」


「そうか、いつも仕事が早いな。(ゲート)に先に行っているから後から来い」


「かしこまりました」



クレルは踵を返して施設中央の中庭に佇んでいる(ゲート)に向かった。


・・・・もちろん青髪の少女、サイールが付いて行った。





「これか・・・」


「はい、そうでございます」



クレルの手には様々な色と大きさを持つ球が袋に入って270個渡されていた。



「必要ないと存じますが、規則ですのでご説明させていただきます。その球が魔物の卵のようなものになります。魔力を込めることで孵化いたします。魔物どもは魔力を与えられたものの命令を従順に従います。以上になりますが何かご質問はございますでしょうか?」


「ないな・・・、では行ってくるか」


「「「「行ってらっしゃいませ」」」」



(ゲート)の周りの護衛やサイールたちが声を合わせて送り出す。


人間界に繋がる100m程の高さの塔、その塔には場所や高さ関係なく20か所の光の穴のような、トンネルがまばゆく光っている。


クレルは浮かび上がると、そのひとつに進んでいき軽く手を挙げて後ろの声にこたえた後に光りの穴に入って行った。






太平洋沖の塔の中にクレルは来ていた。



「将軍!わざわざこんな場所の拠点に来ていただきありがとうございます!」


「気にするな、私用だ。お前らは気にしなくていい」



塔に常駐する兵に一言声をかける。


もちろん余計な気をまわして、俺の歓迎などに集まるなと釘をさしておくことは忘れない。


しかし・・・、と何かを言おうとした兵を無視してクレルは飛び上がり一気に加速、姿が見えなくなった。





確かそこそこの大きさの島だという報告だったな・・・・



クレルは先日聞いた情報を思い出した。



第11ゲートから西に向かった島国の魔法使いの話。

装束は白、髪も白、武器も白、白い色が好きなのかというほどの魔法の使い手であり、我が青婪軍(せいらんぐん)の幹部の1人と1200の魔物を、ほぼ1人で殲滅したらしいとの情報だった。

生き残った部下の話によるとだが・・・・

しかも、女であるという。

悪い冗談だとも思ったが、人間界には確かに私にも匹敵する魔法使いがいると聞いたことがあるからそいつと戦ったのだろう。

数は少ないらしいが・・・、それに当たるとは運が悪かったとしか言いようがない。



そして、興味を持ったクレルは実力を確かめるために、先ほど魔力を込めて生み出した魔物たちと共に例の島国に向かっていた。


しかし・・・・


いくら見ても不思議でならない。


ビー玉程度の大きさの球に魔力を込めただけで、なんで5mを超すような魔物が生まれるのか?


一気に魔力を込めたため肉が膨れ上がるかのように増殖する魔物たち。


クレルは知らないが満員電車から人が溢れだすのを上下左右で行うとこういう現象になるかもしれない。


その肉塊に潰されないようにすぐに距離をとって見ていたクレルは、魔物たちの体制が整ったところで移動を開始していた。





そろそろ島国の魔法使いに探知されるだろうという距離・・・・


クレルは自信を紫のベールで包み込み気配を完全に消して魔物たちの背後から追走する。


魔物たちは「敵と出会ったら殺せ、それまで止まるな」と命令してあるので問題はない。


そして、俺はその魔法使いと出会った。



衝撃的だった。


その容姿もさることながら、戦い方の無駄のなさに加えた美しいと呼べるほどの戦闘技術、時折聞こえる声は耳朶を刺激して何度も頭の中を反芻する。


生まれて初めての感情だった。



欲しい・・・・



あの女が欲しい・・・・



俺は本気でそう思った。


この女が人間だからとか、部下を殺した魔法使いだからとか、そんなものはどうでもよかった。


ただ純粋に、愚直に、欲望に忠実に、どんな手を使っても手に入れて見せる。



クレルにそう感じさせた。


しかし、いくらなんでもこの場でとらえることは容易くはないと感じた。


300近い魔物を瞬殺といってもいい速さで殲滅したのだ。



全力を見せてはいなかったのでわからなかったが、俺よりも少し弱いくらいか?


