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【短編小説】Re:祈り

掲載日:2025/12/26

 郵便ポストの封筒は、開ける前からそれが祈りであると分かっていた。

 カンなんかじゃない。俺には分かる。

 しかしそう思うことで自分が受けるダメージを予め軽くしておこうと言う卑劣さは、まさにヒーロー試験不合格者の行動だろう。

 仕方ない、と自嘲気味に鼻を鳴らした。

 ……自嘲と言う字はどうやって書くんだっけな。

 またそうやって別のことを考える。逃げ癖がついた。疲れてきてるんだろう。



 指を入れて雑に封を開けた。

 これもまたヒーローらしくない。幾つも買い集めたヒーロー玩具の中にもペーパーナイフがあったはずだ。

 いまは寝室だったか?いや、またはどこかのバーに持っていって忘れてきたかも知れない。店主が見せてくれとか言ったので貸したはすだ。

 今度警察に行って盗難届を出しておこうか。ついでにSNSで店の悪口を書いておこう。


 見るまでも無かったが、案の定その封筒には薄いお祈りが三つ折りになっていた。

 そのまま丸めてゴミ箱に投げる。

 祈りは綺麗な放物線を描いて深淵に収まった。

 外れてくれたら惨めさに拍車がかかってヤケ喰いの言い訳にもなったのに、それすら許されない。

 シケたもんだ。

 まぁあんなもん、自身の存在に自信が無い奴が正当な承認欲求で受けるからな。おれにな必要ない。



 試験。

 余裕とは言えないものの、筆記試験は合格できる。

 特に難しい事じゃなかった。

 ヒーローの歴史は得意だ。空んじる事だっでできる。

 自動二輪の免許は無いけれど普通自動車ならマニュアルの免許がある。

 この前は救命講習みたいなのも受けた。別に資格では無いけれど受講証明のカードだって貰った。

 ランニングも筋トレも頑張った。

 実際に太り気味だった身体は絞れたし、職場の上司と登山ハイキングだってできる様になった。

 だから運動系のテストもそんなに良くは無いけど、どうにか合格ラインを超えられている。



 近々、格闘技だって始めるつもりだ。

 別に暴力を振るいたくはないけれど、必要ならば正義を執行する。YouTubeで大まかな動きは覚えた。

 暴力を振るう前に威圧感だけで相手を怯ませる事ができる。おれが少し本気を出せばそんなものだ。

 サングラスもあるしな。

 おれが本気で怒ったら、大抵の人間はビビって素直になる。



 それなのに、いつも面接で落とされてしまう。

「友好関係は?」

「どんな話をしますか?」

「どんなことをして遊びますか?」

 まるで狭い友好関係をダメだと言われているみたいだ。

 それに会話の引き出しが少ないとか言われている気にもなる。

 遊びにしたってそうだ。いつまでもカラオケなんて、と嘲笑しているに違いない。



 麻雀なんてイメージが悪いはずなのに、やはり社会の中では必要なのだろうか。

 テレビゲームだってあまり生産的とは言えない。TRPGだとかカードゲームだとか、独りで練習できない事をどうしろって言うのだろう?

「恋人は?」

「御経験は?」

「それでは好みのタイプなどは?」

「どうやって過ごしたいですか?」

 馬鹿みたいな質問ばかりだ。



 ヒーローは、この世にたった一人の愛する人と出会う。

 そうしてお互い初めて愛し合って幸福な家庭を築いていく。

 彼女は長い黒髪で大きな目を輝かせて笑うひとだ。もちろん煙草なんて吸わない。酒も飲まない。話し方も綺麗で、優しい。

 ヒーローを否定しない知性がある。おれのための女性だ。

 だからそれ以外の女性に興奮も欲情もしない。



 それなのに。

 何が、間違っているのか。

 自分か。

 世界か。

 どんな仕打ちも長男だから耐えられる。いや、おれだから耐えられる。常人なら潰れてしまうだろう。

 それにしても身体が怠い。

 浮腫んでいる気がする。さっきもそうだけど、指が黒く見えるのは疲れの所為だろうか。

 顔を洗って少し眠ろう。

 その顔だって変な硬さだ。


 ギギギ。

 あぁ、おれはそっち側だったのか。

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