当然の日常
××年四月。
桜は満開で、四月といってもまだ少し肌寒い。
花びらが落ちる並木道を一人歩いていた。
俺は荒川翔真。
この春に高校生になったばかりの一年。
まだ見慣れない通学路は少し緊張する。
「あ!荒川くん、おはよう!」
ふと声を掛けられて後ろを振り返る。
そこには、同じクラスの女子生徒が。
白咲望楓さん。
中学からの同級生で、何回か話したことがある程度なのに名前を覚えてもらえている。
「お、おはよう白咲さん」
慌てて返事を返すと、笑顔で手を振って友達と先に歩いて行ってしまった。
朝から白咲さんに会えるなんて。
そう。
皆さんもお気づきかもしれないが、俺は白咲さんのことが好きだ。
そりゃ好きになってしまう。
彼女はとても可愛らしくて、誰にでも笑顔で、何より謙虚で優しい。
入学して少ししか経っていないのに、もう学校中にその可愛さが広まっている。
俺の名前まで覚えてくれている。
好きにならないなんて無理。
(今日はツイてるな。)
そんなことを考えながら上の空で歩いていたら、
突然誰かに後ろからのしかかられた。
「うわっ」
「朝からなーにしてんだよ」
「優!いきなりびっくりするだろ!」
重量の正体は俺の親友、水神優。
小さい頃からの幼馴染で、幼稚園から小中高と全て同じ学校である。
俺の反応を楽しんでいるのか、ニィっと口角を上げて笑う優。
昔からいたずらが大好きでよく優のお袋さんに怒られていた。
しかし中学に上がるにつれて、いたずらよりもサッカーに熱中するようになり、今では優の右に出るものがいないくらい上手い。
そんな彼を見て、周りの女子生徒たちがきゃあきゃあ黄色い声援を上げている。
サッカーバカなこいつは、悔しいくらい容姿端麗で、イケメン。
親父さんもお袋さんもとてもきれいな顔立ちで巷では有名だ。
その遺伝子を全て受け継いでいる。
ただ、その中身はほぼ小二。
「白咲さんに話しかけられてニヤニヤしちゃってさー」
「仕方ないだろ!誰でもするだろ!」
「オレはしませーん」
そんな会話をしながら学校へ向かう。
こんな毎日が、その時の俺には当たり前だった。