ここで捕獲しようと動けば確実に戦闘になる。


勝てなくもないが長引くことは必須だろう。


ならば・・・・


今の不可視の状態でばれてはいないのだ。


このまま様子を見て隙を見て捕えればいい。



1人そう考えると、帰還を始めた白い女を追って追い始めた、自身の魔力を与えた魔物の残骸を一顧だにすることなく・・・・・






その時は案外早く訪れた。


人間が白い女に何かを打ち込んだのだ、女は打ち込んできた人間を始末はしなかったようだが拘束してなんとか意識を保とうとしている。


しかし、時間がたつほどに白い女の魔力が乱れてきた。


このままではいずれ意識を失うかもしれない、そしたら連れ去ればいい意識を失っても高位の魔法使いは自衛の魔法を使っていることが多いので、多少痛めつけるかもしれないがあとで直せばいいので問題ないだろう。


と、そこまで考えていたら突然俺の左下の眼下の空間が割れて魔物が姿を現して白い女に攻撃を始めた。


俺の連れてきた奴ではないな、見た感じ上級か特級クラスの魔物のようだどこからか逃げてきたのか怪我をしている。



まぁ俺には関係ないが、白い女もよくやる・・・・


あそこまで魔力が乱れていて、あんなに戦えるとはな・・・・・



ますます欲しくなった。


と思案していると殺されそうになっていた。



さすがに無理があったか・・・・



俺は不可視の魔法を解除。

完全に油断している魔物を一撃でミンチにした。



「ご苦労だったな」



俺はここまで白い女を弱らせてくれた魔物に礼を言う、魔物自身はそんなつもりではなく殺す気だったようだがな。


これ以上失血しないように紫のオーロラで応急措置をしてさらに固定化させる。


そして怯えながらこちらを見ている周りの人間どもを一瞥して飛び上がった。




(ゲート)への移動中に白い女が光り出して男になった時はかなり驚いた。


なんとか女に戻す術式と、魔力封印などの術式を込めた腕輪型のオーロラを作ることに成功したときは心底ほっとした。


あの時はかなり焦った、男のこいつは好きになれそうになかったからだ、さっきの男の姿の女のことは忘れようと思った。


俺は女を捕まえたのだから・・・・



(ゲート)を潜り城に帰還した後は医療魔法使いに女を預けて、完治したら俺の寝室に寝かせておくことを侍女に指示しておいた。






数日して・・・・・


隣の寝室で寝ていた女が起きる気配を感じて寝室へと足を運んだ。



キィィィィ・・・


軋みを上げて扉が開く、最初はこんなに音はならなかったのだがあることが原因でこんなにうるさく鳴りだした。


そして、正面を見るとこちらを見つめながら困惑しつつも警戒した様子の少女の姿が目に入った。


数日間、寝ているときには布団に隠れて見えなかったがかなりかわいいドレスを着ていた、ドレスといっても寝巻に近いものではあるのだがそれでも、白い白銀の髪に金色の瞳が実に映えるドレスだった。


そんなことを考えながら白ずくめの少女に近づいていく。



「な・・・・なんだよ・・・」



俺が近づくことでさっきよりも警戒度を上げた様子だ。



「ほぉ、似合ってるじゃねぇか」



感じたことを素直に口にしたのだが、女はみるみる態度が悪くなっていく。



「うるせー!俺の趣味じゃねぇ!」



さっきと随分態度が違うことに驚きつつも苦笑する。



「ここどこだ!そしておめぇは誰だ!!」



こんな小柄の少女に怒鳴られたところでなんとも思わない。


クレルは肩をすくめる。



まぁ俺が攫ってきて言うのもアレだが、説明してやるか・・・・


注意も含めて。



「ここは魔界だ、お前らの住んでいる人間界とは次元の違う世界だ。そしてここは、王都ラディスオン帝国の城にある俺の私室だ。あと、「おめぇ」ではなく、バストマ・クレルという名がある、クレルと呼べ」


「ここがどこかは分かった。で、なんで俺はここにいるんだ!」


「俺がさらってきた。人間界になかなか強い面白い女がいると聞いていたのでな、観察しに行ったわけだ。そしたら、あの程度の雑魚魔物に殺されかけていたからな、助けて連れてきたってわけだ」



助けたことにすれば恩も売れるし、言うことを聞きやすくなるだろう。



「・・・・ありがとう。・・・一応命の恩人だから礼だけは言っておく、もう帰っていいか?」



帰すわけがない、お前はもう俺のものだ。



そして宣言する。



「それは無理だな、お前はこの俺の嫁になるのだから」



呆けた顔で俺の顔を凝視したままたっぷりと10秒は経っただろうか?


