エピローグ
エピローグ
1
『鏖殺卿』アーダルベルト=シュルツ討伐の報せは、瞬く間に世界中に広まった。
去年の捕縛の一件で、彼はARSS史上最悪の罪人として世間一般でも知られていたからだ。
とはいえ、やはり情報として一早くかつ正確に手にするのは十二のARSSの本部であり。
そのため、アーダルベルトが死んでからたった二日しか経ってないにも関わらず、ARSSロシア本部の入り口にとある有名人の少女が約束も無しに訪れていた。
「――ねぇ、そこをどいてよ」
その少女の名前は、ブランシュ=ル=フェイ=パルファム。
上級序列三位かつ、ARSS十二の本部の中でも最多の中級アーベントを擁しARSSの中でも最大規模の本部である欧州本部の本部長だ。
それに向かい合う筋肉質の男は、
「ダメだと言っているだろう。何度も同じことを言わすな」
ARSS中国本部長、項秀龍。
上級序列二位でありながら、直接戦闘力なら上級の中でもトップと目されている男だった。
「どうせ貴様の悪癖が発揮されるだろうと思い、様子を見に来たが……案の定だったな」
――繰り返すが、ブランシュはARSS欧州本部長だ。
そして、アーダルベルト=シュルツは、元ARSS欧州本部の『美徳の七枝』の一員で、つまりはブランシュの元側近だった。
それだけを聞くと、今ブランシュがロシア本部に訪れたのは、元部下を殺されたことへの復讐に来たと考えるのが自然だろう。
だが、そんな風に項秀龍は考えていない。
先に言った通り、少女の『悪癖』を知っていたからだ。
「『悪癖』って言い方は酷いなぁ。ボクはただ、ボクと世界のためにアンナちゃんをボクの所に来させようとしてるだけなのに」
ヘッドハンティング。
ブランシュは、気に入ったアーベントを所属関係無く、自分の手元に置きたがる癖があった。
例え、それが元部下を殺した相手なのだとしても。
「アンナちゃんはボクの元でこそ、その力を正しく使うことができる。だから、そこをどいて?」
「アンナの奴は、今は心も体もボロボロだ。そんな時に貴様みたいな劇薬のような女を会わせる気は起きんな」
「?なんで?」
「……アンナの奴はワシの部下ではないが、知らない仲でもない。というか、そうでなくても、弱ってるアーベントを貴様にめちゃくちゃにされるのは、見るに忍びな――」
「いやいや、そうじゃなくてさ」
ブランシュは項秀龍の言葉を手を振りながら遮る。
そして、純白の少女は、ニコニコと笑いながら、
「部下とか部下じゃないとかそういうんじゃなくてさ、もっと単純な話で、秀龍にとって、アンナちゃんってすごく嫌いなタイプだよね?」
そんなことを、何の気も無しに告げた。
「……あ?」
「あ、正確には、これから『嫌いな相手になる』って感じなのかな?」
「……何、言ってやがる」
「だってさ、ほら、アンナちゃんってこれからドンドン強くなるよ?そしてそれは多分、キミを目指したものじゃない、キミよりももっともっと高い『星』を目指して強くなる」
「……」
「秀龍はさ、上級で最強なことに拘ってるから、上級で満足しないで『星』を目指すようなのは目障りなんじゃない?少なくとも、大嫌いって言えるぐらいには」
「……」
「でも、ボクのとこにアンナちゃんを置いといたらそんな風にならないよ?ボクのとこに来たら幸せになるのは決まってる――つまり、『星』を目指す必要なくなるからさ」
「……」
「アンナちゃんはボクに尽くすことで幸せになれるし、ボクは強い子を『新しい騎士』として一緒に居られて嬉しいし、キミも目障りな存在が生まれなくて嬉しい。みんなハッピーになれるんだよ?」
「……」
「だから、そこをどいて?」
「……」
項秀龍は無表情のまま目を瞑る。
数秒後、男は目を開けて、
