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空避

唐突にエドは東郷塾の事を思い出した。

 昨日の今日だか明日はムートンの森に魔獣調査に赴く、調査とはいえ魔獣からの襲撃も予想される、館にいる間は可能な限りフローラと過ごしたかった。

 フローラと二人の談笑は楽しく、エミーとでは対等になれないがフローラとなら等身大で話すことが出来ると知った。

 昨日聞いたエミーの出身の孤児院、東郷塾、今回の旅に出立する前に回ってきた膨大な決済文書の一枚、警備隊からの物だった。

 国内の子爵が殺され館が焼かれた事件に関するものだ、評判は悪かったが一応国王派の子爵だったため早い犯人逮捕となり、その犯人の出身に東郷塾の名前があった。

 犯人は自主してきたらしく単独犯で貴族を含む数人を殺害していた。

 刑は帆船の終身漕ぎ手、貴族殺しにしては軽いが貴族の悪行と相殺されてのことだ。

 この手の犯罪は多い、事例としても珍しくないため余程のことがないと記憶には残らないが珍しい東洋の名前に覚えがあった。

 フローラには黙っていた、言う必要はない、少なくともエミーと事件に関りがあるわけではない、犯人も自白しており捜査は終了していたからだ。

 だが、エミーには確認してみる必要がある、今後、ムートン家と王家の関係の障害にならないよう全てを知っておかなくてはならない。

 

 その日の午後、裏山の広場にチーム・エドワードとエミーの姿があった。

 魔獣狩りに同行するにあたり各々の技と力量を把握していなければ背中を預けることはできない。

 エドが提案したことだがエミーも同意見だった、自軍の戦力の把握は作戦立案の前提となる絶対条件だ。

 バヒュンッ ガイゼルが巨大な盾を前にハルバートの槍を突き出す、壁のような盾は厚い金属製で至近距離からの銃弾でも貫通できない、それを片手で軽々と掲げ、片手で重いハルバートを操る剛腕を持つ。

 「次は俺だ」モリスは中間距離からの飛び道具を得意とする、具体的には投げナイフだ、ガイゼルの盾の裏から敵の隙間にナイフを突き通す。

 そして比類ないほど肩が強い、膝付きの姿勢から三十メーターをライナーで投げる。

 メジャーリーグのキャッチャーだ。

 「次はあたいだね」ジュン・アポロウーサ、六月の破壊者、曲射弓術の使い手ジュン少尉、その技は森の木を避けて的を射抜く、カーブ、シュート、スネークショット自在に曲げる、連射速度と命中精度は凄まじい、マスケット銃では歯が立たないだろう。

 「次は私だ」エドがハルバートを構える、人が操る刀剣状の武器で最も殺傷力が高い武器がハルバートだろう、槍と斧を先端に備え、突き刺し、叩き潰し、切り裂く、破壊の到達点。

 エドのハルバートは竜巻だ、大質量の刃が隙間なく空気を切る、その間合いに入ったならフルプレートの鎧でさえ粉砕される。

 ズドオンッ 直撃を受けた太い木の幹が叩き切られた、まるで戦車の砲撃を受けた様にバキバキに粉砕される。

 紛れもない剛の剣、欺くことを必要としない正統派の戦士。

 

 「凄い、まるで竜巻ですね」エミーが掛け値なしに驚く。

 師父東郷の剣は剛でも柔でもない、その風貌と巨体からは想像できない滑らかで無駄がない、一見ゆっくりと見える動作が実は神速であったりする、比べてエドの剣は若く力に満ちている、勢いのある剣技はエドの内面も映しているようだ。