そこでやっと反応があった。



「は?」



短いものだったが・・・・



「聞こえなかったのか?嫁になれと言ったのだ」



明らかに女は混乱した様子で・・・



「無理!」


「拒否権はない。命令だ」


「いや無理だから。意味分からないから!」



断るとは思っていたがやはりか・・・・


説明するのもめんどくさいが仕方がない、俺の嫁のためだ頑張るか・・・・



そして、魔族の嫁事情の説明をして腕に付けたリングの説明もしてやる。


はっきり言って面倒くさかったが、女の反応が面白くて嫌ではなかった、むしろ話している途中で女は睨んでいるつもりだったらしいが、俺からしたら上目づかいで見つめているだけのような状況があり、激しく動揺したりもしたがなんとか目をそらすことで、その動揺は隠せただろうと思う。


そして一通り説明して最後通告してやる。



「分かったら嫁になれ。これはもう決定事項だ」



だが女は俺を無視して腕輪をはずそうとしている。


俺のオーロラ型の腕輪は空気のようなものなので外すことはできないのだがな・・・・



いつまでやっているのか・・・・


これは、あの手を使わないと納得しなさそうだな、自分から俺のモノになってほしかったがいきなりはさすがに無理があるか・・・



クレルは溜息を吐いて手招きをする。


「とりあえずこっちに来い」


「断る!近づくな!」


「ったく・・・」



頑なな奴だ。



一瞬で女の後ろに回り込み肩に担ぎあげた。


悲鳴を上げながら何かしら喚いているが無視して部屋の外へと出た。





「は~な~せ~よ~!」


肩に担いだ状態で暴れられるとバランスが崩れて不規則な歩き方になる。


いいかげん煩わしくなってきたので黙らせることにしよう。



「うるせぇ!」


パンッ!


