第14話 前世の家族
休日の午後に上機嫌に妹にプレゼントを買ってから道を歩いている時だった。
「ふんふんふん♪マイちゃん喜ぶかなー?」
ぶつぶつと独り言ちる。
すると前方から聞き覚えのある声がした。
高校生とその母親が一緒に話しながら歩いていた。
「お母さん、今日もお父さんのお墓参り行くの?」
お、佐夜子と多分隣は葵だ。
前世の家族だった。
「そうだよ、ごめんね付き合わせて」
「いいよ、私のお父さんなんでしょ?覚えてないけど」
俺が死んだ時は生まれたばかりだったしな、そりゃそうだ。
「ありがとね」
「でもよく近所の人に聞いたことあるけど、お父さんてクズな人だったんでしょ?なんで律儀にずっとお墓参りするの?」
ご近所って言うと、山田さんと斎藤さんかな、後でピザ大量に注文しといてやろう。
「お父さんはね、口では私に素っ気なかったけどね、私の事毎日愛してくれてたのよ、だから私もあの人の事好きだったの」
多分それは性欲ぶつけてただけですね、そういえば毎日してたかも、もしかして俺の死因ってテクノブレイクなのか?でもまあ佐夜子はそんな風に思ってくれてたんだ、てっきり諦められてるのかと思ってた。
「あ、あんまり親のそういう話聞きたくないんですけど!それより新しい人は見つけないの?まだお母さんも若いんだし私は応援するよ?」
「んー?ごめんね、まだそういう気分に慣れなくて、葵は新しいお父さん欲しい?」
「別に要らないかなー、お母さんが良ければ二人でいいよ」
おぉ、良い子に育ってるな、流石佐夜子、傍若無人な俺の妻をこなせていただけあるな。
俺が生きてたらああはならなかったな、ん?何か落としたぞ。
佐夜子が鞄からスマホを取り出すと同時に小さな財布を落とした。
全く佐夜子は昔っからよく財布落としてたな、もっとデカい財布にしろってあれほど言ってたのに。
二人とも気付かず歩いていったので拾って駆け寄る。
「すいません、財布落としましたよ」
「あら?ほんとだわ、ありがとうね」
「落としやすいなら、もっと大きな財布にしたほうが良いですよ?まあ大きなお世話かもしれませんが」
「いえ、いいのよ、あの人にもよく同じ事言われたしね、私がドジなだけだから財布の大きさ何てあんまり関係無いのよ」
「関係あるんですよ、大きいだけで落としにくくなるので・・・、て、何で泣いてるんですか?」
「お、お母さんどうしたの?」
「あれ?あれ?私なんっ、でっ、泣いてっ」
「ちょ、ちょっとこっちに」
道の真ん中だったので、すぐそこにある公園のベンチに引っ張っていき座らせる。
「何で女性二人してハンカチも持ってないんですか・・・」
二人ともハンカチも持ってない様だったので貸してあげる。
「「ご、ごめんなさい」」
親子ではもる。
「別に謝って貰うことでもないので、それで急にどうしたんですか?」
「えっとごめんなさい、亡くなった夫の事を思い出してしまったんだと思います、理沙さん?と同じような事を言って同じやり取りをしたことがあるので」
ハンカチに大きく理沙って書いてあるので、それで名前がわかったんだろう。
「そうですか、さっき少しお話が聞こえてしまったんですが、旦那さんが亡くなったのはもう何年も前の話何でしょう?そこの葵さんが覚えてないらしいですし」
「そうですねもう15年は前になります」
「大きなお世話かも知れませんが、今だにその旦那さんの事を忘れられないのですか?」
「普段はそんな事無いんですけどね、何だか先程はあのやり取りが異常に懐かしく思えてしまってね」
「お母さんの嘘つき、未だに毎晩お父さんの名前、呟きながら一人でしてるじゃん」
「え、えぇ!?葵もしかして聞こえてたの?」
「そうだよ!この機会に言うけどお母さん欲求不満過ぎじゃない!?前言撤回やっぱり早く新しいお父さん作りなよ!」
「ちょ、ちょっと葵!今理沙さんの要る前で言う事じゃないでしょ!」
佐代子って意外と性欲強かったんだな、そりゃそうか、じゃないと毎晩俺の相手なんか出来ないか。
「そ、そうですか、そういえば今からお墓参りに行くんですよね?私もついて行っていいですか?」
ちょっと自分のお墓に行ってみたい。