「……ワシが、アンナの奴のことをどう思おうが関係ない。貴様の洗脳めいた甘言で、既に自分の道を歩んでいる若い奴を惑わすのを止めない理由にはならん」
明確な拒絶の意思を示した。
「……ふぅん、どうしてもどく気は無いんだ?」
「あぁ、そうだ」
「……」
「……」
二人は、穏やかに無表情に見つめ合う。
そして、
「もう一度だけ寛大なワタシがチャンスをあげる。そこをどきなさい、項秀龍」
「オレに命令するな。殺されてぇかクソガキ」
莫大の殺意を、ぶつけ合った。
もし、この場に彼ら以外の人間が存在していたら、確実にその人物は腰を抜かしその場に座り込んでいただろう。
上級序列二位と上級序列三位。
十二の上級の中でもトップクラスとされる二人の気迫は、それほどのものだった。
「……」
「……」
二人の間でまるで本当に殺し合いを始めるかのようにプレッシャーが高まるが、その空気は数秒も持たずに霧散する。
何故なら、ブランシュの方がいつもニコニコした笑顔に戻ったからだ。
「――やめた。アンナちゃんを連れて行くことはやめることにするよ」
それに対して眉を顰めたの項秀龍だ。
ブランシュに合わせて殺気を霧散させた項秀龍は不思議そうに、
「貴様にしては諦めがいいな。どういう風の吹き回しだ?」
「いやー、考えてみると、アンナちゃんを手元に置いておく必要無いかなーって。アンナちゃんはもうボクのアンナちゃんになるのは決まっているけど、ボクの下よりロシアでがんばってもらうのが一番世界のためになるかなと思ってさ」
「……あー、そうかい」
あくまで自分中心の考え方で、項秀龍は呆れたような声を出す。
そんなもの無視してブランシュはニコニコと、
「ついアンナちゃんの活躍に興奮しちゃってここまで来ちゃったけど……秀龍の茶々で考え直すことができて良かった良かった。おかげでボクにとって一番良い選択できたし、今日も世界はボクが中心に回ってるね!」
「……あー、そうかい」
項秀龍は同じ言葉を繰り返す。
その直後、項秀龍はふと今思い出したかのように、
「そういや、貴様、先ほどからアンナアンナとばかり言ってるが、ルアン=ラディーベの方は興味無いのか?」
「あー、彼ね。彼の方も興味ないわけじゃないし、ああいうジャジャ馬な子も嫌いじゃないけど、ボクの手元に置きたいとは思わないなー。ってかあの子を直属の部下にした南アフリカ本部長のおじいちゃんが物好き過ぎるだけでしょ」
「……まぁあのじいさんも完璧に持て余してる感じだけどな。今回のことで発覚したが、あのガキ、三ヶ月以上無断で南アフリカ本部空けてたみたいだしな」
「そんな旅人気質な子は、適当に放置しとけばいいよ。その方が、ずっと良い」
そう言ってブランシュは背中を向けて帰ろうとするが、
「ちょっと待て、貴様に渡したいものがある」
「え、何?」
ブランシュが止まりながら振り返ったところに、丁寧な包装に包まれた小さな箱が投げられる。
少女は反射的にそれを受け取ると、不思議そうな表情で、
「これ、なに?」
「ただの菓子だ。上手く説得できなかった時の最終手段に使おうと思ってな」
「ボクのこと、五歳児ぐらいだと思ってる!?」
「貴様なんてそんなもんだろう」
項秀龍がニヤリと笑うのに対し、ブランシュはケラケラと笑って、
「もう、ボクは永遠の十七歳だって言ってるじゃん。ちゃんと覚えてよ!」
「うるさい、クソガキ。さっさとその菓子持って帰れ」
「えー、折角だし今この場で食べさせてよ」
ブランシュはそう言うな否や包装紙をビリビリに破って、箱の中の菓子を取り出す。
「……これ、なんてお菓子?」
「月餅だ。中に餡が入ってる」
「ふーん」
ブランシュは月餅を一個丸々口の中に放り込むと、モグモグと噛み飲み込む。
「……うん、これ甘くて美味しいね!ありがとう!んじゃ、またね!」
