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領主館

 弾丸が身体の重要器官を避けていれば助かるかもしれない。

可能性はゼロではない。

まずは出血のコンロール・・・街へ戻るか、領主館へ向かうか、医師と設備だが街は追撃を受ける可能性がある。

意識を失っているメイドの頬を叩く、左胸の銃創が痛む。

「おい!メイド起きろ!!」

「あ・・・う…お嬢様」

「しっかりしろ!医者が必要だ、館に医者はいるか?」

緊迫した状況の中でもエミーの声は変わらない。

「医者?・・・なんで・・・!!」見開いた目が上半身を赤く染めたフローラにとまって覚醒する。

「お嬢様ぁ!!」

「おい、俺の声を聞きな、館に医者はいるか、いないのかどっちだ!?」

「医者!?医者は・・・バトラー・ハリーがいます!!」

「よし、館までどのくらいだ?」

「馬で一時間ぐらいです」

メイドの目がはっきりしてくる。

フローラの傷口、とくに弾が抜けた胸の傷口が大きい、肺を傷つけていなければ良いが、とりあえず布を当ててきつく縛るとエミーはフローラを背負いベルトで固定する。

「これで館まで走るぞ、馬に乗るのを手伝ってくれ」

「はっ、はい、お嬢様は大丈夫なのですか!?」

「出血がひどい、急がないと間に合わない、案内してくれ」

「わっ、わかりました!」

二頭の馬は暗い森の中へ走る、道には点々とフローラとエミーの血が道標のように残されていく。


ゲッゲッ ギャッギャッ 暗がりに赤い双眸(そうぼう)が揺らめく、躯となった四人を囲むように近づいてくると森の中へ引きづっていく。

不気味に(うごめく)く黒い影は人ではない、群れだ、騒がしく聞こえる声は狼ではない、群れる事から熊でもない。


魔獣は確かに存在していた。


バトラー(執事)・ハリーはマナーハウス(領主館)の玄関の前で、まだ帰らぬバロネス(男爵令嬢)・フローラとヴァレットメイド(近侍従)のアンヌを待っていた。

午後には戻ると言っていたのに既に日は傾いている、正義感と責任感の強い娘だからこそ心配だった、ギルドは反王勢力に飼われていることは明白、手を貸してくれるはずはないどころか陰で手引きしていることさえ疑われる。

嫌な予感に額の汗をぬぐったとき丘の道を駆けてくるブロンズの髪が見えた。

「フローラ様、ああ、良かった!」

安堵の一息をついた・・・様子がおかしい、何かに追われているかのような早駆け、アンヌの慌てた様子が見える。

「なにかあったのでしょうか?」

館の階段を降りて馬を預かる準備をしておく。

ガッガッ ガガッカ 蹄の音とともにその姿が老眼にもはっきりと映る。

「!?」

ブロンズの頭が二つ見えた。

「どういうことだ、フローラ様が二人いる?」

ガガガッ 目の前に二頭が止まり、事態が飲み込めた、背負われたブロンズは頭を揺れるがままにまかせている、意識がない。

「ハリー!!お嬢様が撃たれた!!」

「なんだと!!」手綱をもっている左胸から下が真っ赤に濡れている。

「フローラ様!!」ハリーが手を貸して滑り落ちるように馬から降りる。

「大丈夫ですか!フローラ様!?」

背負っている方に声をかけた、肩で息をしている、いつもより鋭い目つきに違和感を感じたがフローラ本人と信じて疑わなかった。

「俺じゃない、フローラは後ろだ!」

「なっ!??」

「弾が貫通している、出血がひどい、処置室はどこだ!?」

フローラがフローラを背負いながら震える膝で立ち上がる、アンヌが肩を貸して階段を上がる、状況が理解できずにハリーは立ち竦んでしまう。

「何してる!お前たちの当主が死ぬぞ!」

「ハリー!!急いで!早く!」

ここへきてようやく背負われているのがフローラだと思い当たった、では背負っているのは誰だ?大きな疑問を残しつつ切迫した状況であることだけは理解した。

階段を一段飛ばしに後を追う。

アンヌたちは玄関を開けて館の中に入ったところだった。

「左奥の部屋です!!」

「フローラ様!!どうなされたのですか!?」

ハウスメイドたちが緊迫した様子に廊下に出てくるが無視して処置室のドアを蹴飛ばして入る。

ベッドに腰かけるとフローラを横たえる、やっとハリーが追いついてくる。

「じいさん、背中から入った弾が貫通している、出血が酷い、どうにかできるか!?」

 「あっ!ああっ!フローラ様なぜこのようなっ!?」

 「じいさんっ、しっかりしろ、心臓も呼吸もまだ動いている、銃弾はほぼ真っ直ぐ抜けた、肺は避けていると思う、応急で傷口を塞いで空気が入らないようにはしてきたが馬で揺られているうちに緩んだかもしれん、傷口を縫合するのだ、出来るか」

 「はっ、はい、できます、アンヌ、処置バックを!」

 「ここにあります!」冷静さを取り戻したアンヌは仕事が早い。

 「ここに輸血の道具はあるか?」

 「輸血・・・」

 ハリーもアンヌも口籠った、この地方では輸血は宗教上、技術的な問題から禁止されている、もしバレてしまえば医師も患者も犯罪者として監獄行だ。

 「ここにあります」アンヌが引き出しの隠し扉を指さした、主人の窮地に迷っている場合ではない。

 「近親者はいるか、血の型が適合する確率が高い」

 「フローラ様は両親を亡くされています、ご兄弟もいません」

 「くそっ、ついてないな」

 

 「分かった、何とかしよう」

 エミーは自分の服を脱ぐと赤黒く腫れた左胸の銃創を露にした。


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