思いっきり尻を叩いた、多少手加減はしたがドレスの上からなのになかなか小気味のいい音がした。



「ひゃあっ!」



思ったよりもかわいい反応をする・・・・


もう一度聞いてみたいな・・・・



「はっはっはっは、かわいい声で鳴くじゃねか」


「痛っ!にゃっ!うぅぅ!ちょっ!もぅっ!やめっ!」



そう言いながら何度もたたいていると「も・・、もう!あばれっ!ないっ!から・・!」と泣き声で言ってくるので叩くのをやめる。



もっと聞きたかったんだがな・・・・


そう思いながら、最後に釘をさしておくことは忘れない。



「最初からおとなしくしていればいいんだ」



そう言って干からびた昆布のようになっている女を担いだまま地下の牢屋を目指した。





牢屋の通路でどうでもいい会話をしながら人間が収監してある牢へと近づく。


そこには以前、部下が攫ってきた人間が20人ほど押し込められていた。



まったく、あいつが何を考えているのかは分からないが今は都合がいい、使わせてもらうとするか・・・



「なんで、人間がいるんだ?これも嫁とかにするつもりか?」


「これは、お前のために用意した人質だ。俺の嫁にならなければこいつらを1人づつ殺す。わかったか?」



俺は満面の笑みで女を見つめ返す、絶対に逃がさないという思いを込めて。



「そんなの卑怯だ!それに俺は男だって言っただろ!」


「そうか・・・、残念だ」



殺す気はない、ただ殺意は本物のモノを醸し出しながら、いつもなら一瞬で発動できる魔法を、時間をかけて練っていく。


それはまるで死へのカウントダウンのように・・・・


女は今にも泣きそうな顔して絞り出すように叫ぶ。



「分かった!なるよ!なる、お前の嫁になるからその手を下せよ、・・・な」


「そうか、それは良かった」



もっとその顔見ていたかったが、この暗い場所ではよく見えない、嫁になるという言質は取ったのだ・・・、時間はいくらでもある。

これから様々な顔を拝ませてもらおう、この俺の手で・・・・・



クレルはニヤニヤとしながら元来た道を戻り出した。


後ろに涼を連れて。






「・・はぁ・・・はぁ、ところでさ~・・、お前はいつから・・・俺に目をつけたんだ?」



一生懸命に俺の歩幅についてくる女が何か言ってきているが、それよりも気になっていることがあった。



「おい・・・」



呼びかけて立ち止まると、後ろから走ってきた女が俺にぶつかった。



「うわっと・・・、なんだよ!」



そういいながら俺の腹をなでている、いったい何をしたいのかが分からない。



「何をしている・・・。いや、どうでもいい・・・・、貴様はこれから『俺』と言うことを禁ずる。なんか気に入らん!あと俺のことはクレルと呼べと言ったはずだ」


「お前のことをクレルと呼ぶのは別に問題ない・・・。だけど、俺と言うのを否定されるは嫌だ。俺はあくまで男だ!」


「前に言ったはずだ、貴様に拒否権は無いと、『俺』ではなく『私』と言え、さもなくば人質を殺す。わかったな」



これでいい。


女なのに男のような口調がどうもしっくりこなかったのだが、これだけ脅しておけば大丈夫だろう。



そう言ってクレルは歩きだした。


と・・・、後ろでぶつぶつという声が聞こえた。



「何か言ったか?」



そう言うとしどろもどろになりながらも女がなんとか取り繕うとしている、絶対に何かを隠しているだろう・・・・



「え・・?あ~~、その~、あれだ・・・・、そう・・名前!俺のな・・・じゃなくて、あっと・・、わ・・・わた・・・わたしの名前は涼だ!貴様じゃない!おま・・・、クレルも、お・・・わたしのことは涼って呼べ」



そのほほを上気させながら話している姿を見て、勝手に手が女・・・いや、涼の頭の上に置かれた、が・・・ただ撫でるはつまらないので思いっきり押し込むようにぐりぐりと撫でつける。



