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威厳

 「いつまでここに立たせて置くつもりだ、子爵本人が来ているのだぞ、失礼甚だしいと思わんのか!」

 ハウスメイド相手にパワハラし放題のフィーゴ子爵は背の低い小太りの男だ、その後ろに嫌みな顔をしたギルド長と黒衣にフードの男が控えていた。

 「何事ですか」

 階段を降りてくるフローラを認めていやらしく口元を吊り上げる。

 ギルド長はつい先日やり込めてやった時の事を思い出した、弱者に嫌みを言うのは実に楽しく大好きだった。

 「これはフローラ譲、いささか出迎えが遅くはありませんか」

 ギルド長はジャブを放った、フローラはチラリと視線を動かしたがギルド長のジャブをスルーで躱す。

 「!?」

 その視線の意味を黒衣の男だけが感じ取った。

 「フィーゴ男爵殿、何用か急ぎのご用でしょうか」

 「!?」

 煽りも竦みもない良く通る冷静な声、冷たく見下ろした視線と共にフィーゴに向けられる。

 「わざわざ此方から来てやっているのに館の中にもいれないとはどういう了見なのだ、これだから軍属あがりの男爵は礼節に欠けるというのだ!」

 空気を感じ取ることの出来ないフィーゴが居丈高に自慢の髭を捩じって突き出た腹を更に前にだす。

 「私は何用かと聞いています、貴方の感想などいりません」

 「なっ、なんだとこの小娘が!私は子爵だぞ」

 「だから何だというのでしょう、貴方はたまたま隣り合う領地をもった隣人、私が使えるべき王でも領民でもない、そして貴方は事前の知らせもなく我が領地に踏み込んだ挙句、玄関の前で我が使用人たちを罵倒した、歓迎される余地がありますか」

 「ぐぬぬぬぬっ、こざかしい理屈を並べおって!!」

 フィーゴは幼子がするような文字通り地団駄を踏んで悔しがった、それを見てもあくまで両手を前に組んで視線を落としているフローラは微動にしない。

 「??」

 この数日で何があった、ギルド長が知るフローラではない、何かと感情が顔に出るフローラは組易い相手だったはずだ、今目の前にいる女の心は読めない、こちらの言葉に揺らぎがみえない。

 「私も暇ではありません、ご用が無ければお引き取りを」

 少しだけ腰を折ると上目遣いに視線を送る、更にその口元には嘲笑の笑みが浮かんでいる。

 「!?」

 にべもない対応、つけ入る隙がまるでない。

 「それでは失礼」踵を返そうと細いウェストを捻る。

 「まっ、まて!私たちはランドルトン公爵様より命を受けて参ったのだ、それを聞かんのか!」

 無様に手を伸ばした小太りを半身返していた横顔の目が動いた。

 「さて?それを用件と呼びます、なぜ最初から答えなかったのでしょう、公爵様の命とはそれほど軽い物なのですか」

 「ぐぬぬっ、いいか、公爵様は今回の魔獣騒ぎを聞いて大変心を痛めておられる、ムートン領の民に情を感じてお力を貸そうと言っておられる!魔獣狩りの部隊を派遣してくれるそうだ」

 フィーゴは書状を取り出すと短い手を伸ばして掲げてみせた。

 受け取ることもせずにフローラは目を細めて確認する。

 「はて?このような請願はこちらからお願いした事はありませんが、どういう事なのでしょう」

 「だっ、だから公爵様の温情でだな・・・」

 バシンッ フローラが手を叩いて破裂音を響かせる、子爵はビクッと身体を硬直させて言葉が詰まる。

 「公爵様のお気持ちはありがたく頂戴いたしましょう、ですがこの件については既に王家より討伐隊がムートン領に入っています、公爵様のお手を煩わせるまでもありません」

 「なっ、王家の討伐隊だと!?」

 「それから公爵様にはこうお伝えください、書状は伝文ではなく直接ムートン家にお出しくださいと、文の意義が軽くなります故、ウフフフフッ」

 小太りの顔が茹蛸のように赤くなった。

 「以上です!!下がりなさい!」

 女王の如き一喝、はっきりとした言葉の後にバタンッと扉は閉められた。

 「!!」

 やられた、完敗だ、フィーゴという子爵では役者が違い過ぎた、たかだか十七の小娘だと侮った、もはや女王の威厳を持っている。

 皇太子と接触しているかも知れない。

 黒衣の男は無様に扉を叩いている小太りの能無しを見限って馬に跨った。

 残した二人を待つことなく走り出す、どうせやることは同じだ。

 黒衣の男は言うまでもなく女帝ミストレス・セオドラの配下の傭兵部隊サグの一員でナトゥという男だ。

 今回の役目はフローラの安否確認、抱き込んだ岩人の中から四人もの刺客を送ったのに無事でいられるとは思えなかったからだ、少なくともナイフ使いの技はサグの一員とも言えるレベルにあった、たかだか令嬢一人殺すのを失敗した挙句に返り討ちにあったとは信じられないが現にバロネスもメイドもピンピンしていた。

 「あの娘も、そして俺も余程の幸運を持っているようだ」

 ナトゥは褐色の肌に白い歯を剝きだしてほくそ笑む。

 「くっくっくっ・・・」

 あの美しく気丈な顔を屈服させ恐怖の叫びを上げさせる役目が回ってきた。

 恐らく傷一つないだろう肌にナイフで絵を描いてやろう、浅く少しずつ傷つけていく、モチーフは何にしようか・・・花だ、寒桜のイメージが湧いた、体中に花吹雪を散らしてやろう。


 大傑作の予感を前にナトゥは股間を最大限に膨らませて馬の背に擦りつけた。


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