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男の約束

 バチュンッ ギャウッ 跳ねていた一匹が銃弾を受けて吹き飛ぶ。

 オッオッオー!? 地に落ちて動かなくなった猿を見て猿たちが動揺して攻撃のリズムが崩れる。

 「今だ!体制を立て直せ、前列は抜刀、後列は銃で援護しろ!」

 副隊長の号令のもと鍛えられた組織は冷静さを取り戻す、短いナイフだけの猿たちは間合いの長いサーベルの前に近づけなくなる、さらに空中にいる猿を銃弾が襲う。

 ギャッ グギャッ 統制された騎兵隊の前に猿たちの奇襲攻撃は威力を失いつつあった、初撃で騎馬隊の隊長と数人を倒してからは猿たちの損失の方が大きくなっている。

 「いいぞ、このまま追い詰めてやる!!」

 副隊長が激を飛ばす、サーベルをかかげて突撃する。

 ギャッギャースッ 林道の奥から大きな影が号令らしき叫びをあげる、猿の群れが呼応する、オッオッオッ ザザザアッ 一斉に林道をそれて森の奥に退散していく。

 「追え!逃がすな!!」「隊長の仇だ!」

 騎馬兵も猿たちの後を追って森へ踏み込んでいく、籠罠の中へ。

 

 「あらあら、みんないっちゃったけど、なんか怪しいわね」

 「罠だとお思いですか?猿が人間に対して罠を仕掛けると!?」

 執事リブローが片眼鏡を吊り上げた。

 「そんなの分からないわ、でもバクラリさんが調教した生物兵器でしょ、普通に考えてはいけないと思うの」

 「バクラリさんはどう思います!?」

 「マンドリルは元々大きな群れを作る動物、他種の猿を率いていることは頷けます、そして武器を使うことを教えたのは私たちですが罠とは高度過ぎます」

 「それだけバクラリさんの調教が上出来だったということでしょう、そうね、見てみたいわ、あのお猿さんのやる事をね」

 「マイ・ミストレスいけません、近づくのは危険です、バクラリ君、君が確認してきたまえ」

 「あら残念、リブローさんの許可が出なかったわね」

 「承知しました、私が仕込んだ兵器の性能とやらを確認してまいりましょう」

 「あーバクラリ君、帰り道の荷運びはいないと困ります、騎兵隊の全滅は避けてくださいね」

 「ふんっ」バクラリはリブローに一瞥だけすると馬車を降りて馬に跨り騎兵の後を追って森に消えた。


 銃声は散発的に聞こえてくる、戦闘は止まっていない。

 「エミー殿、ひとつ分からない事がある、聞いても?」

 「どうぞ、遠慮はいらないわ、エド」

 「フローラの影武者、このことに貴方のメリットはあるのか、狙いはなんなのだ」

 「偶然ね、たまたま顔がそっくりだったから関わってしまった、では不十分?」

 「今も、今までも命に係わる事件の最中にある貴方が何を欲して戦うのかが知りたい」

 「私には・・・心が半分ない、人を殺しても何とも思わないし、デル兄さんの話を聞いても悲しくはあるけれど涙一つ出てこない、第一今までに泣いた記憶がない、貴方は私の洞察力を褒めてくれたけれど、それは私が動揺する心を持っていないから、恐怖に竦むことも、怒りに我を忘れることも、喜びに震えることも出来ない」

 「一聞すると羨ましい話のように聞こえるが・・・」

 エドはエミーの言わんとすることが理解できずにいた。

 「持っている人に理解してもらうのは難しい、でも動揺出来ない心、様々なフラストレーションに異常な耐性を持っているということ、それは痛みや喜びを誰とも共有できないということなの、人の輪の中にいれば余計に際立ってしまう、自覚してしまう、だから人の環の外から眺めていたい」

 「皆それを求めて鍛錬する、やはり羨ましい事のような気がするな」

 「一種の先天性異常、病気ではないけれど手足がないようにない、訓練で身に着けた物とは根本的に違う、ギフトではないのよ」

 「そうか、軽々しく言うべきではなかった、すまない」

 「いいの、怒りは湧かないから・・・鏡のようなフローラをギルドで初めて見た時、ギルド長に真っ赤な顔で怒鳴っていたわ、その後偶然話しかけてきた顔は優しかった、私とそっくりな顔が表情をもって動いている、憧れたわ」

 「・・・」

 憧れを口にした時だけ僅かに声が揺れた。

 「エド、貴方とは違う意味で私はフローラを失うことが嫌なの、泣いたり笑ったり怒ったり喜んだりする自分の顔を見ていたい、それが戦う理由」

 「人が戦う理由は金や物欲だけじゃないのだな」

 「貴方ならフローラの相手に相応しいと思う、応援するわ」

 「ははっ、その顔で言われると妙な気持になるな」

 「恥ずかしいから誰にもいわないで」

 「ああ、分かった、約束する」

 「男同士の約束よ」

 二人は拳を合わせた。


 マナーハウス裏のシファとマンバはヤマさんの手裏剣攻撃の前に裏山から動けずにいた、縦横に張り巡らされたシルク糸はランダムに伸びていて張られた位置を特定することを難しくしている、慎重に動いてもどうしても引っかかってしまう。

 鈴が鳴るたびに弧を描いて手裏剣が襲ってくる、いったい何枚装備しているのか、飛んできた総数は二十枚以上だ。

 「これでは埒が明かない!」

 ジレたマンバが舌打ちする。

 「煙幕弾を使って強行突破するしかないね、その後はどうする?」

 「煙幕ではダメだ、敵は今も視覚に頼っていない、榴弾を使おう、その後はバクラリに影武者の報告だ、ミストレスたちももう到着しているだろう」

 「この木の密度の高い急斜面で上方に向かって榴弾を投げるつもりかい、自殺行為だよ」

 「爆発までの時間を計算して隙間を狙うしかない、俺がやる」

 「良しとくれ、自分の武器を人に任せるほど堕ちちゃいないさね、任せな」

 「分かった、狙いは右斜め上、そんなに遠くはないはずだ」

 「あいよ」

 榴弾を背中のバッグから取り出すと直ぐに着火する。

 「いくよっ」

 ガサッ 一気に投擲、モリスの肩には及ばないが重い榴弾が木々の間を縫って一直線に飛翔する。

 「幹の後ろに隠れろ!」

 ズガァァンッ 榴弾は空中で爆発して中に仕込んであった鉄球を必殺の威力で周囲に飛び散らす。

 「今だ!!」

 シファとマンバは鈴がなるのもかまわずに一気に裏山の坂を駆け下る。

 手裏剣は襲ってこない、平地に小屋の前に降りても速度を緩めることなく駆け抜ける、そのままマナーハウスを突っ切ると正面の森に姿を消した。


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