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懺悔

 薔薇の花の匂いがする、父の植えた黄色くて大輪の薔薇。

 霞んだ視界に父と母が並んでいる、優しい笑顔で私を見ている、安らかな気持と、なにより空腹だけれど眠い、いつから寝ているのか思い出せない。


 「お腹・・・空いたよ、お母さま」

 「!!」

 水を汲んで戻ったロゼが懐かしい本物の声を聴いた。

 「お嬢様!お嬢様!気が付かれましたか!」

 「・・・んっんん」

 薄く目を開けてはいるが焦点を結ばない。

 「お嬢様!」

 「ロゼ、お嬢様がお目覚めになったの!?」

 アンヌがちょうど着替えを持ってやってきた。

 「はい、うわ言でしたが今確かに薄く目を開かれました」

 「良かった、快方に向かわれている証拠だわ、きっと助かります」

 「ええ、ハリー様にお知らせしなければ!」

 「ハリー様とエミーはまだお戻りになっていないわ」

 「魔獣の調査に行かれたのですね、でも本来なら本当にお嬢様が討伐に行かなければならないのですね」

 「ええ、惨い現場をお嬢様に見せたくはありません、エミーさんが現れてくれたのを神に感謝します」

 「あの方はどういう人なのでしょうか、どこまで信用してよいのか分からなくなります、顔と容姿は瓜ふたつでもお嬢様とは全然違います」

 「現状では選択肢がありません、神が遣わしてくれたならきっと悪い人ではないと信じましょう」

 ヴァレット(近侍従)アンヌは甘すぎると思う、この世界の神様は忙しすぎて人間にまで手が回らないのだ、放って置かれた人間は自分で藻掻くしかない。

 「エミーさんは身代わりを引き受けるのに代償は要求されていないのですか?」

 「えっ!?そういえばその点について話をしていなかったわ」

 怪しい、タダより高い物はない。

 「それって変じゃないですか、冒険者がタダ働きするなんて聞いた事ありません」

 「それもそうね、ちゃんと契約を交わした方が良いかもね」

 もっとエミーを落とす話をしたいが今朝の遣り取りで少し気持ちが揺れている、孤児院の話をする目はフローラとは違う優しさが見えたような気がしていた。

 「お嬢様の傷、残るでしょうか」 エミーの話題を逸らす。

 「胸の傷は少し残ってしまわれるでしょうね、あまり肩口の開いたドレスは処分した方が良いかもしれません」

 「残念です、私が撃たれていれば・・・」

 「アンヌ様・・・」

 幼いころから近侍従として病弱だった母親に変わり教母としてフローラを見てきたアンヌにとって、フローラが銃弾に倒れる姿を直接見たショックは自分の身を引き裂かれる以上の痛みだったに違いない。

 毎夜アンヌの部屋の蝋燭が遅くまで消えずに、窓越しの影が揺れているのをロゼは知っている、神にフローラの無事を祈り、自分が身代りになれなかった事を罪として懺悔しているに違いない、アンヌの目の下に出来た隈が語っている。

本当はロゼがしているフローラのお世話をしたいのはアンヌだ、それが本来だ、しかし男爵様も奥様もいないこの家を守るためにはアンヌの働きは欠かせない。

 この危機を乗り切れなければ自分たちの居場所も思い出も無くなってしまう。

 お嬢様の窮地を知っているのは四人、自分はその一人に選ばれた、光栄なことだ。

 答えなければならない、出来ない理由を探しいている場合じゃない。

 アンヌをこれ以上悩ませてはいけない。

 「大丈夫です、アンヌ様、きっとうまく行きます」

 嘘でもやせ我慢でもいい、強くアンヌの手を握った。

 「ロゼ・・・」少しびっくりした顔になったアンヌは直ぐにロゼの意図を察して微笑んだ。

 「ありがとうロゼ、頑張るわ」

 「頑張らないでください、雑務は偽物フローラ様に任せておきましょう」

 「外見はそっくりなんですもの、つい本物のお嬢様のように接してしまうわ」

 「いいんですよ、服を脱がしてしまえば、どうせ男なのですから、多少乱暴にしても壊れはしませんよ」

 「もうロゼったら酷い言いようね、でもこの騒ぎを乗り切れたらみんなで午後のお茶会をしたいわ、お菓子をたくさん並べて、花を飾って、とっておきを出すわ」

 「とっておきって何です、何を隠しているのですか?」

 「内緒よ、その時までのお楽しみ・・・ね」


 二人はずっと閉めていた小屋の窓を開けて風を誘った、気怠い午後の妖精が光と共にカーテンで遊んでいた。


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