ブランシュは手を振りながらご機嫌にその場を去る。
残された項秀龍はボソリと、
「……やっぱり菓子で機嫌良くなってるじゃねぇか」
呆れ笑いを浮かべながらそう呟くと、ARSSロシア本部の事務処理の手伝いのため、真後ろの本部に向け歩みを進めた。
2
アーダルベルト=シュルツが討伐されて四日後。
ルアンラディーベは、
「ふぁぁ……」
呑気に欠伸をしながらARSSロシア本部の廊下を歩いていた。
散歩するにしては、大きなリュックを背中に背負いながら。
「――とうとうここから出てく気になったか、ルアン=ラディーベ」
「あ?」
声をかけられたルアンは止まり振り返る。
そこには背の高い金短髪の女――マルファ=イロフスカヤが居た。
「ようやく動けるようになったと聞いたが、性急だな。今まで何度忠告しても出ていかなかった奴とは思えない」
「単にジジィにぶちギレられたから帰るってだけだよ。……いつもだったら無視すんだけどよ、『今すぐ戻らなかったら札付き認定してやる』ってガチトーンで言われてな。ま、流石に追われる立場になるのは色々面倒だし、今回は大人しく言うこと聞いてやろうって思っただけだ」
「……面倒というか、追われたら、世界飛び回って色んな奴に喧嘩を売れないからってだけだろ」
「ははっ、よくわかってんじゃねーか」
ルアンはニヤリと笑う。
そして、そのまま、話が終わったとばかりにルアンはその場を去ろうとする。
会話した時間は一分にも満たないが、ルアン=ラディーベとマルファ=イロフスカヤは雑談するような間柄ではないのだから当然だ。
だが、マルファの方は、ルアンに対し明確な『用件』があった。
「――ルアン=ラディーベ。私は、貴様が嫌いだ」
マルファは、四日前に口した言葉とほとんど同じ台詞を繰り返す。
声をかけられたルアンは足を止めて振り返る。
「わーってるよ。それで?」
「だが、アンナを助けてくれたこと。それは感謝している。……本当に助かった」
「……俺は俺の好きなようにやっただけだ、礼を言われる筋合いはねぇ。ってか、むしろお前には俺の方が命を助けられた気がするんだけど」
「アンナを助けてくれたために死にかけた人間を寒天の下に放置しておけるか。……話を戻すが、要は、貴様のことは一生好きになれそうにないが、この恩のことも一生忘れないということだ。私にできることなど限られてるが、将来何か困っていたら何でも手伝おう」
「んじゃあ、早速。一つお前に言い忘れてたこと思い出したし、それをやれ」
「……それ、とは?」
「アンナともっと手合わせをしろ。お前、アンナと手合わせとかしたことほとんどねーだろ。遠慮してるのかしらねぇが、お前はもっとアンナとやり合った方がいい」
「……確かにそれだと私の訓練になるが、それだとアンナの迷惑になるだろう?」
「違ぇ、逆だ。お前が雑魚のままだとアイツのお荷物になるだろうが。それにお前は近接が得意だが、アンナの奴は近接がやや苦手だ。……あいつも俺との闘いである程度近接もできるようになったが、しばらく俺もこっちには来ねぇし、テメェがアンナとやり合うことはテメェだけじゃなくてアンナにとってもメリットになる」
「……」
「……なんだよ?」
マルファが神妙な顔で黙り込むものだから、ルアンは怪訝そうにしかめ面を浮かべる。
「……いや、なんだか貴様らしくないなと……というより、貴様のその要求、ただ私とアンナにメリットがあるだけで、貴様にとってのメリットが何も無くないか?」
「んなことねぇよ。むしろ、俺にはメリットしかねぇ」
ルアンは笑う。
笑って、答える。
「どうせ闘り合うなら、強い方がいいだろーが。次アンナと会う時は俺ももっともっと強くなってるし、アイツにももっともっと強くなってもらわないとな」
