悪魔と、才
翔真に連れてこられたのは、第二棟にある社会科準備室。
入学したての一年がこんな教室知っているはずない。
「さ、入れよ。」
そう促されて扉を開く。
中には、
「あ、荒川くん!いらっしゃい!」
「君が荒川翔真くんだね。さ、入って入って。」
「・・・。」
「…は?」
三人の人物が。
「これから昨日のこと話すけど、それは俺からじゃなくて先生から。」
優はそう言って中にある椅子に腰を掛けた。
「ほら、荒川くん、こっち座って。」
そう呼ぶのは、白咲望楓さん。
あの、白咲さんだ。
そして机のすぐ横の椅子に座っているのは、知らない教師。
その教師の奥にいるのは、
「早く入って。誰かに見られたらどうするの」
…花月さんだ。
ひとまず白咲さんの隣に座らせてもらう。
「では改めまして。
初めまして荒川くん、世界史教師の灰神露九だよ。露九先生って呼んでね。」
「は、初めまして…?」
自己紹介からはじまる。
「君、昨日変なモノに襲われたって聞いたよ。いや~災難だったね。」
災難って。
そんな言葉でさらっと本題に入る先生。
「君はさ、悪魔って信じる?」
「悪魔ですか?」
そんなこと言われても。
でも昨日のアレときっと関係あるのだろう。
「悪魔はわからないですけど、心霊現象が起きるのであれば、悪魔がいると考えられると思います。」
俺の答えに、先生は満足そうに笑った。
「うん、いい答えだね。正解は、悪魔はいる。」
突然真剣な表情になり、空気がぴりつく。
「昨日君が襲われたのも、悪魔だ。」
あれが、悪魔なんだ。
「悪魔っていうのはね、みんな知っている通り、人に災いをもたらす生き物だ。」
「生きているんですか?」
「うん、生きている。強い悪魔になるにつれて、自我も強くなっていくんだ。でも、昨日のあの悪魔は、そんなに強くないから、自我はないと思うよ。」
あれが強く無い悪魔なんだ。
そしてここから話は少しずつ深くなっていった。
「悪魔っていうのはね、基本的に、人間の敵だ。人を殺して養分にする。でもすぐに人間を殺せる悪魔っていうのはほんとに少数でね。多くの悪魔は基本的に少しずつ標的を弱らせてから殺して食べるんだ。だから、人が殺される前に、悪魔を倒さないといけない。まぁ、普通の人にはそんなことできないし、悪魔も見えないけどね。」
そう言われて、少し表情を硬くした。
「でも、悪魔を祓える人間がいる。それが僕たち。」
先生は彼らを見渡す。
すると、白咲さんが口を開いた。
「人ってね、才能を持ってるじゃない?その才能っていうのは、誰にでもあるものなの。
スポーツの才能、芸術の才能、勉強の才能。でも私たちはそういう才能じゃない。私たちにあるのは、悪魔を倒す才能なんだ。」
彼女は俺の手をにぎり、こう言った。
「それは、たぶん荒川くんにもある。」
一瞬、思考が停止した。
俺に、悪魔を倒す才能が…?
いや、そんなはずない。
「その才能は才っていわれてて、才を操る人の事を魔術師って呼んでるの。」
魔術師、か。
じゃあ白咲さんたちは魔術師なんだ。
…え?
冷静に考えると、まったく理解できない。
「才は基本的に血筋が関係しているんだけど、君の家系は魔術を扱える?」
露九先生は再び俺に向き直り質問を投げかける。
「いや、そんな話、聞いたことないです。そもそも、俺もう親いないし…。」
そこまで言って、考えた。
両親は死んでいたとしても、祖父母はわからない。
母方の祖父母はちょくちょく会いに行っているが、そんな話は聞いたことがない。
しかし、父方の祖父母は一度も会ったことがない。
「…もしかして、父さんのほうか?」
「僕にはわからないけど、君には必ず才がある。だから、この部活に入ってくれないかな?」
「部活?」
「うん、僕たちは、怪奇現象部。表向きには不可解な現象に頭を突っ込むマニアックな部活だけど、本当の顔は、悪魔を倒す才を持った人間が集まる部活だ。」
ぜひ、検討してほしいな。
そういって説明が終わり、優と帰路に就いた。
…いやいや、え?
全然頭が整理できない。
昨日のアレは、悪魔。
それを倒すことができるのが才で、その才を持つのが魔術師で。
俺にはその才があって。
父の祖父母が謎で。
いや、わからん。
「何考えてるのか、予想着くけどさ。また明日、社会科準備室行こうぜ。そうすれば少しは理解できると思うぞ。」
じゃあな、翔真。
優は俺の家の前を通り過ぎていった。
ただいまも言わずに自室に入る。
はぁ。
とりあえず、おばさんにだけは心配かけないようにしよう。
部屋着に着替えてリビングに降りて行った。