 「それじゃ次は私が・・・」

 「ちょっと待って」

 エミーが刀に手をかけたところで聖女グラディアが待ったをかける。

 「私の番よ」

 「えっ、聖女様も戦闘なさるのですか!?」

 「もちろんです、ただの同行者ではないわ!私の武器はこれよ」

 バサッ 聖女服の下に隠し持っていたのは短銃だ。

 「短銃!しかも銃口が四つ?」

 「そのとおり、四連短銃よ」

 しかも二丁拳銃、ガオンッガオッガォッガオンッ 早い、狙った幹を外さない。

 「短銃で凄い命中率ですね」

 「ダブルハンド・セイントとは私の事よ」銃口に軽くキス。

 「ヤマさんは東洋の忍者だ、軽業師のように身が軽い、モリスと同様に投げ技も使うが刀もやる、隠密行動の斥候は得意分野なのは知ってのとおりだ」

 「はい、まさに今活躍して頂いています」

 「きっと上手くやってくれるだろう」

 「上手くいけば五十人の戦力は殺さずに壊滅できます」

 「我儘を言ってすまない、内戦になるとは決まっていない状況で無暗に自国の兵を殺したくはない、分かってほしい」

 エドが頭を下げた。

 「いいえ、皇太のお気持ちは分かります、ですが万が一にもフローラに切っ先が向いたならば容赦はしません」

 エミーは全員殺すべきだと主張していた。

 「もちろんだ、その気配があったなら私たちも迷う事はない」

 静かに頷いたエミーの手が愛刀ジグロに伸びる、空気が冷えていく。

 「私には皆さんのような力はありません、地味な基本動作ですが(空避:くうひ)という技です」

 エドが切り倒した木から手首ほどの太さの短い枝を切り取ると無造作に放り上げた。

 シャオッ クルクルと回転しながら落ちてきた枝に向かって銀鱗が弧を描き、なんの抵抗も見せずに枝を通り抜けた、翻して二連、三連、エミーの腰が落ちる、頭の位置はぶれない。

 枝はストンと地面に真っすぐ落ちた、最終五連撃は地上僅か数センチを掠めて乾いた土をフワリと舞いあげるが刃が地面に触れる事はない、完璧な距離感覚。

 「触れていない!?」

 モリスが枝を拾って確かめる、刀傷はまったくない、銀鱗の弧は確かに届いていたが、その刃は枝の回転に合わせてすり抜けていた。

 「なんと!意識的に躱して振ったのか・・・信じられん」

 「失礼しました、私は膂力がないかわりに多少のスピードと制御力があります、相手の動きの急所となる指や鎧の隙間を狙います、それと数撃なら鉄も切ることが出来ます」

 「鉄が切れるとはどういうことですか?鎧も切断できると」

 「はい、腕や足なら可能です、切断する技があります、もちろん刀に大きな負担をかけますから最終手段ですが」

 「これは真似できん」

 「美しい剣捌きだ、東洋の美というやつか」

 「チーム・エドワードの片隅に置いて貰えますか?」

 「もちろんだエミー殿、貴方の技と知恵は我々の背を預けるに値する、いや、むしろ教えを請いたいのは我々の方だ」

 

 「明日、魔獣ヤーヴルに遭遇できるかは分かりませんが、注意すべきは樹上だと思います、兜や小盾は必ず装備してください、遠距離班の皆さんは距離を詰められないよう細心の注意をお忘れなく」

 「あいよ、明日にでも魔獣を吊るしてラングルトンの騎馬隊の土産に突き付けてやるよ」

 「とはいえ森は広い、猿というのは根城を作るものなのか?」

 「分かりません、ですが好んで人間を襲っている、危険なのは岩人の里だと思います」

 エミーが地図を広げる。

 「索敵範囲は岩人の里からマナーハウス方向、三人一組二班に分かれて行きましょう、発見した際は出来るだけ交戦を避けて笛による合図を、可能なら行動観察をして情報を集めてください」

 「了解した」


 穏やかな森から見える山々にロイヤルシルクから孵ったワイルドモス(野生の蛾)が羽根を休めている、静かな蝶の森に不穏な霧が立ち込めていく。


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