「……なるほどな。その理由は、貴様らしい」
「あと、テメェもだ、マルファ=イロフスカヤ」
「……何?」
今度はマルファが眉を顰める。
それを気にせずルアンは、
「テメェはまだ雑魚だ、試す気も起きねぇ。だが、そんなテメェもいつかは強くなって、もしかしたら闘りがいのある『敵』になるかもしれねぇ。そしたら、俺にとってありがたいってだけの話だよ」
「……本当、貴様らしいな」
ルアンの勝手な物言いにマルファは苦笑を浮かべる。
それを見てルアンはこれ以上言うことは無いとばかりにマルファに背を向ける。
そして、
「じゃあな。もう行くぜ」
そう言って、その場から――ARSSロシア本部を後にした。
「……」
ARSSロシア本部の廊下に残された一人残されたマルファ=イロフスカヤは、少し前に信頼してる妹分な少女が言ってたことを思い出していた。
(『ルアン君、札付きと戦った時、身を挺して人質だった子供の盾になったみたい』だったか。話を聞いた時はアンナの勘違いかと思ったが……案外本当だったかもな)
……正直、『もっと口調と性格を真面目にすればいいものを』と思うが、『真面目な男はルアン=ラディーベと言えるのか』とも思ってしまう。
何は、ともあれ。
「――色んな意味で、嵐みたいな奴だったな」
金短髪の女は呆れ笑い浮かべながらそう呟くと、早過ぎず遅過ぎない足取りで執務室に向かった。
3
ルアンは駅のターミナルをのんびりと歩く。
シェレメーチェヴォ国際空港に向かう電車に乗るためだ。
そんなオレンジ髪の少年の前に、
「遅かったね、ルアン君」
青白い髪の少女が現れた。
「……なんで、お前がここにいるんだよ。別れの手紙、お前の執務室に置いただろ」
「『また闘ろうぜ。じゃあな』っていくら何でも適当過ぎる。それに、あなたから別れの言葉をもらっても、私からは言ってない」
「……そういうもんか?」
「そういうもの」
『別れの言葉は告げとくもの。直接が難しいなら手紙でも』ということぐらいはルアンも知っていたため、本人を探して中々会えなかったから手紙を書いたのだが……残される方も何かを言葉をかけるということは知らなかった。
「そういえば、お礼言ってなかったね。助けてくれてありがとう」
「……あー、マルファ=イロフスカヤの奴にも言ったが、俺は俺のやりたいようにやっただけだ。だから、礼を言われるようなことじゃねぇよ」
「助けてくれたこと自体は、否定しないんだね」
アンナはクスリと笑う。
それに対してルアンは目を一瞬見開くとバツが悪そうに、
「……別に、それだけが理由ってわけじゃねぇよ」
「知ってる。強い奴と闘って、強くなって勝つのが、ルアン君の生き方だもんね」
「わかってるじゃねぇか」
バツが悪そうな表情から一転、ルアンはカラカラと笑う。
それに対して、アンナもやはり笑顔で、
「助けてくれたことへのお礼はおまけかな。本当に言いたかったのはこっち」
アンナはルアンに向かって手を差し出す。
そして、
「――あなたと一緒に闘えて、楽しかった。だから、あなたがロシアに来てくれて本当に良かった」
思ったことを、そのまま告げた。
「……ハッ」
ルアンは差し出された手を短く笑う。
直後、少年は、
「――あぁ、俺も楽しかったぜ、アンナ」
本心からそう言って、躊躇いなく少女の手を握った。
それを見たアンナは目を細めて、
「……今回は、無視しないんだね」
「あ?」
「初めて会った日、私、あなたに手を差し出したのに、ルアン君それ無視した」
「……そうだったか?」
アンナの言葉にルアンは首を傾げる。
「……覚えてねぇけど、お前が言うならそうなんだろうな。悪ぃな」
「…… ふふ。ルアン君、ちょっと変わったね」
「?変わった?どこが」
