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国王の決断

 王家禁軍作戦本部は朝から緊張に包まれていた、ラングドトンの港から兼ねてから建造されていた新型武装蒸気船が出航したとの知らせが届いた。

 「その戦艦は何処へ向かったのか分かるか?」

 円形の木製テーブルは傷だらけだが巨木から切り出された一枚板、この上で数々の立案がなされた、時には怒号、時には涙に濡れた人間模様を見てきた。

 エドワードの父であるジョージ・ラインハウゼン王一世は一代で国を興した傑物。

 ブラウンの髪を肩まで伸ばした長身痩躯、端正な顔の額から頬にかけて大きな刀傷がある、太い眉と切れ長の目に隙は無い。

 王宮も舞踏会場のような煌びやかさはない、分厚い素岩で組まれた古城を改修して作られた城は質実剛健でドレスを引き摺る者はいない。

 「はい、ムートン男爵領に近いニースの港だと思われます」

 禁軍長官ガースンが報告書を読み上げる。

 「セオドラ公爵・・・ついに一線を超えるか・・・」

 ジョージ王は顔を曇らせた。

 「皇太子エドワード様からの伝文にも同様の事が記されています、生物兵器を使用してムートン男爵の暗殺を主導したのも公爵であり、今ムートンの地を侵略しようとしており明確な反逆行為であると」

 ガースンは怒りを堪えているが額に浮き出た血管が真意を語っている。

 「我が弟オーエンの妻だ、反逆者にしたくはなかったのだが・・・そろそろ限界か」

 「王妃様が悲しまれますね」

 「ああ、王妃は妹としてセオドラを可愛がっていた、大戦で夫を亡くし、ドーマで一人息子を亡くした悲劇には深く同情するが、王家に弓を引くはお門違いだ」

 「前ドーハ国王は周囲に敵を作り過ぎた、諸侯や民を蔑ろにして踏みつけすぎては反発も招く・・・今まさに我が国にもそれが起こっている」

 「反逆の芽は摘まねばなりません」

 「やるしかないな」

 

 国王ジョージは決断した。

 「これよりラングドトン公爵は反逆者として討伐対象に認定する、ニースに向けて海上禁軍艦隊を派遣、騎馬隊は五百、これを持ってムートン領に侵入した公爵兵を殲滅せよ」

 「ははっ、直ちに出航いたします」

 海上将軍が敬礼と共に立ち上がる。

 「同時に陸上禁軍も騎馬兵五千を率いてラングドトンに侵攻せよ、公爵軍には武装解除を通告、譲らなければ討て」

 「御意、準備は出来ております」

 「これにより我が国は内戦状態に突入したと国民に知らしめよ」

 円形テーブルの間から全員が弾かれたように自分の部署に走り出していく、事前の根回しは出来ていた。

 皆が出ていった議場で一人ジョージ王は窓の外を流れる川の流れに視線を落とした。

 ドーマの悲劇を思い返す、ドーマ王は頭脳派で頭が良かったが、部下を見下し卑下することが多く口を開けば叱責の言葉しか聞こえない人間として有名だった。

 セオドラの息子ダフネルはドーマ王の娘と結婚して、ゆくゆくはドーマ王を継承する立場にあったが、荒ぶる王をいさめる事叶わずに怨みを募らせた諸侯たちのターゲットにされたのだ。

 水面下でクーデターを起こした諸侯たちにダフネル解放の折衝を行ったがダフネル自身が解放を望まなかった、自ら国制を乱した罪を償い処刑台に上がった。

 潔く立派な最後だった。

 その責任感に感じ入ったクーデター軍もジョージ王に対して敵意を見せる事なく和平を結んでいる、戦争となれば敵味方合わせて多くの血が流れる、ダフネルはそれを恐れたのだ、自分の首より数万の民の命を救うことを選んだ。

