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視野

 明らかにフローラとは違う、容姿は同じでも纏う空気感が素人でも感じ取れるほどに違う。

 殺気や怒気もない代わりに何の熱もない、人を殺すことになんの動揺も見せないフレジィ・エミーがそこにいた。

 「そこにいるのは・・・万次郎さんですね、出てきてください、聞いているのは知っています」エミーが裏口に向かい話しかけた。

 「!?」

 「マンさんだって?」エドは知らなかったようだ。

 全員の視線が裏口に集まった、ガチャッ 扉が開くと全身を黒衣に包んだマンさんが頭を掻きながら現れた。

 「まいったな、気配を消していたのに見破られるとは・・・初めてだ」

 「マンさん!いつから居たのだ」

小さな東洋人の男は物静かで印象が薄い、気が付くと姿を消している、斥候に長けた忍者だ。

 「エドとマックスを招き入れて直ぐに気配を感じました、もしもの場合の警護役ですね」

 「その通りです、エミーさんといわれるのですね、そういう事でしたか、只者ではないと思っていましたが・・・ここまで似ているのは運命ですな」

 「偶然です、私はムートン家とは係わりのない者です」


 それまで声を荒げてもソファーに座っていたフローラが痛む胸を押さえて立ち上がるとエミーに向き直った。

 「エミー聞いて、貴方が言った通り私は一人で逃げるような真似はしないし、したくない、無責任だと言われても誰かを踏みつけて生きたいとは思わない、この中で誰かが死ななくちゃいけないなら私が一番先に手を上げるわ!」

 「フローラ様!何を言うのですか」エドが割って入る。

 「貴方は黙っていなさい!」「う!・・・はい」フローラの一喝にエドは沈黙した。

 「エミー、私はここを離れない、どうしてもいうなら条件があるわ」

 「条件?」

 「そう、貴方も一緒に来るなら考えてもいいわ」

 「・・・」スウッとエミーの目が細くなる、出来るはずのない条件。

 一瞬の沈黙の後にエミーは破顔した。

 「はあっ!やっぱり駄目か、君はそう言うと知っていたけれど無駄だったわね」

 大きな溜息とともに天井を仰ぎ見る。

 「視野を広く、道はある!貴方が教えてくれたんじゃない」

 「仕方ないわ、妹の頼みを無下には出来ないものね」

 「そうよ、あの日二人で乗り越えると約束したのを忘れないで」

 「そうだったわね、別なプランを考えるか」 

 振り返ったエミーの笑顔はフローラの笑顔だ。

「みんな協力してくれる?」

 二人が言うよりも早くその場の全員が集まった。


 フィーゴ子爵を殺したのは当然ムトゥだ、バクラリから殺害指令が鳩により届いた。

 醜男を殺しても何の昂りも得られない、獣を狩った方がマシだ。

 ただ殺すだけではなく腹を裂かなければならない、ナイフが脂肪で汚れるのが堪らなく嫌だった。

 「俺のナイフは芸術を生み出すためにある、こんなクソを刻むためじゃない」

 フィーゴの血脂で汚れたナイフを良く洗い砥石に刃を当てて研いでいく。

 刃毀れの無い無機質な銀の光、妖しく煌めく輝きはムトゥを魅了する。

 あの美しい肌にナイフで図案を描いてみたい、多くの獣がそうであるように美しい女はその肌の内まで美しいものだ、さらにその血は甘露そのもの。

 バロネス・フローラ 我が生涯の一絵 ライフ・オブ・キャンバス。

 「時間がない・・・」ムトゥは爪を噛む。

 ランドルトン領からマンバとシファに率いられた五十人の騎兵が出立した、到着まで一週間ほどしかない、彼らが到着したらチャンスは消える。

 きっとフローラはボロボロに刻まれる、キャンバスは手に入らない。

 「奴らが来る前に完成させなければ・・・」

 フィーゴ子爵領を流れる川の上流部、明るく開けた淵がある、大きな白い岩壁が垂直に切り立ち、細い糸のように沢水が落ちている。

 白い壁を仕切るように這う蔦はまるで額縁だ。

 岩の床には緑の苔が絨毯のように茂り、流れる水が新緑の木漏れ日を受けてキラキラと光りを反射する。

 フローラというキャンバスを置くにふさわしい巨大なイーゼル、そして完成させた作品を披露する最高に美しい舞台。

 ここなら彼女も喜んでその身を差し出してくれるに違いない。

 ムトゥは持っている全てのナイフを沢の水を使い研いでいく、銀色が妖しく欲望を映す、その数は大小様々な形状で二十本を超える、芸術家は筆を選ぶ。

 研ぎあがったナイフに映り込んだのは森の緑だけではなかった。


 ガサッ ガササッ

 岩壁のキャンバスに夢中になっていたムトゥは死神の鎌に気付けなかった。


 ザシュッ 「あっ!?」 切り離されて傾くキャンバスの意味がわからぬままムトゥの意識は闇に落ちた。

 

 変な奴がいる、独り言を呟きながら夢中で光る棒を擦っている、沢山ある。 

 小さい棒ばかり、子分たちには丁度良いかも知れない。

 王様は大きい、子分のは小さい。

 後ろからそっと近づく、まったく気づかない、馬鹿な人間だ。

 部下の前で王様の威厳を示した、部下たちが手を叩いて声を上げる。

 ソウダ!!王様を称えろ!


 武器を得た魔獣ヤーヴルの軍団はまた強くなった。



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