「前より素直になった。前までのツンツンしたのも悪くなかっけど、今の方が可愛い」
「可愛い……?」
自分がそんな甘ったるい言葉の対象になるとは思わず、ルアンは先程以上に大きく首を傾げる。
その直後、
「――あ、電車が来たね」
アンナのその言葉に釣られて、ルアンは背を向けていた線路の方につい視線を向ける。
だから、今、オレンジ髪の少年は青白い髪の少女が視界に入ってなくて。
だから、少年は、少女の行動に反応できなかった。
「……ッ!?」
繋がれていた少年の手が、強く引っ張られる。
下に向けて引っ張られたため、横を向いていた少年の頭の位置が少しだけ下がる。
そんな少年の頬に、少女は唇を押し付けた。
「……あ?」
「……」
少年の動きが数秒間止まる。
その間も、少女の唇は少年の頬から離れなかった。
「――よし、と」
少女は数秒ほどでキスをやめ、少年から離れる。
少年は驚いたように、というか実際驚きながら、
「何してんだ、お前」
「何ってただの挨拶。キスが別れの挨拶なのって普通でしょ?」
「――」
少年は無言で今までロシア内で見かけた人々の風景を思い出す。
(……そんな奴、今まで見かけたことなかったよな)
『そういう国』はヨーロッパ辺りではちょくちょく見られるが、確かロシアは違ったはず。
それに、何より。
もしキスがロシアでの別れの挨拶の定番なら、目の前に居る少女はこんなに顔を真っ赤にしていないだろう。
(……顔、普段白いから、赤くなるとかなり目立つのな)
後ろの線路から、キィィィと電車が止まる音が聞こえる。
その甲高い音の中で、少年は、まだ手を繋いでいた少女の腕を引っ張り返す。
驚いた少女の体が、少年の方に引き寄せられる。
そのまま少年は、少女の頬に、キスをした。
「――」
「――」
数秒後、少年は少女の頬から離れる。
……離れてみると、少年が『こういうこと』をするとは思いもよらなかったのだろう、少女は目を見開いて驚いていた。
それに対して少年は、視線を逸らしながら、
「……挨拶なら、俺も返した方がいいだろ」
「……うん、そうだね。挨拶、だからね」
少女は何かに納得させるようにウンウンと頷く。
「でも、一応言っとくけど、挨拶だからって誰にでもしちゃダメだよ?」
「俺がお前以外にやるわけねーだろうが」
「……ふふ。そっか」
少女――アンナは顔を赤くしたまま嬉しそうに笑う。
その直後、少年――ルアンの後ろに停まった電車のドアが開いた。
だから、ルアンはニヤリと笑って、
「――また、闘ろうぜ、アンナ。次は圧勝してやる」
一言だけそう言うと、青白い髪の少女に背を向け電車内に踏み込む。
そんなオレンジ髪の少年の背中に向かって、アンナは、
「――また、闘ろうね、ルアン君。ボコボコにしてあげる」
そう言って、別れを告げた。
直後、ドアが閉まる。
ルアンが背中越しのガラス越しで手を挙げヒラヒラさせると、その瞬間電車はゴドンと物々しい音を立てて駅から出発した。
「……」
ビュゥゥゥゥと、少女の前で喧しく音が鳴る。
しかし、少女は、線路から離れずに、電車が消えるまでその姿を見続けた。
「……」
――寂しくないと言えば、嘘になる。
この三ヶ月、あまりにも楽しかったから。
「――ふふ」
しかし、悲観することはないだろう。
だって。
また、いつか、絶対彼と逢うのだから。
――未来ことなんて、何もわからない。
悲劇なんてどこにでも転がっていて、想像もできないような地獄に出会ってしまうかもしれない。
人生なんてそんなものだと、地獄を見てきた少女はわかってる。
それなのに、何故か、未来は明るいものだと、これから楽しい未来が待っているのだと、そんな幸せを無邪気に信じられた。
ABENSHEEss『少年少女の異能闘争録』
Fin.