「それもそうだな、これからは名前で呼ぶとしよう・・・・涼」



「いいかげんにやめろ!」


いつまでも続けていたかったが手を払われた、ささやかだが俺の希望は叶った、女の名前を知ることもできた。


クレルは上機嫌で再び歩き出したのだった。






部屋に戻ってからの女・・・涼はさっきまで不機嫌だったとは思えないほどに楽しそうに部屋を物色している。



こんな平凡な部屋の何が面白いのか・・・・


だけど、なるほど・・・こんな一面もあるのか。



そんなことを考えながら、クレルの部屋付きの侍女であるリレイに紅茶を入れてもらって椅子に座ってゆっくりと飲む。



紅茶を受け取るときリレイがニヤニヤしていたのが気になったが、あえて無視しよう、こいつは絶対に碌なこと考えていない。



のんびりとしていると涼が近づいてくる。



「……これ、はずせ」



ある程度予想していたことではある。


こんな敵地のど真ん中で無防備な状態など不安なのだろう。


もともと魔力はある程度戻してやるつもりだったので(やぶさ)かではないがな。



そして、いろいろと駄々をこねた(魔力量・ドレスの件・寝室など)が全て納得させたら、あきらかに不機嫌だという態度で出て行こうとする。



「どこに行くんだ?涼」


「散歩だよ、さ・ん・ぽ」



全く・・・、しばらくは俺と一緒にしか行動はさせるつもりはないのだがな・・・・


後で言っておくか、誰か来たようだしな。



コンッコンッ



涼が扉をあける前に誰かによってその扉がノックされた。



「入れ」



金髪の騎士甲冑を着た男が入って来た、こいつは王の近衛だ。


ということは今回の報告だろう・・・



「王がお呼びです。そこの人間も一緒に連れて来いとのことです」



最悪だ・・・・


いつかはばれると思ったが早すぎる。


王のことだ、何をするかが全く予想ができない・・・・


だが、行くしかないか・・・・・



「涼、着いてこい」



そう言うと涼は「・・・・分かったよ」と言いながら、明らかに渋々と着いてきた。






王の間の扉の前。


涼に魔力を全て戻してやって、どうでもいい雑談をしているうちに着いてしまった。



気合を入れなければならない。


せめて、王が涼を殺すことがないように守らなければ・・・・・



「入るぞ」



そう決意しながらクレルは王の間へと踏み込んだ。







今の状況は運が良かったのか、悪かったのか・・・・


ある意味ではよかったかもしれない。


涼が王の機嫌を損ねるということがなかったため殺されることがなかったからだ。


しかし、これから死ぬかもしれない・・・・


この俺の手によって。


魔族のキスは命懸けだ、種を残すという行為である性交渉よりかは生存率が高いが、それでも女の魔族は多くのリスクを背負っている。

涼は人間だが体の構造は魔族とほぼ変わらないことから、おそらく我々魔族と同じような現象が起こるだろうことが推測できる。


つまり、女の魔族はより高位の男の魔族よりも一定以上力が下の場合は死ぬ。


少しずつ慣らすつもりだった・・・・・


人間が相手でもあるし、涼は俺よりも若干だが魔力量などが下回る。


耐えられる程度の誤差ではあったが不安要素が多すぎるのだ、ようやく手に入れた俺の伴侶となれる女を死なせたくはなかった。


だが、無理かもしれない。


涼が耐えられることを祈るのみだ。



俺は・・・・涼とキスをしなければならない、王の命令で・・・・


半端なことをすれば王が機嫌を損ねることは今までの経験上嫌というほど熟知している。


王が満足するまでキスを続ける。


それまで死なないことを祈るのみだった。



俯いている涼に近づく。


俺の葛藤は一瞬。


王の命令ならば聞かなければならない、意見は許されてはいるが拒否しようものなら将軍職にいる俺でも殺されるからだ、結局自分が大事というわけだな・・・・



目がかすかに潤んで、不安と恐怖の入り混じった表情の涼の顎を持ちあげる。



「涼・・・、死ぬなよ」



俺は声をかけた瞬間に我に返ったかのように困惑の表情を浮かべる涼の瑞々しい唇を奪った。



「え・・・、な・・に!?ふぅぐ・・・」



刹那の抵抗も許さずに右手で顎を押さえて、左手で腰を引き寄せる。


始めは驚きからか抵抗らしき動きをしていたが、舌を口内にねじ込み蹂躙するかのように涼の舌を絡め捕り、味わっていく。



「・・ふ・・・んぅ・・、ぁぅ・・・・・んんぅぅ・・」



唇を奪った瞬間から俺の魔力が涼に流れていくのを感じる、時間にしたら1分にも満たなかったであろう時間。


その間に俺の魔力が涼の体を駆け巡り侵していくのがわかった。


そして・・・・、涼は死ぬことなく、俺のうでの中で頬を上気させて荒い呼吸を繰り返しながらも気絶していた。



生きていた!



死ななかったという喜びもあったが、それにも増して俺との相性の良さに歓喜さえ覚える。


今、腕の中で寝ている少女が愛おしい。



「ほう・・・、生き残ったか。しかも、初めて受け入れたにもかかわらず身体に微細な傷もないとはの~、クレル・・・ずいぶん相性のいい女を見つけたようだの」



そう言って王は口角を上げて心底楽しそうにクレルの腕の中で寝息をたてている銀髪の少女を見つめる。



「王・・・、涼を休ませたいのですがよろしいでしょうか」



クレルは自身の魔力を受け入れたことで、今は規則正しくすぅすぅと寝ている少女をしっかりと腕に抱いて退室の許可を求める。



「あぁ、よいぞ。ゆっくりと休ませるがいい」


「ありがとうございます」



涼をお姫様だっこした状態で恭しく礼をして、クレルは自身の部屋へと戻っていった。






クレルの寝室。


ベッドに寝かした涼を見ながらクレルは笑みを浮かべる、それは実に楽しそうに・・・・



「これからが楽しみだな・・・・、涼」



その言葉を涼が聞けば反論の一つでもしただろうが、寝ている状態の涼にそのセリフが聞こえるはずもなく。


日は既に地平線に沈む時間だった。




お待たせいたしました。


別に書きたくなかったというわけではないのですが、いろいろありまして・・・・


年末年始、インフルエンザ、定期テスト、とどめにパソコンが諸事情により壊れて使えなくなるなど、まぁそんなことがあって書く気が減退していたりしました。



これからの更新は大体1カ月おきくらいになりそうな感じです。


ご理解のほどよろしくお願いします。

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