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堕天

「奴ら師父と我々青年部がいないときを狙って・・・しかも四人で女を殴るなんて!」

 デルは拳を握った。

 「エミーを狙ってきたのよ、名前は言わなかったけど貴族に依頼されたと言っていたわ」

 顔を腫らしたシスター・ジョディが痛々しい。

 「きっとラムゼー男爵に違いない!あの変態野郎が、許せねぇ!」

 男色趣味を公言して憚らない隣町の貴族だ、屋敷の中に幾人もの美少年を小姓のように住まわせているという。

 「四人組の一人はこの街の貴族の三男だったわ、あの子爵も人でなしだもの腹いせに何をしてくるか・・・塾の運営に影響がなければ良いけど」

 「街の人たちは理解してくれている、事実この街にはストリートチルドレンはいないしチンピラも少ない、いるのはここを襲った連中のような貴族崩ればかりだ」

 一歩間違えば自分もそうなっていた、没落後に師父と出会い、塾で生活をするうちに変わることが出来た。

 「エミーは出ていく覚悟だったみたい・・・荷物をまとめていたわ」

 「なぜエミーがここを離れなきゃいけない、あの子は被害者だ、おかしいだろ!」

 「もちろん師父が許さなかったけれど、いろいろ心配だわ」

 「ちくしょう・・・」

 

 シスターの心配は現実になった、翌月から塾へ寄付をしてくれていた商店へ嫌がらせが始まった、片指を落とされたチンピラたちだ。

 「人の噂も七十五日という諺が我が祖国にはある、放って置け」

 師父東郷は気にしていない風だったが塾の台所は貧しくなった、更に孤児は増えるばかりで塾は手狭になりつつある。

 デルは焦っていた、口減らしに青年部は塾の運営に関わる以外は独り立ちをして居を構え働き、塾への仕送りをしていたが出身者への勤め先にもチンピラたちは圧力を掛け始め、嫌がらせに屈した雇い主から解雇される者も出始めてデルはとうとうキレた。


 塾との関係を断ち、義賊として貴族を襲い始めた、もしも捕らえられた時に塾に迷惑かけないように仲間たちは誘わなかった。

冒険者崩れや傭兵を募り、反発する者は力で捻じ伏せる、師父の技が助けてくれた。

 最初に襲ったのは塾に嫌がらせをしていた貴族とは関連の無い土地から徐々にターゲットに近づけた。

 領主館に押し入り家人を縛り上げ、金庫の現金を狙った、宝飾品は足が付くから狙らわない、元々貴族だったエルは館の構造や現金の収納場所について予想がついた、考えることは誰しも同じ、現金の隠し場所も似たり寄ったりだ。

 盗んだ金は当分に分配する、払いが少ないと裏切者がでる、自分の分から東郷塾にシスター・ジョディを通じて最大限仕送りをした。

 最初は上手く回っていた、泣きながら許しを請う貴族共を縛り上げてため込んでいた金を奪ってやる、痛快だった。

 殺しはしない、怪我も最大限させない、ご婦人は丁重に扱う、紳士の義賊、そんな噂までたった。

 天職だった、部下を仕切り、盗賊団をビジネスとして運営する、しこたま設けた金で塾と師父に楽をさせてやれる。

 「お願いデル、もう足を洗って!」

 シスターから懇願されてもやめる気にはなれなかった、まだボスキャラが残してあった、再三エミーを狙ってきた変態貴族どもは生かしておかない、いままでとは違う。

 チンピラと変態貴族を殺した、初めての殺し。

 歯車が狂い始めた。

 変態貴族の元から救出したはずの少年たち、麻薬漬けにされ死んだ目をしていた子供たちは最早更生するには遅かった、東郷塾に預けることもできず、されとて盗賊団の部下たちが面倒など見る筈もない。

 少年たちは部下たちによって再び奴隷商に売られた、良い金になったと部下たちは喜んだ。

 事後報告を聞いてデルは愕然としたが遅かった。

 一度殺しを覚え、人身売買に手を出した盗賊団は義賊ではなくなっていた。

 エルの指示なく別班が勝手に非道な犯罪を繰り返すようになり、デル自身が最も嫌っていたチンピラに堕ちていた。

 何人かの部下を叩きのめしてやめさせようとしたが逆に袋叩きにあって盗賊団から追われることになった、義賊は崩壊した。

 デルが居なくなった盗賊団は領主館より警備の緩い民間人を襲うようになり単なる人殺し集団になり果てた。

 ケジメを付けなければならない。

 師父の申訳が立たなかった、恩人の顔に泥を塗ってしまった。

 「なんて間抜けなんだ・・・」ひとり奥歯を噛んでも時は戻らない。

 シスター・ジョディからエミーが塾を出たことを聴かされた、変態貴族なきあともエミーを奴隷として売るために狙ったのは・・・。

 デルが組織していた盗賊団の一味だった。

幸いエミーは襲ってきた賊を全員返り討ちにして無事だったが、今度は全員の命を奪うことになった。

 エミーが塾を出る事になったのは自分の責任、エミーを人殺しにしてしまったのも自分の責任。

 無機質で表情のないように見えるエミーが時折見せた可憐な笑顔、無垢な純氷のように透き通った笑顔が好きだった。

 塾が好きだといった、自分を兄さんと呼び塾の皆が家族だと、帰るところのないエミーから自分が全てを奪ってしまった。

 

 鏡に映った顔は後悔と懺悔の血涙に濡れていた。


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