二人のフローラ
「こっ、これはどういうことだ?」エドがマックスをかき分ける。
「フローラ・・・お前、双子だったのか!?」マックスは立ち竦んだまま呟くように目を見開いている。
服の違いから先ほどまでのフローラは右側だと分かる、左のフローラは怪我をしているのかシルクの寝巻姿だ。
「お二人ともどうぞお座りください」ロゼに促されてソファーに腰を降ろした。
右側のフローラが立ち上がり皇太子エドワードの前にスカートを広げて傅いた。
「私がご説明いたします、皇太子殿下」
「なっ、皇太子だとっ!?」マックスがのけ反りソファーから転げ落ちた。
「マックスさん、横に座っていてくれていいんだ、隠密できている今の私は冒険者のエドだ、それよりフローラ様、これはどういう事情なのでしょうか」
「殿下、私は影武者でございます、真のバロネスはこちらに居られますのが本物です」
「なんと・・・言われても見分けがつかない」
「私は冒険者でエミリアン・ギョー・東郷と申します、殿下を騙していた罪は全て私にあります、処罰はいかようにも御受けいたしますが、この森の魔獣騒動の決着を見るまでがムートン家と私の契約、少しだけご猶予を頂きたいのです。
「冒険者?血縁者ではないのですか」
「私は孤児でしたので血縁は不明ですが、おそらく他人の空似です」
「殿下、エミーに責任はありません、全て私が頼んだ事なのです」
本物だといったフローラの声、偽物と同じ声。
「私は神か悪魔に騙されているのか・・・」
「十日ほど前にムートンの森で私は賊に襲われて重傷を負ってしまい、意識を取り戻したのは一週間ほど前、殿下が見える直前のことです、その襲撃から賊を退け、自分も怪我をしながら私を助けてくれたのがエミーです」
「重症!?どうなされたのですか」エドとマックスが慌てた顔で中腰になるまで立ち上がる。
「私が説明します、見て頂いた方が早い」エミーは立ち上がると、胸のボタンを外して左肩から薄い胸まで服を下げる。
「おいっ」マックスが慌てて止める。
「私は偽物、大丈夫よ」露になった細い肩に二人は目のやり場に困り直ぐに視線を逸らそうとしたが、そこには完治していない銃創があった。
「銃で撃たれたのですか!?」銃の恐ろしさを知っているエドの目が見開かれた。
「はい、フローラ様の肩口から入った銃弾は身体を貫通して私の胸を抉りました」
「貫通!!」
「奇跡的に弾は重要器官をそれていたため一命はとりとめましたが出血多量によるショック症状と傷の化膿、発熱もあり万全な体調には程遠いと言えます」
「貫通するほどの銃創、よくぞここまで回復なされた、助けてくれたエミー殿には感謝しきれん、もちろん罰などあろうはずもない」
マックスは涙目で二人を見ながら奥歯を噛んでいる、自身の責任が含まれることを理解している。
「エミー殿、刺客はどうなされたのか」
「刺客は四人、全員殺しました」
「貴方ひとりでか?」
「ひとりはメイドのアンヌさんが銃を当てていましたが、他の三人は私が切りました」
「なるほど・・・只者ではないと思っておりましたが、やはりそうですか、して刺客の正体はお解りなのですか?」
ガイゼルたちばかりではなくエドもエミーの達人の気配には気付いていたようだ。
「刺客は岩人でした」
「なんだと!そんな馬鹿な、彼らがムートンを裏切ったというのか」
マックスが床から跳ね上がる。
「もちろん全員ではなく一部です」
「知っていて先日岩人の里に向かわれたのか」
「いいえ、それを知ったのは里でアオギリさんたちから岩人の魔獣被害者の話を聞いた時です」
「木にぶら下げられていたという男のことか、確か目がどうとかいっていた」
「そうです、私が使った毒のことです、アオギリさんたちに嘘はないと思います、寝返ったのはほんの一部、でも潜伏している可能性は否定できません」
「殿下」本物フローラの眼差しがエドの瞳の中心に映る、その視線は王都での救出劇での熱く強い眼差し、エミーにはない温度を思い出した。
「今日まで騙していたことを謝罪いたします、ですがあの時エミーが私の代役を演じてくれなければムートン家は公爵側に落ちていました、どうかご理解ください」
胸の傷を押さえて腰を折る姿が痛々しい、直ぐにロゼが介助のため後ろから身体を支えた。
その姿にエドの胸が詰まった。
「申し訳ない・・・私の早計が貴方を死地に追い詰めてしまった、罰せられるのは私の方だ、何と言うことだ、私はどう謝罪したら良いのだ・・・」
途方にくれたように肩を落とす青年もまた痛々しい。
「殿下、この事態は婚約問題がなくとも起きた事です、こうして打ち明けているは私共が殿下を信頼しての事、どうか今後ともお力添え頂きたいのです」
代弁したのはエミーだ、目を閉じていると、どちらが話しているのか分からなくなる。
「もちろんだ、許されるなら私にも手伝わせてほしい」
「今までの出来事や会話を私とエミーは共有して意見を合わせてきました、殿下のお気持ちも人柄もとても好ましく思っております、しかし私に国母になる度量はありません、それに胸の傷はエミーの銃創より大きく、醜い傷跡となって残ります、殿下はその傷跡を見る度に心を痛めることになるでしょう、やはり私は殿下に相応しい女ではりません、どうか婚約はお取下げください」
静かだがはっきりとした口調に強い意思が感じられる、ギクッとエドが身体を震わせた。
「・・・」エドの額に汗が光っていた、俯き見開いた目が床を睨んでいる。
噛み締められた歯の隙間から声が絞り出された。
「・・・いやです・・・」
「えっ?」最初は小さく聞き取れなかった、俯いていた視線が正面からフローラを見据えた目は熱い情熱に満ちていた。
「いやです、私は絶対に諦めません!!」立ち上がり拳を握り締めるエド。
「はああ?なんでそうなるのよ!」予想外の答えに大口を開けて呆れるフローラ。
「あれれ・・・」予想を外して困り顔のエミー。
「銃創がフローラ様の価値を変えるものではありません、その傷の重さは私が背負わなければならないものです、一生かけて償います、どうか私の妻になってほしい!」
波は引くかと思いきやエドの思考回路にはビッグウェーブが押し寄せていた。




