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プロローグ

 

 プロローグ



『アーベント』

 それは、1944年に突如地球上に出現するようになった超能力者の名称であるのと同時に、組織『ARSS』によって管理されている『対怪物エージェント』の名称だ。

 彼らは怪物……通称『鵺』を退治するために各々が持っている特殊能力を振るい、普段は能力の使用を制限されてる。

 だから、本来『こんなこと』は起きるはずのないことだった。


「くっ……」


 真夜中の波音がさざめくロサンゼルスの浜辺にて、紫髪短く整えた大柄な女アーベント――ゾフィア=ラッセルは倒れながら苦悶の声を漏らす。

 彼女は組織に何十年も勤めているベテランで、組織の中でも0.5%にしか認定されてない『中級(オルデン)アーベント』だった。

 しかし、中級(オルデン)なのは、彼女の前に居るこの男も同じだった。


「――こんなもんかよ?」


 逆立ったオレンジ髪が目立つ褐色の男……十八歳ぐらいの少年が、自分が先程倒した紫髪の女を見下ろす。


「ゾフィア=ラッセル。そこそこ強いアーベントってのは聞いていたけど……本当にそこそこだったな。ま、ちょっとは楽しかったぜ」


「……!」


 組織のアーベントが組織のアーベントを倒しているその構図。

 本来ならあってはならないことで、普通なら懲戒処分は免れない所業。

 しかし、彼は立場も思考回路も、どちらも普通ではなかった。


「ルアン=ラディーベ……!」


「意味なく名前を呼ぶなよ。自分の名前ぐらいわかってる」


 オレンジ髪の少年――ルアンは飄々と適当に返事をする。

 ルアン=ラディーベ。

 それは、組織きっての問題児で、『暇つぶし』と称して手当たり次第アーベント(どうりょう)に決闘を吹っ掛けるも、『実力者』であることと『決闘で命のやり取りはしてない』ことでなんとか薄皮一枚で処刑(クビ)を免れているアーベントの名前だった。


「このイカれめ……!」


「それ、アーベントにとっては褒め言葉じゃねぇの?」


 ゾフィアは怒りの表情でルアンを罵倒するが、オレンジ髪の少年はどこ吹く風だ。

 そんなことより、


「……やっぱ、お前もう立ち上がれないみてぇだな」


 少年はどこかつまらなそうにそう呟くと、紫髪の女に背を向ける。


「どこに行くつもりだ、ルアン=ラディーベ!」


「もっと面白そう奴なところにだよ」


 ルアンは顔を向けることなくそう囁き、ロサンゼルスの浜辺をあとにする。


「……」


 星空を見上げながら、ルアンはのんびり考える。

 そして、


「U.S.A.で面白そうな奴は一通り当たったし……ロシアにでも行ってみっか」


 気紛れで、次の『標的』を定めた。







 ロシア連邦モスクワ。

 ARSSロシア本部の執務室にて。


「……」


 青白い髪を腰まで伸ばした白い少女が、窓の外の雪を見つめていた。


「……」


 彼女の名前は、アンナ=ヴェルデニコフ。

 ロシア本部の本部長の席が空位のため、スライドで本部長代理を任されている中級(オルデン)アーベントだ。

 彼女はぼんやりと窓の外の雪景色を見つめる。


「……」


 ここから見れる雪に包まれた街は綺麗だと思うし、自分が生まれたこの街にはかなりの愛着ある。

 だが、


「……なにか、起こらないかな」


 十八歳の少女にしては、やや幼い独り言を口にする。

 でも、それは、紛れもない少女の本心だった。


「……」


 不穏なことを求めているわけではない。

 災害やテロ事件のような人が死ぬような出来事は、それこそ死ぬほど嫌いだ。

 だから、『ちょうど良く刺激的で、退屈が凌げることはないかな』と、そんな都合の良すぎるものを求めて窓の外を見つめる。


「……はぁ」


 何一つ変わらず、何一つ変えられない今の現状。

『もう事務仕事も大体片付いたし、能力の訓練でもしようかな』と思った正にその時。



 今まで同じ景色しか見せなかった窓に、初めて見る少年の姿が映った。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――


ルアン=ラディーベ

挿絵(By みてみん)



アンナ=ヴェルデニコフ

挿絵(By みてみん)



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