5
その日の夜だった。
「ただいま」
お父さんが帰ってきた。
「おかえりなさい」
私は笑顔で迎えた。
私が寝た後にこんな会話がされていた。
「昨日、警察から連絡があったよ」
「あなた、どうするの?」
「何もしないつもりだ・・・」
・・・・・・・・・
『まだ来ないのかな?』
『うーん』
『お姉ちゃんと遊びにいこうよ』
『ちょっとだけだよ?』
・・・・・・・・・また夢。
あの続きなのかな。
・・・私、着いて行っちゃったよ。
うーん。
私は伸びをした。
7時か。
この日の放課後。
「今から、警察行ってくる」
「えっ!!」
「向こう行かなきゃダメなんだって」
「頑張ってね」
由紀は私の肩を持って力強く言ってくれた。
「うん。ありがとう」
私は由紀に感謝しつつ近くのコンビニに向かった。
駐車場には乗用車が停まっていた。
「有沢さん」
「どうも」
私は刑事さんに促されて車に乗った。
車内には沈黙が続いた。
「今までごめんね」
刑事さんはそう切り出した。
「え?」
「いや、僕たちも話を聞いた時から言ってあげたかったんだ。また苦しませてしまうかもしれないけど・・・」
「良いんです。自分が聞きたいので」
「意思が強いなぁ」
刑事さんは笑いながら言う。
警察署に着いて部屋に通された。
「さっそくですが、有沢さん」
「・・・はい」
私は緊張していた。
「これを見てくれますか?」
「これは?」
刑事さんは1枚の紙切れを見せてくれた。
「15年前の記事なんですが・・・・・・」
「・・・久保田未来・・・」
「この顔、見覚えありませんか?」
「え・・・これ私に似てる」
「この写真あなたなんです」
一瞬理解出来なかった。
私は写真載る様な事はしてない・・・はず・・・だと思ってた。
「・・・あなたは・・・誘拐されたんです」
え?
ちょっと意味分かんない。
「ど、どういう事ですか?」
そう聞くと40代の刑事さんが説明してくれた。
「ホントの君は久保田未来なんだ。有沢未来じゃない」
自然と涙が出てきた。
刑事さんの説明では、私は2歳の時に久保田家から誘拐され、有沢未来になった。
らしい。
じゃあ、今までのは何?
育ててくれたのは親じゃなかったの?
・・・私にとっては親なんだよ。
分かんない。
私は頭を抱えてしまった。
それを見かねた刑事さんが言った。
「少し休もうか」
とお茶を出してくれた。
でも飲む気になれなかった。
「・・・刑事さん、私何をすれば良いんですか?」
「・・・そうだな。君はどうしたい?・・・君がしたい様にしてくれて良いんだよ」
「え?」
私のしたい様にって・・・?
私はこの事を聞いて、どう思った?
確かにビックリした。
でも・・・でも・・・ちゃんとここまで育ててくれた。
むしろ感謝・・・してる。
「ホントの両親には会えますか?」
私をまっすぐ刑事さんの眼を見て尋ねた。
「いつでも」
笑顔でそう答えてくれた。
「まだ会いたい気持ちはないんです。・・・だけど、会いたいと思う日がくると思うんです。だから・・・」
「その時は連絡くれれば良いから」
刑事さんは優しく言ってくれた。
「ありがとうございます」
私は少し泣きそうになった。
警察ってこんなに優しいんだって思ってしまった。
警察から帰って私は両親に話した。
「これ・・・・・・」
その時の記事を見せた。
お母さんが慌てて言った。
「未来これはね・・・」
「良いの。最初はね、ビックリしてショックだった。でもよく考えたら私ここまで育ったんだよ。育ててくれたじゃん」
私は笑ってそう言った。
「これってさ、ちゃんと私を愛情をもってホントの子どもとして育ててくれたって事でしょ?・・・・・・・・・それって、凄いよね」
私は続けた。
「私ね、今すごい幸せなの。こんな事言うの変かもしれないけど、お父さんとお母さんに誘拐されてなかったら、こんなに幸せじゃなかったのかもって」
私の言葉にお母さんは小さくごめんねごめんねと繰り返しながら泣いていた。
「お母さん、お父さん、ありがとう。これからもよろしくね」
お父さんは初めて顔を上げた。
「ホントにごめんな」
と言ってまた深々と頭を下げた。
「もう謝らなくて良いよー」
私は笑いながら言った。
「でも、ホントの親に会いたいって言ったら会わせてね」
お父さんはビックリした様に顔を上げた。
「戻らなくても・・・良いのか?」
私の中には“戻る”という選択肢はなかった。
「うん。私は、この家の子だもん」
私はそう言った。
義人に電話して、家を出た。
近くの公園のベンチで待ち合わせた。
「よー」
義人は手を上げて言う。
「行ってきたよー」
私はあえて笑って言った。
「さてはショックな事だったなぁ」
からかう様に言ってきた。
「分かっちゃったかー」
私も笑いながら返す。
「・・・・・・私有沢家の子じゃなかったんだー」
