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プロローグ


 大陸の西の端に位置する国、エルヴァニアの筆頭侯爵家次男、エルネストは、嫡男である兄に呼び出されていた。

 きっと新たに自分が果たすべき役目を与えられるに違いない。


「パラシオス公爵家令嬢、マグダレナ」


 聞き覚えのある名前が兄から告げられる。


「アレハンドラ王子の婚約者ではありませんか?」


 マグダレナは、エルヴァニアの王子の正式な婚約者である。


「ああ。公爵家の威光をふりかざし、強引に決められた婚姻である。公爵家はこの結婚を機に、外戚として力を強め、王家の血筋に食い込もうとしている」


 公爵家の名を出すたびに、兄は迷惑そうに眼を細めている。


「幸い、公爵令嬢マグダレナは高飛車な性格が災いし、社交界でも孤立している。婚約者の立場を利用してアレハンドラ王子に近づこうとするたび、無様に失敗しているらしい」


 兄は深刻な顔で続ける。


「さらに、パラシオス公爵家にはもっとべつの疑いもある」


「べつの疑い」


「我が国の金融政策を決める公開市場委員会の情報や、他国にかける関税についての情報を、国外へ漏らしている疑いがある」


「とんでもない話です。国に対する背信だ」


「まったくだ。王子も心底マグダレナ嬢には嫌気がさしているらしい。婚約の破棄を希望しても、あちらが受け入れないとか。公爵家の国に対する裏切りが露見すれば、婚約破棄も容易にすすめることができる」


 われわれの力で、王子をお救いしようではないか。

 兄の言葉に、エルネストもうなずき返す。




 マグダレナ嬢は青がまじって少しくすんだ髪色をしていた。グレー味のあるアッシュブロンドである。


 とある貴族の主催するガーデンパーティーでさっそく彼女に近づいた。高飛車で、鼻持ちならない女かと思いきや、服装も時と場所と家格を考慮した過不足のないもので、ふるまいも派手過ぎなかった。

 

 何回か人違いかと思ったが、そうではないようなので、エルネストは動き始める。


 ガーデンパーティーは屋外だから、壁の花という概念はない。しかし、仮にも王子の婚約者という立場でありながら、だれからも相手にされず佇んでいるマグダレナの姿は、自業自得とはいえ、みじめだった。


 そのマグダレナの前に、エルネストはひざまずく。


「マグダレナ嬢。アレハンドラ王子の婚約者であるあなたにこんな感情を抱くなんて、間違っているとわかっています。でも、わたしはあなたのことを好きになってしまったようです」


 最初呆けていたマグダレナの顔は、みるみるうちに赤くなり、前のめりにエルネストの手をつかんだ。


「あ、あなたは筆頭侯爵家フローレス家のエルネストさまでいらっしゃいますよね!? わたしにお声がけされたということは、父の情報をお求めですか!?」


「え? え? え?」


「どんな! どんな情報をお求めですか!? わたしのことを好きと言ってくださった方ですもの! うれしい! わたしの差し出せるものなら、なんでも! なんでも差し上げますわー!」

 

「ちょちょちょ!ちょーっと待て!」



「あ、兄上―!!!」


 ガーデンパーティーから逃げ帰ったエルネストは、一目散に兄のもとへ走っていく。


「どうしたエルネスト!」


「どういうことですか! あのマグダレナとかいう人! ちょっとチョロ過ぎません!?」


「チョロすぎるってどういうことだ。稀代の悪女と有名だぞ」


「なんかの間違いでしょ! いきなり本丸の情報よこしてこようとしましたよ!」


「いいじゃないか! その情報もらっておけばすべて丸く収まるな!」


「ええ……」


 悪女と名高い公爵令嬢が、ちょっと好きって言っただけでころっと落ちる女だなんて、聞いてない!





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