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森の王

 良いものが手に入った、硬くて光る尖った棒、あの人間たちが持っていた物だ。

 奴らが使っているのを見たことがある、刺したり切ったりできる物だ、これを持つと奴らは急に強くなる。

 固い木や、もちろん俺たちの肉も切れる、切られると痛くて赤い水がでる。

 とても怖い。

 ただ持っていると両手が使えない、奴らはぶら下げていた、奴らを毟って剝がした布や、動物の皮は小さくて使えなかった、布を裂いて形を真似ると出来た。

 俺は強い上に利口だ。

 数種類の光る棒の中でも半円で幅の広い物が使いやすい、引くのは得意だが突き出すのは力が入らなくて苦手だ。

 大きくて持って歩くのには邪魔だ、そうだ序列最下位に持たせよう。


 持っていないときの人はとても脆い、少し強く握れば潰れて動けなくなる。

 動かなくなったところで光る棒を使う、きれいに無駄なく食べられる、新鮮な肉は美味い。

 ギャッギャッ 序列二番のチビが珍しそうに俺の光る棒に手を出した。

 ビュンッ 横凪に一閃すると奴の腕の体毛が飛び、赤い水が飛び出た。

 ギャワワワワワッ 二番のチビは転げて木の下に落ちていった。

 序列が下だった連中が集まってきて怪我をした二番を袋叩きにしている、二番は今から序列最下位委だ。

 ボスは俺だ、他のチビ共とは違う、大きくて強い、王様だ。


 王様は大変だ、チビ共の面倒を見なきゃならない、まずは食べ物だ、葉っぱや豆なんていらない、肉だ、人の肉が一番良い、力が湧く。

 昔、檻の中に居たころは奴らが持ってきてくれた、今は自由の代わりに自分たちで用意しなければならない。

 簡単だ、獲物は沢山いる、食い切れやしない。


 人は良く仲間割れをして同族を殺してしまう、野蛮だ、俺は同族を殺すまではしない。

 奴らは馬鹿だ、食べないのに殺す。

 割と大きい獲物が四つ、手下どもの分まで入れても十分腹いっぱいになった。

 しかし、一匹は顔が臭かった、きっと毒だ。

 毒抜きしようとぶら下げておいたら盗まれた、俺様の物を盗んだやつがいる。

 この森でそんなことをするのはあいつに違いない。

 灰色の毛の俺様より大きい奴、あいつしかいない。

 ギャアーーースッ チビ共に命令する、行くぞ、あいつを狩る。


 この森の王は俺様だ、王は二人いらない。

 嗅いだことのない異臭が森の中に漂っている。

 耐えがたいほどの獣臭、長年森で暮らしてきたアオギリも経験したことのない匂いだった。

 「酷い匂い、なんなのこの匂いは・・・」

 ムートンのマナーハウスからの帰り道、森の奥から漂う異臭に愛鹿から降りて匂いの元を辿った。

 下草が踏み荒らされて黒い土が見えている、巨大な何かが暴れた跡だ。

 木の幹にへばり付いている灰色の毛は熊だ、この森に生息している最大の動物、灰色熊が何かと争った跡だった。

 「雄同士の縄張り争いか子熊を連れた母熊が襲われたのかしら!?これは死骸の腐敗臭?」

 変だ、雄同士の縄張り争いなら弱い方が引く、殺すまではやらない、母子熊なら狙いは子熊、それこそ食べてしまうから死骸なんて残らない。

 灰色熊は人を恐れる、自分からは近寄ってこない、犬の三倍鼻が利く熊は人が見つけるより早く人を嗅ぎ分け遠ざかるのが普通だ、運悪く風下から近寄ったり、穴持たずといわれる冬眠を逃した熊でもなければ滅多に危険な状態になることはない。

 

 人が襲われた話がないわけではないが数年に一回あるかないかだ、人とは生息域が違う、人が往来する道近くに姿を現すことなど滅多にない森の神だ。

 人を襲うなら集団で連携しながら狩りをするオオカミの方が余程怖い、彼らは人族と生活圏が近いだけに遭遇する危険性も高かった。


 藪の中に横たわる灰色の小山があった、大量の蛆が湧き、ハエや小さな虫が音を立てて飛び回っている、死んでいることは明らかだった。

 「これは・・・どういうことなの!?」

 首から上がなかった、更にその胴体も中身だけがそっくり抜け落ちている。

 刃物で裂かれたのだ十文字に切られた横腹から白い骨が見えた。

 「ヤーヴル(森の悪魔)!男爵様を殺した魔獣の仕業!!」

 背筋が凍った、体長二メートル五十センチ、体重三百キロの灰色熊を殺せる生物がこの森にいる、おまけに刃物まで使う。

 「・・・」アオギリは森の神の死骸を前に恐怖に取りつかれて動けなくなった。

 

 ガサッガサッ 「!!」 背後から草を踏み足音が近づいてくる。

 絶望が森を暗くしたように視界が狭まる。

 武装は・・・短刀しか持っていない、フローラに危ないから泊まれと帰るのを止められていた、そうすべきだったと後悔したが遅い。

 ヤーヴルは存在したのだ、他のどんな生物が灰色熊を殺し、その頭を引き千切り内臓を取り去ることが出来るのか、神話の化け物以外考えられない。

 ガサガサッ いよいよ足音は真後ろに迫った、もはやここまでだ。

 短刀をそっと抜いてゴクリと喉を鳴らす、振り向きざまに一撃を加えて全力で走る、上手く愛鹿に乗れれば逃げられる可能性があるかもしれない。


 「諦めてたまるか!」 顎を引いて歯を食いしばる。


 ガサッ 今だ!! ブンッ 振り向きざまに小刀を振りかぶった先に見えたのは!!


 「何すんだよアオギリ!声かけても気か付きもしないし・・・」

 小刀を見て後ずさったのはサイゾウだ。

 「はっ・・・サ、サイゾウーーーー」 思わずその胸に飛び込んだ。

 「おっ、おいどうした、怪我でもしたのかアオギリ!?」

 ガタガタと震えが止まらない。

 「死っ、死んだかと思った、ああああっ、あれっ、あれ見てぇ!」

 アオギリが指さした先をサイゾウの視界が捉えた。


 「なんだ!これは!?」

 

 そこにあったのは人々に森の王と畏怖されていた灰色熊、それは人の悪意、敵意、享楽、何を持っても創り得ない残虐なオブジェのごとく首の無い無残で異様な姿を晒していた。


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