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雨の中の

 「ハリー、本当にこれで良いの?中で待ってもらった方が良いんじゃないの」

 「まずいです、これは本当に打ち首です」

 二階のカーテンの隙間から覗くとエドワード皇太子だけが警護の者たちが張ったテントに入らず雨に打たれて微動にしない。

 「お嬢様が許しておりません、勝手なことは出来ません」

 アンヌは剣呑に言い放つ、フローラ絶対主義だ。

 フローラの意思は固い、合わないといって引かない、皇太子にも具合が悪いので後日にとお願いしてみたが皇太子にフローラの居留守はバレている、外で待つといって聞いてはくれない。

 エミーも着替えていない、白いブラウスにスカートのラフな服装のままだ。

 「頑固なところは似ているんじゃないかしら、一緒に暮らしたら大変そうね」

 「エミー様、笑いごとではありませんよ、皇太子!皇太子を雨の中に立たせたままにしているのです、こんなことが・・・ああっ!どうすればいいのでしょう!?」

 ハリーは頭を抱えて悶死寸前だ。

 「無理やり突入してくると思っていました、そんな男なら私の命と引き換えに一太刀浴びせてやろうと思っていましたのに」

 アンヌはエプロンの中からナイフを出して見せる。

 「なっ、アンヌさんまで何をしているのですか!?恐ろしい事言わないでください」

 「お嬢様を困らせる男など皇太子だろうが王様だろうが全員敵です」

 本気だ、目が怖い。

 事件となる前にこの場を収めなければならない、フローラが目覚めたことでハードルが上がるとは思わなかった。

 

 「仕方ない、私が話してみるわ」

 偽フローラは本物がいる別棟に立ち上がった。


 皇太子チームの副将ガイゼルは少し安堵した気持ちでエドワードの背中を見ていた。

 世間知らずなことは冒険者の真似事をしながら国内を歩くことで随分勉強になっている、庶民の暮らしや諸問題を直に見ていける。

 ただ一つ、我々チームは流石に優秀すぎる、戦闘力、知識、経験、資金力、全て持っている、チームの全員が個別に見ても国内の超一流ばかり、難関と呼べる問題に当たることがない、避けるか解決か出来てしまう。

 

 ガイゼルはエドワード皇太子が経験しなければならない一番の事、それは負ける事だと思っていた、素質、体格、体力、頭脳、容姿までも優れ、それに国内最高の教育を受けている。

 皇太子の努力は浅い、浅くとも叶ってしまう、出来てしまう。

 それでも奢ることがないというのも素質だろう、しかし、それでは駄目だ。

 全力を出し切り手に入れる事が大事だ、そうして手に入れた物は簡単には手放せない。

 このままでは追い詰められた時に全てをあっさり投げ出すのではないかと不安になる。

 フローラという娘は皇太子を雨の中に立たせて待たせるなど肝の据わった女性のようだ、そんな女性に目を留めた眼力さえ才能かとも思うが、それでこそだ。


 幼少から大きくなっていく背中を見続けてきたガイゼルは感慨無量だ。

 「本当に逞しくなられた・・・」 

 歳のせいで涙腺が緩くなっているのを聖女グラディに見られていた、白いハンカチが差し出される。

 「エドがこんなに必死になるなんて思いもしませんでした」

 「良い経験になる、この地の娘は胆力があるようだ、本当に国母としての技量があるやもしれん」

 「ええ、皇太子を雨の中に立たせて待たせることが出来る女など国中探しても見つからないでしょう、どのようなお方なのか私もぜひ会ってみたいものです」

 「絵では華奢に描かれていたが実はジュン以上の豪傑なのではないか?」

 話に加わったのはモリス少尉、暇を持て余している。

 「絵に描かれた姿は十年前だったなんてよくある話だぜ」

 「馬鹿だね、あんたは!現物の姿をエドが見ているんだ、間違う訳ないじゃないか」

 ジュン少尉も加わる。

 「そうかなー、だって皇太子から求婚されて人違いだって返す女がいるとは思えないんだよな、実は男だったなんてオチなんじゃないのかね」

 「無い無い!さすがに舞踏会に参加するには出身出自は調査されるもの、誤魔化せないわ」

 「それもそうか・・・容姿はともかく本当に度胸のある娘だぜ、俺には出来ねぇな」

 「さあ、もう直ぐ日が落ちるぞ、バロネス(男爵令嬢)様の許しが出なければ、俺達はここで野宿だ、火の準備をしよう」

 「うへえ、マジかよ、今日は屋根の下で寝られると思ったのになぁ」

 

 ガチャッ 渋々ながら野営の準備を始めようとした時に玄関の扉が開いた。

 「!」

 「フローラ様!」

 少し俯き加減に咲く寒桜が立っていた。


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