義人は驚いて眼を見開いた。
「それって・・・」
「誘拐されたんだって。誘拐されてここに来たの」
「ゆ、誘拐?」
義人は意味が分からなかったらしい。
「私、久保田っていうの。ホントはね」
私は笑って言った。
つもりだった。
でも涙が流れてしまった。
涙はそれを合図にドッと溢れだした。
義人は私を抱きしめた。
「気が済むまで泣け」
私は義人の胸で小さく頷いた。
「ありがとう」
私は顔を上げてお礼を言った。
「ごめんね」
「全然いーよ。好きなやつが困ってて助けないやつなんていねーよ」
義人は笑って言った。
・・・・・・・・・
私たちはキスをした。
「・・・順番違っちゃったけど、未来!」
「はい」
私は改まって向き直った。
「好きだ!!」
私は爆笑してしまった。
「なんで笑うんだよー」
「こ、声大きいんだもん」
このツボは深くてなかなか抜け出せない。
義人は怒った様な素振りを見せた。
「ごめんごめん」
私は後ろを向いた義人にそう声をかけて、抱きついた。
「私も好きだよ。まだまだこれからいっぱいいろんな事があると思うんだ。義人だったら一緒にいれば大丈夫だと思うの」
義人は身体ごとこっちに向いた。
「だから、これからもずっと一緒にいてください」
私は頭を下げてそう言った。
義人はフフっと笑いながら私の顎を持ち上げ口付けた。
さっきのとは違う深くて情熱的で優しいキスだった。
私たちは手をつなぎ、家路に着いた。
私は雄を含め家族全員と話し、苗字を“久保田”と改める事にした。
次の日の学校で私は久保田未来として登校し、皆も分かってくれた。
「未来、ホントの親には会わないの?」
由紀が問い掛けてきた。
「今はね。・・・・・・たぶん会いたくなると思うんだ。だからその時までは、今の家に居ようと思ってる」
「なんか穏やかになったね。顔が優しくなった」
由紀は笑顔で言ってきた。
「そう?」
「あ!そっかー、義人君も居るもんね」
「もうー、からかわないでよ」
私は赤くなった。
「あ、噂ををすれば・・・じゃね」
由紀は扉の向こうを見て帰ってしまった。
「義人」
「帰ろうぜ」
義人は教室に入ってきて言った。
あれから3年。
もうすぐ私は成人式を迎える。
就職先も決まり、春からは1人暮らしだ。
「ねぇ、義人」
「んー?」
私たちは付き合ってから、一緒に居る事が当たり前になっている。
「私、ホントの両親に会いたいと思う」
「大丈夫なのか?」
心配そうだった。
でも私にはそんな心配はなかった。
「うん。むしろ楽しみなくらい」
「そっかー。あれから3年だもんな。連絡とかは取ってるのか?」
「ううん。会いたいと思った時に取ろうと思ってたから」
「頑張れよ。またなんかあったら慰めてやるから」
ニヤニヤしながら義人が言ってくる。
「バカ」
私は笑いながら義人の肩を叩いた。
その手を引っ張られ義人の胸の中に入る形になってしまった。
「ちょっと」
私は上を見上げた。
チュッ。
私たちは小鳥がついばむ様にキスをした。
「可愛いなぁ、未来は」
と言って抱きしめた。
「親には言ったか?」
「まだ。今日帰って言おうと思ってる」
私たちは抱き合ったまましばらくそのままでいた。
私は家に帰り、会いたい事を話した。
「そう。遂にきたのね」
「お母さん、私はね会いたいけどお母さんたちとは家族じゃないとか・・・そんなんじゃないの」
「分かってるわよー」
お母さんは笑いながら言った。
でも動揺していた。
「変わった感覚なの。なんか、家族が増えた感じ?」
私は笑って言った。
「分かったわ。お父さんにも言うのよ」
その日の晩御飯の時、お父さんと雄に会いたい事を話すと快く了承してくれた。
私は警察に連絡し、ホントの両親の連絡先を聞いた。
プルルル・・・・・・
「はい、久保田です」
「も、もしもし?」
心臓が出そうなくらい緊張していた。
「・・・どちら様ですか?」
「み、未来です」
「未来?未来なの?」
「は、はい」
電話の向こうで泣きはじめてしまった。
「泣かないでください。私は生きてます。ちゃんと育ちました。・・・・・・もうすぐ成人式なんです。その前に会いたいんです」
「その気になってくれたのね。ありがとう」
私たち親子は会う事になった。
「会う気になってくれてありがとう」
ホントのお母さんは深々と頭を下げた。
「そんな、頭を上げてください」
私たちはすぐに打ち解けた。
お互いの家族の事、私が生まれた時の事、将来の事など。
私たちはこれを機に連絡を取る様になった。
私に生みの家族と育ての家族が出来た。
これから先どうなるか分かんない。
家族が増えたことで違って見えてくるものもあるかもしれない。
私は将来にワクワクしている。
終わりました。
初めて最後まで書き終える事が出来ましたー!
展開が早すぎた気もします。
読んでくれた方、ありがとうございました。