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十二歳

 エミーが十二歳になった頃には剣技において孤児院の道場でエミーに勝てる者は一人もいなくなっていた。

 もちろん組手を中心とする徒手術は体格や腕力によるところも大きい、華奢なエミーには不利だったがそれでも非凡であることに変わりはない。

 東郷が所用で孤児院を留守にしたある日のこと。


 「なんだここは!?子供ばかりじゃないか、大人はいないのか」

 地元貴族の三男坊の男は二十台前半の半ぐれだ、予め東郷と年長者たちが出かけたのを確認して取り巻きも含めて四人で子供しかいない東郷宿に押し入った。

 全員が酒瓶を片手に酔って酒臭い息を吐いている。

 「なんですか、貴方たちは!?部外者の立ち入りはご遠慮いただいています、出て行ってください」

 年長のシスター・ジョディが対応するが男はズカズカと道場に土足で上がり込む。

 「あっ!駄目だよ、ここはでは靴を脱いで!!」

 十歳くらいの男の子が男たちの前に立ち塞がった。

 「ああぁーんっ、なんだぁ、このガキはぁ、俺の前を塞ぐんじゃねぇ!!」

 ドカッ 「ぎゃっ!」 ゴロゴローズガーンッ 激しく蹴飛ばされ小さな身体は壁まで吹き飛ばされた。

 「食う物食ってないから軽いなぁ、ちょいと足を動かしただけなのに、吹っ飛びやがったぜ」「ギャハハハハハッ、弱っちいなぁ」

 「子供相手に何をするのですか!許しませんよ!!」

 ジョディが蹴られた子供を介抱しながら男を睨んだが、傍若無人な男はかまわず上座にある真剣に手を伸ばして鞘から抜いた、ギラリと日本刀が妖しく光る。

 「おおう、見たことの無いへんてこな剣だが美しいなぁ」

 「本当だ、細いが割と重いな!」

 四人は代わる代わる真剣を弄ぶ。

 「やめて!それに触らないで!!」

 義足を引き摺ってジョディが掴みかかった。

 「おっ、なんだ、なんだ、お前片足ねぇのかよ、出来損ないばっかりだな」

 蔑んだ笑いと共にジョディの義足に足払いを掛けた。

 「あっ!!」バランスを崩したジョディは受け身を取る間もなく転んで額を床に打ち付けてしまう、バチィンッ、床と額が打ち合う音が鳴った。

 「あぐっ」激しい脳震盪と共に苦悶の表情を浮かべて頭を押さえる、捲れたスカートから木製の義足が露になった。

 「ヒャッヒャッヒャッ、見ろよ、お粗末な足だな、これじゃあ萎えちまうぜ」

 「違いねぇ、こんなもの無くたっていいんじゃないか」

 一人が義足を踏みつけた、バキッ、木製の義足が粉砕される。

 「やめろぉ!シスターから離れろ!!」

 騒ぎに集まってきた子供たちが男たちに詰め寄った、人数の多さに驚いた男は持っていた真剣を振り回す、イカレている。

 「うるせーっ、寄るんじゃねぇ、殺すぞゴルァッ!!」

 ブンッ、ブンッと滅茶苦茶に振り回しながら子供たちに突っ込む。

 「うわっ!」「危ない!」

 「構わねぇから殺っちまえ、孤児なんていない方が世のためだろ!」

 「そうだ、そうだ!殺せ殺せ!!」

 知能の低い男は周りの煽りにまい上がり、思考を失いノリだけで子供を突き刺すことを決めた、狂気を感じて集まった子供たちが逃げ惑う。

 「まてやぁゴウルアアアッ!!」ヒートアップした男は止まらない、転んで逃げ遅れた少女にターゲットを絞った。

 「つーかまえたーっ!!」両手持ちに大きく振りかぶる。

 「ひぃ・・・」逃げ遅れた少女は目を閉じて固まった

 バキィッ 「ぎゃわあっ」 カシャアンッ 悲鳴を上げて地面に転がったのは男の方だった、背後から足首に木剣が振り抜かれた、容赦ない一撃は足首の骨を粉々に砕いた。

 「がああああっ」痛みに転げまわる男の後ろに立っていたのは一見すれば美少女のエミーだ、その瞳には怒りも動揺もない、純氷の瞳が周囲を測っている。

 「!!」男の仲間たちは何が起こったのかようやく理解した。

 「誰か真剣を片付けて、あとシスターの手当を」

 ガスッ 抑揚のない声で平然と男の額に木剣を打ち下ろして昏倒させると残った三人に向かって歩を進める。

 「このガキがぁ、ぶっ殺す!!」腰のナイフを抜いて一人が飛び掛かった。

 エミーは運んでいた足を瞬間加速、右手にナイフを持った男の左方向に身を躱すと、男の前から姿を消して左手に持ち替えていた剣で男の足首を砕く。

 「ぎゃああああああっ!!」ズシャアアッ 男は前のめりにつんのめって悶える。

 ガスッ 止めの一撃が打ち下ろされる、ナイフの男が転ぶ前にエミーはその位置に向かって移動している。

 「エミー兄ちゃん!」

 「怪我はない?危ないから皆のところにいってな」

 ヨロヨロと立ち上がる女の子に手を貸している間も残った2人から視線は外さない。

 「お前、女のくせになかなかやるな、面白い、相手になってやるぜ」

 一番の大男はボキボキと指を鳴らしながら舌なめずりをしている。

 「貧相な身体だなぁ、あの貴族はなんだってこんなの欲しがるのだか理解できねぇぜ」

 生まれた時から魂の下種な人間はいる、もう一人の男は立ったまま動かない。

 「ねえ君、まだやる?帰るならこれ以上手を出さないけど、どう?奥にいるきみに言っているんだよ」

 「!?」

 エミーが問いかけたのは奥にいて動かない男の方だ。

 「なぜ、俺に問う?」男は驚きを隠せない。

 「何故って君がリーダーだろう」

 「なっ・・・」にやけた顔が凍り付く。

 「二人の足を砕いた、もう歩けない、担いでいくには二人必要でしょ、一人じゃ大変だよ」

 視線を外すことも足を止めることもなく話し続ける、呆気にとられた大男の間合いの外をスイッとすり抜ける。

 「!?おっおい、無視すんなぁ!」大男がエミーを追って振り向いたが、エミーは既にいない、「あっ、あれ?」ガスッ 股下から金的に強烈な一撃、「ごっ!!」白目を剥いて昏倒する、衝撃で金的が体の中に潜り込む。

 「もう担いではいけないね」抑揚のない声には三人を打ちのめした高揚も驕りもない。

 躊躇なく最後の一人に歩を進める。

 「なんだお前は?本当に女か?」

 「どうでもいいよ、もう無事には帰れない、ねぇ、どうするのが正解?君ならどうする?やっぱり全員殺してしまった方がいいかな」

 人形が喋るように平然と殺気のない死刑宣告を放つ、無表情な美形が余計に不気味だ。

 「気味の悪い奴だ、だが・・・」リーダー格の男は両手に腰のダガーナイフを持ち、一つを前に突き出し、もう一つは横向きに構える、攻防一体の構え、多少は心得があるらしい。

 「俺を他の三人と一緒にするなよ、ガキが、切り刻んでやる」


 ふわりとエミーが白い歯を見せて笑った、相手を蔑むでも威嚇するでもなく挨拶をかわすようにコクリと首を傾げながら場違いな愛らしい笑顔。


 バヒュッ 意表をついて持っていた木剣が男の膝に向かって飛んだ。


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