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恋愛小説短編集

鈍感系主人公になれなかった敏感系男子と、とある女子の話

「私、好きな人がいるの」


 休み時間中に、クラスメイトの夏野佐記(なつのさき)がそう語る。

 その言葉を聞いた俺の脳裏に電流が走る。


 これは恋バナだ。

 夏野は恋バナをしたいんだ。


 オーケー。俺よ、冷静になれ。

 仮に俺が女子だとして、男子を好きになったとする。

 その場合、どんな男子を好きになる? そんなの決まっている。


 陽キャでイケメン、ハイスペのスパダリだ。


「つまり夏野は柏木が好きってことか?」


 柏木恭介(かしわぎきょうすけ)。彼は隣のクラスにいるサッカー部のストライカーだ。

 部活の練習でゴールを決めるたびに、グラウンドには黄色い歓声が飛ぶと聞く。


 そんなイケメンでスポーツ万能、性格も良いと来たら惚れるのも無理がないことだろう。


「……ふっ」


 夏野に鼻で笑われた。


 なん……だと……?

 柏木はこの学園で一番告られている男子だぞ。

 そんな男子じゃ満足しないって言いたいのか?


 つまり、学園内にはお目当ての男性がいないということか。それだけの男子がどこに……いや、居たな。

 テレビの向こう側の住人か。

 例えば、俳優や男性アイドル。


「じゃあ、俳優の成尾雅人(なるおまさと)とか、シャイニング・スターズでセンターをやっている簗田浩一(やなだこういち)とかか?」


「――いい線行ってるね。私の好みを分かっているじゃない? でもモニターの中にいる人たちを好きになる趣味はないの」


 そりゃ好みは分かるさ。夏野とはよく談笑するからな。

 会話の端々で成尾雅人の名前や、シャイニング・スターズのセンターをやっている男性の話は聞いたことがある。


 彼女はテレビを観るのが好きらしい。

 だから、俺も彼女と話題を合わせるべく、ドラマやバラエティ番組を観ていたりする。


「でも夏野は『はす向かいの西山くん』ってドラマ、好きじゃないか。簗田浩一も成尾雅人も出てるだろ? あれ」


「そうだけどさ、私が好きなのはドラマの登場人物なのよ。中の人を意識してるわけじゃないの。わかる?」


 とばっちりを受ける俳優陣。何でこんな一学生にぼろくそに言われなきゃいけないのか、それは神のみぞ知る。


 となると、夏野が好きな男子って接点のあるやつってことになるのか? まあ、そうなるだろう。

 わざわざ性格の分からない男性を好きになることは無い、と思う。たぶんだが。

 彼女の性格的を考慮すると、身近な男子に好意を持った可能性が高い。


 そう考えて、俺は頭を抱えた。

 はっきり言って、夏野はモテる。

 遺伝なのか美容に気を遣ってるのかは分からないが、容姿が良い。まずその時点で第一印象が良い方向へ傾く。

 さらに性格も良い。彼女はどんな人物に対しても分け隔てなく接する。年上には敬意を払うし、年下には優しく接する。

 なお勉強もスポーツもできる。


 完璧超人かな? おお、神よ。何故あなたは一個人に二物を与え(たも)うのか。


「まあ、分かるよ。なんだかんだで長い事友人をやってるからな。じゃあ志摩(しま)か? 全国統一模試一桁代の」


「君って変なところで鋭いね。志摩くんは――うん。ちょっと色々あったけど、ただの友達だよ?」


 色々ってのは大体察しが付く。

 志摩が夏野に好意を持っているのだ。

 つまり告白されたか、それに近いことを過去にされたのだろう。


「まあ、根掘り葉掘り聞かないけどよ。――正直、選択肢が多すぎて当てるのめっちゃ難しいんだが」


「……アホ」


「いきなりの罵詈雑言は酷くない?」


「まあいいわ、答え合わせといきましょう? まず、この学園の男子なのは確かね」


 となると当てはまる男子は全学年合わせて300人ってところか。


「それで、同じ学年」


 つまり100人に絞られたな。


「もういっこ。このクラスの男子」


 志摩は弾かれるから、残り19人か。


「あと、入学式の時に遅刻しかけて――その理由が迷子になってたおばあさんを交番まで送り届けたことかかな」


 ……その男子、心当たりがあるんだが。

 そりゃそうだ、なんせそれをやった人物は俺だからな。なお、パトカーで学園まで送り届けてもらうというやらかしもした男子でもある。

 校舎から校長が飛び出してきたものだから、一時騒然となった。


「あのー……。まさかですが、その男子の名は舞正樹(まいまさき)では?」


「――そうね」


 夏野は俯きながら、そう呟く。

 彼女の頬は紅潮していた。


「……俺じゃねぇか!」


「舞くんは遠回りし過ぎなのよ。ただ、鈍感じゃないのが救いね。でもちょっと察しが悪い」


 夏野は俺の額に軽くデコピンをする。

 おでこに刺激が走る。


 つまり、俺は告られたのか?

 心臓の鼓動が激しい。友達から恋人になる手順を踏まれたとみていいのだろうか。


「まあ、なんだ……。とりあえず下校時間になったら一緒に帰るか? 積もる話もあるだろうし」


 彼女は自分の後ろに手を回し、笑みを浮かべる。


「ほんと、そういうところ」

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