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あれから1週間。
平和すぎる程平和だった。
「あれから刑事さん来ないねー」
由紀が頬杖を付きながら言った。
「来なくて良いよー」
「でも未来に話聞くって事は家にも行ってるのかもね」
「えぇ!」
「だってそうじゃん」
「んー」
そういう風にはなってほしくない。
迷惑なんてかけたくないし。
内心怖かった。
あの2日間いろんな事がありすぎた。
たったあれだけって思う人もいると思う。
でも私にとっては充分すぎる。
その日の放課後の事だった。
「有沢、ちょっと来てくれるか?」
「はい」
由紀が後ろで遂に来ちゃったと言っている。
私はそれを無視して先生の元にかけよった。
「お前、なんかしたのか?」
「な!してないです!!」
「ホントか?」
先生が私の顔を覗き込んだ。
「嘘なんかついてません!」
「分かった分かった。ちょっと着いてこい」
と言って先生は歩き出した。
「あのどこ行くんですか?」
「感付いてるんじゃないのか?」
私は立ち止りUターンした。
「おいおいおいおいおい」
先生はそう言いながら走ってきて、私の手首を掴み止めた。
私は涙が出てしまっていた。
振り向いた私の顔を見て、先生は面食らっていた様だった。
「そんなに辛かったのか。・・・・・・・・・でもな、刑事さんを追い返すわけにはいかんだろう?」
「分かってます。・・・・・・でもなんで私なんですか?私・・・何もしてない」
「・・・・・・そうだよな。有沢が警察に世話になるやつじゃないもんな。・・・よし、分かった!俺が説明してやる!!だから来るだけで良いから。な?」
「分かりました。お願いします」
私は半べそになりながら着いて行った。
私たちは応接室の前で少し深呼吸する。
・・・コンコン・・・
「失礼します」
「私たちはこういう者です」
「あの、有沢が何をしたというんでしょうか?」
「・・・・・・・・・いや、実はこの件についてはお話出来ないんです」
私は落ち込んだ。
やっぱりか・・・・・・・・・。
「先生、もう良いです」
先生の袖を掴みそう言った。
「少し、席を外して貰えませんか?」
刑事さんが先生に向かって言った。
「でも・・・」
「大丈夫です」
私は力強く言った。
もう後戻りは出来ない。
何を言われても落ち込まない。
「そうか、分かった」
先生は出て行った。
「有沢さん、なんで呼ばれたか分かんないよね?」
「はい」
「でもね、ここでは話す事出来ないんだ」
え?
「じゃあなんで来るんですか?」
「君の身辺を少し調べさせてもらったんだ」
今まで話していた刑事さんとは違う40代半ばくらいの刑事さんが言った。
「なんでですか?」
「それが言えないんだ」
「どうしたら良いんですか?」
「署まで同行して貰わなくちゃいけない」
「・・・・・・・・・け、警察に行けば・・・教えて貰えるんですか?」
「教えてあげられる」
「分かりました」
私は行くしかないと思った。
「いつ来れるかな?」
「明日、行きます!学校終わってすぐに伺います」
「迎えに行くようにします」
若い刑事さんが言った。
「良いですか?君はどちらかといえば被害者なんだ。だから・・・」
「被害者なんですか?!」
私は思わず大きな声を出してしまった。
刑事さんはゆっくり頷いて言った。
「だから引け目を感じる事なんてない」
でも何の被害者なんだろう。
「何の被害を受けたのか知りたいんだったら・・・明日来てくれる?」
「行きます。・・・・・・全部話してくれるんですよね?」
40代の刑事さんが頷いた。
応接室を出たところに先生が待っていてくれていた。
「どうだった?」
「明日警察に行きます」
先生は目を見開いて驚いた。
「私被害者らしいです」
「そうだろうな」
先生は納得した様に言った。
「でも内容は明日警察に行かないと言えないらしいです」
私は淡々と説明した。
「そっか」
「はい。もう行くしかないんで。先生は心配しないでください」
私は笑顔で先生にそう言って、教室に向かった。
「由紀ー、どっか行かない?」
「どうしたのー?やけに元気じゃん」
「そう?ねー行こう」
私は子どもの様に由紀を急かす。
「分かった分かった。遊びにいこ」
由紀は子どもをあやす様に言った。
私たちは街でプリクラを撮ったり、買い物やお茶したり久々に遊んだ。
今までのストレスを発散させる様に・・・。
「今日は付き合ってくれてありがとね」
「うん。私も遊びたかったし。・・・・・・・・・なんかあったら言いなよ」
「うん。ありがと。・・・・・・じゃあ、おやすみ」
「おやすみ。気を付けて帰りなよ」
お互い手を振り別れた。
帰っている途中、義人に会った。
「よう。珍しいな」
「義人。うん、ちょっと由紀と遊んでて・・・こないだはごめんね」
「なんでお前が謝るんだよ」
義人が困った様に言った。
「・・・・・・まぁあの事は忘れてよ。また、落ち着いたらコクりに行くから」
「分かった。・・・・・・・・・明日ね、警察行く事になった」
「え、それって・・・」
「私、被害者なんだって」
「そっか。行かなきゃいけないのか?」
「漏らせないらしいよ。分かんないけど」
私は笑った。
私たちの家は向かいにある。
義人は自転車を停めると私の肩を掴んで向かい合わせる形にした。
「未来、お前には俺とか由紀がついてるから」
私に言い聞かせる様に言ってくれた。
「分かった。ありがとう。・・・・・・じゃあ1つだけ、良い?」
「あぁ」
「警察から、帰って来た時・・・誰かに頼りたくなったら、頼って良い?」
「おぉ、いつでも飛びこんでおいで」
と義人は笑顔で腕を広げて言った。
「そうさせてもらう」
私も笑ってそう言った。
私たちは別れてそれぞれの家に入った。