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私は警察の人たちが何がしたかったのか分からないまま家路に着いた。
「ただいまー」
「おかえり」
お母さんがリビングから顔を出した。
私の家族は両親と2つ下の弟がいる。
弟の雄は私と同じ高校に行きたくて勉強しているらしい。
雄の頭だったらもっと良いとこあるのに・・・。
私の学校は進学校でもない。
どちらかというと、短大とか専門学校とか・・・就職とかが多くて、大学に進学する人が少ない方だと思う。
「姉ちゃん帰ってたの?」
「うん。・・・勉強はかどってる?」
「まぁね」
「ってか、勉強しなくても大丈夫なんじゃない?」
「それがそうでもないんだよなー」
雄が困った様に答えた。
「そういえば、姉ちゃんの学校警察来たの?」
「なんで知ってるの?」
「ちょー話題になってたよ」
雄が笑いながら言った。
・・・・・・
「ちょっと来て」
私は雄の腕を引っ張って廊下に出た。
「私、その人たちと話した」
「なんで?」
「分かんないよー。でも簡単な質問されただけだった」
「は?なおさらわかんね」
雄は呆れた様に言った。
「姉ちゃんなんかしたんじゃないの?」
「な!なわけないじゃない!!」
雄はだよなーと言いながらリビングに戻っていった。
なんか不安になってきた・・・。
無意識になんかしちゃったとか?
そんなわけないよね。
「未来何してるの?」
いつの間にか廊下に座り込んでしまっていた。
「なんでもなーい」
私は話を変えた。
「そういえばお父さんいつ帰ってくるの?」
「うーん、分かんないねー。・・・ご飯出来てるよ」
「はーい」
なんか不安。
今日は刑事さんと話した事以外変わった事してないのに。
でもすごく不安で、心配。
どこかで経験した事あるような感覚。
いつの間にか私は眠りについていた。
『未来ここで待っててね』
『うん』
『ここでお母さん待ってるの?』
『うん』
『ちょっとお姉ちゃんと遊びにいこっか?』
『でもみくここでお母さん待たなきゃいけないから』
『そっか。じゃあもうちょっと待ってみる?』
『うん』
・・・・・・
夢か。
時計を見るとまだ6時になっていなかった。
初めて見た。
あんな夢・・・。
でもどこかで見た事あるような風景だった。
不思議だった。
「・・・くー、みーくー」
私はその声でムクッと起き上った。
「あーい」
「今日は一段と眠そうね」
「うん。昨日なかなか寝付けなくて」
私は目を擦りながら言った。
「珍しい事もあるんだね」
「自分でもびっくり」
「何か心配事でもある?」
「ううん、大丈夫。ありがと」
・・・とは言ったものの
言った方が良いんだろうなー。
でも言ってもって感じだしなー。
・・・・・・ドン
「わお!何よー」
誰かと思えば幼馴染の義人だった。
「お前取り調べされたんだって?」
義人は悪戯っぽく笑い言う。
「取り調べじゃないって!」
「じゃあ、何なんだよ」
「義人には関係ないでしょ」
「俺はな、心配なんだよー。可愛い可愛い幼馴染ちゃんが警察にお世話になって・・・」
義人はそんな事を言いながら私の肩に腕を回してきた。
「ちょっと止めてよー」
私はそう言いながらその手を振り払った。
「あらあらー、なんで振り払っちゃうのよ」
由紀が隣に来てニヤつきながら言ってきた。
「あ、由紀おはよう。だって邪魔なんだもん」
「・・・俺邪魔だったんだ・・・」
私はあからさまにしょんぼりする義人に慌てて弁解する。
「違う!違うの。義人が邪魔なわけじゃなくて・・・」
「分かってるっつーの」
義人は笑いながら、私の頭に手を置きじゃーなと言って校門の中に消えて行った。
「やっぱ、義人は未来の事好きだね」
由紀が1人でうんうんと頷きながら言った。
「そんな事ないでしょう」
私が笑いながら言う。
「未来はまだ分かってないねー」
「ありえないって」
「じゃあ、そういう事にしといてあげる」
由紀はニッと笑って言った。
「う、うん」
私たちはそんな事を言いながら教室に向かった。
席に着いても話は続いていた。
「なんか眠いなー」
私は机の上で伸びをして言った。
「珍しいね」
「うーん。昨日眠れなかったんだよね」
「これまた珍しいね」
「すごい心配で不安だったんだよねー。なんかどこかで経験したようなさ・・・」
由紀はふーんと言いながら背もたれにもたれた。
「それって、無意識に経験しちゃってるんじゃない?」
「どういう事?」
「やっぱり小さい頃の記憶なんじゃない?」
・・・“小さい頃の記憶”か・・・。
チャイムが鳴り生徒たちがぞろぞろと自分たちの席に着いていく。
小さい頃の記憶、小さい頃の記憶、小さい頃の記憶、小さい頃の記憶。
分かんない。
思い出せない。
でも、あの景色は確かに見た事ある様な気がするんだよなー。
「ねぇ、由紀“小さい頃の記憶”って身体で覚えてるもんなのかな?」
昼休みに私は由紀に聞いてみた。
「そりゃあ覚えてるものもあるんじゃない?私は何も覚えてないけど」
由紀はご飯を食べながら言った。
「お母さんに聞いてみれば良いじゃん」
「うーん、でも聞いちゃいけないような気もするんだよね。なんか触れちゃいけないような・・・」
「なんで?」
由紀がお箸を止めた。
「うーん・・・勘かな?」
「私が聞いてあげようか?」
由紀が悪戯っぽく言ってきた。
「えー、やだよ」
「じゃあ、今日お母さんに絶対聞くんだよ」
「・・・分かった」
私は渋々了解した。
授業中ずっとこの事で頭がいっぱいだった。
そのせいで、先生に呼び出されてしまった。
「有沢ー、どうしたんだよー。他の先生も心配してたぞ」
「はい、すみません」
私は職員室で正木先生の話を聞いている。
「なんか悩みでもあるのか?」
「あ!先生刑事さんから何か聞いてませんか?」
先生がそういう事かと呟きながら背もたれにもたれた。
そして先生は私の目を見据えた。
・・・・・・・・・・・・。
私には沈黙が数十秒に感じられた。
「・・・知らねえな」
え・・・・・・
「知らないんですか?!」
思わず大きな声を出してしまった。
「うーん。有沢も聞いてないのか?」
「何も」
「そうか。・・・原因はこれか?」
「はい。すみませんでした」
私は少しうなだれた。
「明日はちゃんと授業受けろよ」
「はい」
職員室から出てため息をついた。
はーあ
どうしよう。
どうやって聞けば良いのかな。
私はとぼとぼと教室に向かっていた。
「よっ!!」
「わおー、ビックリしたー」
義人は部活の途中なのかジャージだった。
「何よ?」
「落ち込んでそうだったから・・・」
「ありがとう」
「なんか・・・あったら言えよ」
義人はそう言って走って行った。