「えぇ?どうして?理沙さんからしたら、全く関係ない人じゃない?」
「なんだか折角こんな可愛い子と出会ったんだし直ぐ分かれるの勿体無くて」
娘の頭を撫でながらそう答えとく。
「えぇ!可愛い子って私の事!?てかナンパなの!?」
「まあ、葵は女の子にも持てるんだねぇ」
「では早速行きましょうか!」
葵の手を繋いで歩き出す。
「うーん、なんか納得いかないけど、理沙ちゃんで良いのかな?ちっさくて可愛いね中学生かな?」
前世の娘に可愛いって言って撫でられた・・・。
「理沙です、高校1年生ですよ」
「じゃあ私の1つ下じゃん、何処に通ってるの?」
「英知奈高校だよ、葵は?」
「私は娘野高校だよ、じゃあ比較的ご近所さんだね」
「そうだね、葵は勉強はしっかりやってるかな?お母さんに迷惑かけてないかな?」
「何それ、理沙は私の父親か、勉強はしっかりやってるし、お母さんに迷惑かける事はしてないよ」
父親だよ。
「それなら良かった、さやっお母さんを大切にしてあげてね」
「なんでそれを理沙が言うのよ、当然だよ、たった一人の家族だし」
ーー
自分のお墓に着いたので二人と一緒に手を合わせる。
どうか安らかに成仏・・・、成仏?うーむ、転生は既に成仏してる扱いなのか?わからん。
「さ、帰りましょうか」
佐夜子が切り替えた様にそう言った。
「はい、お邪魔してすいませんでした、葵、Rine交換しよ」
「果たして良くわからんナンパして来てお墓参りについて来た、よくわからん輩にRineのIDを教えて良い物だろうか」
「私は良いのよ!でも他のそんな奴が居たら絶対ついて行っちゃだめだからね!特に男には気を付けて!」
「それ絶対に理沙が言うことじゃないと思う」
そういいながらもコミュニケーションアプリのQRコードを表示してくれる。
「いいからいいから、はいドーン!じゃあ何か困ったことがあったら連絡してね!」
「はいはい、そっちもね」
「あ、ハンカチは別に捨てても良いからね、あとこれもあげる、じゃあね」
妹用のプレゼント葵にあげる事にした。
「あ、うん、じゃあね理沙、ありがとう」
「理沙さんありがとうね」
手を振って駆け足で離れる、何だか俺も泣けて来てしまった。
前世じゃ何も感じなかったのに、この体になって感受性豊かにでもなってるのかな。
******** side佐夜子
「なんか変な子だったね」
「そんな事言っちゃダメでしょ、変わった子ではあるけど」
「お昼そこのファミレスで食べて行こうよ」
「はいはい、お金は・・・あら?」
「どうしたの?もしかして抜かれてた?あんないい子そうなのに意外」
「うーん?違うのよ増えてる?一万円札が30枚くらい、こんなに入れてるはずないんだけど」
「は?流石にあの子が入れるのはおかしいでしょ、また降ろしたの忘れてるんじゃないの?ほんとお母さんは抜けてるんだら」
「それはあんたもでしょう、うーん?こんなに降ろしたかな?まあなんか得した気分だね、佐代子の欲しい物、特別に何か買ってあげるよ」
「え!本当!?わーい!いきなりどうしちゃったの?」
「なんだかそうしないといけない気がしてね」
「ふーん、変なの」
******** side end
そのまま駆け足で家に帰った。
養育費としては少なすぎるけど、財布を返す前に自分の財布のありったけのお札を入れておいた。
葵に何か買ってくれればいいなと思ったから。
あととにかく葵に何かあげたくて、とんでもないもの葵にプレゼントしてしまった気がする。
「あ、お姉ちゃんお帰り」
「ただいま」
何だか気持ちが整理が出来なくて妹の胸に抱き着く。
「わ、お姉ちゃんどうしたの?いつもはマイが抱き着くのに、何かあったのかな?」
「んーん、何も無いよ、でも暫くこのままで居させて」
「お姉ちゃんが甘えてくるの嬉しいな、よしよし」
しばらく妹の胸に顔を埋めながら静かに泣いた。
妹は俺の頭を撫でつつもずっと俺の頭の匂い嗅いでた。
その後山田さんと斎藤さんの家に10枚づつピザを注文しといた。
間違えて自分のIDでログイン中になってたのに気づいたのは後になってからの事だった。
(山田ぁーーーー!斎藤ぉーーーー!!!!!)




