幕間 2
幕間2
解導卿リリア=ウォーカーという女が居る。
彼女は、ARSS U.S.A.本部の本部長であり、ARSSに十二しかない席がない上級アーベントの一人だ。
彼女の固有能力は、『完璧なる解答』というものであり、その効果は『見聞きした情報から最適解を見つけ出す』というものである。
この能力により、リリアは『国内の年間鵺被害者ゼロの達成』『要人を狙ったテロ行為の防止』『凶悪な札付きの捕縛』など、数々の功績を挙げている。
この功績の中に、何年もARSSを騙し続けた最悪の裏切り者アーダルベルト=シュルツの捕縛指揮があり、ありとあらゆる人間――いやありとあらゆる事象を予測し、最も優れた最適解を導き出すリリア=ウォーカーは『神の頭脳』を持つとすら言われている。
しかし、そんなリリア=ウォーカーでも限界がある。
どんな人間、どんな計算装置ともかけ離れて優れた脳を持っているのだとしても、『全能』ではないのだ。
それは、実際、『年間鵺の被害者ゼロ』が世界ではなく国内限定なことからもわかる。
勿論、縄張り問題もあるだろうが、そもそも大前提として、彼女の能力をもってしても、完璧に予測・コントロールができるのはU.S.A.国内だけなのだ。
そのことをリリアは自覚しており、『まずは国内』と考えているため、彼女は基本的に国内の事案のみ対応しているのが現状だ。
無論、緊急かつ重要な案件なら海外からの要請も受けるが……U.S.A.に居を構えてる状態では完璧な答えを出せるとは言い切れないだろう。
他にも、『多重人格の人の心は読みにくい』というものがある。
人間の人格は複雑で、それでも目の前の手足や視線、その他の動きから完璧に相手の心を読み解いてしまうのがリリア=ウォーカーなのだが、多重人格者が相手だと『歪み』が発生してしまい、高精度の予測こそはできるもものの、『完璧』とは言えなくなってしまう。
つまりは、リリア=ウォーカーという女が『完璧な最適解』を導き出す特殊能力者だとしても限度があり、『海外の事案』は基本的に対象外かつ、『対象が多重人格者』の場合は解答の精度が落ちてしまう。
だから、今。
北の大地に立つ、金髪の男――元ARSSロシア本部長アーダルベルト=シュルツは、鼻歌混じりにのんびりと歩いていた。
(『地の極土』の崩壊。ま、僕の生存の可能性を精査するのは不可能だろうね)
これがもしリリア=ウォーカーが出張ってきていたら、状況証拠から自分の生存を推察された可能性が高いが……『地の極土』はARSSロシア本部の管轄。
よしんば他本部に助力を求めるとしても、近隣の中国本部か欧州本部だろうし、リリア=ウォーカーさえ来なければ自分の生存に確信なんて持たれないだろう。
(リリア=ウォーカー……。いつか、お礼をしないとね)
とはいえ、無策でU.S.A.に乗り込むわけにはいかない。
一年前、協力相手の尻拭いでU.S.A.に行った時のように、返り討ちに合うだけだ。
(少し、彼女を舐めてた。三十人程度の奴隷でなんとかなる相手じゃなかったな)
とはいえ、今のアーダルベルトに奴隷を作る固有能力『天の支配』はもう無い。
だから、今のアーダルベルトは簡単に兵力を調達できない。
(そう思ってくれたら楽なんだけどね)
――アーダルベルトは、多重人格者だ。
そのため、リリアもアーダルベルトに本来持ち得ないはずの『奥の手』があることを読み切れず、本来ならアーダルベルトは危険故に殺されてもおかしくなかったのに、監禁で済まされていたのだ。
(まぁ、僕が『奥の手』を持っている可能性に気付いてなかったとは思えないけど……諸々のコストとリスク、パフォーマンスとリターンから導いた最適解が『僕を殺さず監禁』だったんだろうね)
だが、それは『地の極土』が破られる可能性が低いこと、そしてアーダルベルトが『奥の手』を持ってる可能性が低いことを考慮しての最適解。
例え極低い可能性だろうが、実現してしまったらそれが現実だ。
(今はリリア=ウォーカーの最適解から外れた状況にある上、リリア=ウォーカーは今回の件に出張って来ないだろう。……とは言っても、僕が生きてることが確定されたら、リリア=ウォーカー……下手したら『復讐姫』が対応してくる可能性は無視できない)
ならば、自分がやるべきことはやはり戦力の確保。
というより、そもそもの話、アーダルベルト=シュルツの本分は計画された暴力だ。
故に、一年前は準備不足により敗北を喫してしまったが、今度は完璧なまでに準備と戦力を整えて蹂躙してやる。
(そのために、まずやらなきゃいけないことは)
アーダルベルトは雪の上をザクザクと進んでいた歩みを止める。
その彼の前には、巨大な倉庫があった。
(……『ここ』は、誰にもバレなかったみたいだね。証拠を残さないように細心の注意を払っといて良かった)
一年前、念には念を入れて、かつての協力者にも『この倉庫』のことを言ってなかったのが幸いしたのだろう。ありとあらゆる財産を没収されたが、『この倉庫』だけは誰にも発見されなかったようだ。
「……これは俺だけのものだ。誰にも渡してなるものか」
文字通り人が……いや人格が変わったアーダルベルトが、傲慢な笑みを浮かべ、鋼鉄でできた扉を素手の力で開ける。
その扉の先にあるのは――。