 「その命の中には母である貴方の命も含まれているのだぞ、セオドラよ」

 王の独り言は深く重い川の流れに呑まれて消えていった。


 岩人の里の教会は入りきれないほどの人で溢れた、元々緊急避難所としての役割も持たせてある施設、水や食料の備蓄は十分だが全員を屋根の下に収容することは不可能だ、戦えるものは自前の兵装で周囲の防衛に立ち、五メーターほどの間隔で男たちが教会をグルっと囲む。

 木を組んだり戸板を立てたりして簡易的なバリケードを設置する、アオギリたちが弓を持ち遊撃隊となる。

 教会の正門の向かい流れる渓流を挟んでムートンの森が広がっている、急坂に針葉樹の黒い森が広がり視界を塞ぐ。

 フローラたちチームエドワードがバリケードの外で待ち構える。

 「もう一回来るのか!?」

 「どうだろうな、普通の野生動物なら暫くは現れないだろうが、相手は魔猿熊ヤーグル、予想できない」

 最前列に立ったガイゼルとエドが盾を前に森を見据えた、今は増水した川の音だけが響いている。

 高く上がった太陽が初夏の日差しを強くして皆の影を濃く短くする。

 パァァァンッ パパァァンッ 微かに聞こえた銃声は複数だ。

 「銃声だ!」「遠いな・・・」「まさかグラディアか!?」

 ジュン少尉が心配そうにマナーハウスの方向を見やるが、風向きと距離が遠すぎる。

 「たぶん違う・・・フローラたちは逆方向に向かっているはず、あれはさっきの籠罠のあたりだわ」

 エミーの目が細くなる。

 「スイセンの毒で足止めした騎馬隊とは別の隊が到着したのかもしれない・・・」

 「エミー殿、だとしたらあの銃声はヤーグルの猿たちとラングドトンの連中がやり合っているということですか」

 「おそらくその可能性が高いと思うわ」

 「潰し合ってくれれば好都合だけれどどうだろう」

 「人間が不利ね、銃はジュン少尉の矢のように曲射できない、それに傘となる盾を持っていなければ制空権をとられて戦うことになる、ただではすまないわ」

 「そうだな、俺達は知っている、あの猿共の恐ろしさを」

  パパァッパパァッン 規則的だった銃声の間隔が乱れたことにエミーだけが気付いていた。


 ラングドトンの騎馬隊はエミーの推理どおり森に入ってすぐに魔猿熊ヤーグルの群れと遭遇した。

 木の上で待ち構えていた猿の一軍が細い林道を一列になって登ってくる先頭に襲い掛かった。

 ギャースッ ギキィッ オッオッオッ 先頭の隊長は三匹の猿に急降下爆撃のようなタックルを受けて馬から転げ落ちた。

 「ぐわっ、なっなんだ!?」

 最初は太い枯れ枝が落ちてぶつかったのかと思ったが、激しい獣臭と鳴き声に自分たちが放った生物兵器の攻撃だと理解した時、首筋に熱い衝撃が奔った。

 ドシュッ ビューッ 隊長は首から血を滝のように吹き出し倒れた。

 「この猿共ナイフを持っているぞ、隊長がやられた!死んだ!!」

 「猿に殺された、やばい!!奴ら木の上だ!」

 細い林道の馬上で兵士たちは進むことも引くことも出来ずに混乱した、猿たちは樹上からのヒットアンドアウェイを繰り返す、やがて騒ぎは列中央のミストレスにまで届く。

 「どうしたの、何事かしら」

 「ミストレス、どうやら先頭が生物兵器の襲撃をうけているようです、複数います」

 バクラリが馬車から身を乗り出して先頭を確認する、はるか先で怒号が渦巻いている。

 「あら放牧したのは一頭だけなのに群れを作ったの、おりこうさんねぇ」

 「何人かやられたようです」

 「仕方ないわ、援護してあげましょう」

 ミストレスは新型のライフル銃を手にとると馬車の天窓を開ける。

 「どれどれ・・・あれね、まあ、期待以上の働きぶりだけれど刃を向ける相手が違っているわよ、お猿さん」

 ドゴォォッン

 ミストレス・ブラックパールが狙い定めたライフルの銃口が火を吹いた。


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