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盾の魔術師、トップを疾走れ!  作者: 九五
【終わる世界、始まる世界】
9/33

ver.9 あたしの名前と、プロゲーマー

11月になりました。今月から続きを順次投稿していきますのでよろしくお願いします。


今のところ毎週水曜日の17時に定期投稿の予定。

話や文字数の都合で分割などした場合は土曜日にも上げようかなと検討中です。




●先行アップしていたver.8までですが、見やすく読みやすくなるよう改行や一部表現など手を加えたところがあります。内容には変化ありません。

「あんたの名字、『九猫(くびょう)』じゃん? いい名前だと思うんだよねー」

 

「……急になに。なんで? 珍しくて、変なだけだよ」

 

「いやほら猫ってさ、魂が九つあるって話があったじゃん? なかったっけ……?」

 

「……わかんないけど」

 

「つまりそういうことでしょ」

 

「いや、どういうこと……」

 

「今回の件は、あんたは一個も悪くないし、気にする必要はこれっぽっちもないけどさ、もしあんた自身が失敗した。って思っていたとしても、魂は九つ。まだまだやり直せるってことでしょ」


 

――――――


――――


――


 

 いつの間に眠っていたのか。昔の夢を見た。こういう時はいつも、一番嫌な形の夢を見るばかりだったけれど、今日はそれほど悪い目覚めではなかった。夢の内容はあまり覚えていないし、めちゃくちゃ泣いてて顔カピカピだけれど。

 

 むくりと身体を起こす。カーテンからは陽の光が漏れていて、晴天が自己主張をしている。ただ、それを室内に迎え入れる気にはなれなくて、薄暗いままベッドから立ち上がる。

 

 洗面所でモーニングルーティン。鏡に映る浮腫んだ顔を見て、今日は外出しないと心に決める。歯磨きしながら冷蔵庫を開けば、まぁ……なんとか過ごせるだろう。

 

 ぼふん、とベッドに腰掛ける。枕元には無造作に外したままのヘッドギア筐体。それをぼーっと見つめながら、昨日のことを思い出す。

 

「……カナリアさん、良い人だったなぁ」

 

 プロゲーマー、友達にもひとりいるけれど、ゲーム内で関わったのは初めてかも。というか、一方的に甘えてログアウトしちゃったから、ちゃんとお礼をしなきゃ。

 

 そう思ってExternal brainを引き寄せる。昨日フラッシュバックしてしまったそれらが再び連想されて、思わず手を引っ込めてしまう。

 

「……ふぅー」

 

 意識して大きく呼吸をする。今朝の夢の内容を、思い出した。かつてあたしを救ってくれた親友の言葉を、思い出した。気合を入れて、ヘッドギアをかぶる。


 

〘ゲームを起動しています……。〙

〘最新のアップデートを確認しています……。〙

〘アカウントを確認しています……。〙

〘ようこそ! Nine Re:birthさん!〙


 

「……はい」

 

 起動画面のテキストに返事をする。

 

 そうだ。

 

 この世界であたしは、自分に『Nine Re:birth』と名付けた。それは親友がくれたポジティブな自己の解釈。心の御守り。

 

 そうだ。

 

 あたしはまだ、一度もやり直していない。






◆◆ NOW LOADING…… ◆◆






〘ワールドアナウンス:PN【Chompoo】とパーティーメンバー1名が【哀しみと歪みの魔人(リトルホープ)】を討伐。これにより囚えられていた記憶が解放、『偽由国(ぎゆうこく)ハドライン』が出現しました。また、【天理の真言者 オルチタ=グラヅネカ】が世界に返還。貢献したプレイヤーにWISが加点され、ランキングに変動があります。〙


〘ワールドアナウンス:PN【SENRYOact】が【厳凍公城リタントス】に到達。【極北の闇海】を発見しました。WISが加点され、ランキングに変動があります。〙


〘ワールドアナウンス:PN【BabyTiger】とパーティーメンバー1名が【女子クマ】の困り事を解決、これにより『パトーズ選命公園』が出現しました。また、【牙爪の真言者 ジキラ=ダイトーヴ】が世界に返還。貢献したプレイヤーにWISが加点され、ランキングに変動があります。〙


〘【4月 WISランキング】

1位 Nine Re:birth 100P

2位 Chompoo 80P

3位 BabyTiger 72P

4位 DoReMi 60P

5位 Canary 50P

6位 QueenQ 48P

7位 SENRYOact 30P

8位 Yuzuharu 25P〙


 ログインしたあたしを、次々と現れ重なるウインドウが歓迎した。

 

 ……。

 

 いやいや、通知あり過ぎ。世界すっごい動いてた。


 ……とは言ったものの、初日から何万人もがプレイしていると考えた場合、一晩とはいえこのポイント獲得数はむしろ少ないように思えてきた。


 それに、実際のプレイ状況としてはどうなんだろうか。話題のなり方、サービス前の盛り上がりから考えたら同時接続数は相当にあると思うんだけれど。なにせ直前は過疎ゲーだったわけでもあるし。このポイント制も、賛否両論ある気がするなぁ。なにせあたしがまだ1位のままだし。


 

〘メールを受信しました。〙



 こ、今度はなに。ゲーム開始直後のこともあり、メールには警戒。恐る恐る開封する。



 

〘to.Canary


 昨夜はありがとう。良く眠れたかしら。


 折り入って、貴方に話があるわ。


 サウザンド領内の『ストーンモンキー』というカフェで待っているから。


 都合の良い時に来てちょうだい。


 カナリアは、いつもここにいるから。〙




 ……なんかちょっと詩的なものを感じてしまう文面だが、昨日のカナリアさんからだった。お礼をしなきゃと思っていたので渡りに船な反面、『話がある』だなんて、なんか怒られるんじゃないかとも思えてしまう。


 ていうか、いつもここにいる、都合の良いときに来いだなんて、あたしが来るまでずっと待ってるってこと? 深読みかもしれないが、そこに随分と強制力を感じてしまい、尻込みしながらもすぐに向かうことにする。

 

 街行くNPCに聞けば、すぐに見つかったストーンモンキー。街の中心部にあるログハウスのような木造の建物がそれだった。オープンテラスというか建物の外にテーブル席が設けてある食堂で、カフェと言われたら、まぁ、そう言えるかもしれない。

 

 そのテラス席に客は一人。さながら優雅にアフタヌーンティーを楽しみながら読書をしている貴婦人。コーヒーカップを傾けながらステータスウインドウに向かい合っている女性は、映画のワンシーンかのように風景を完成させていた。何気ないが、めちゃくちゃ目立っている。

 

「あ、あの、すいません。お待たせ……? その、してしまって」

 

「あら。思っていたよりずっと早かったわ」

 

 顔を上げたカナリアさんは、その美白肌で朝日を照り返して二重の意味で眩しい。昨日と違い髪色は少し紫がかり、三つ編みのように二つ結び。結った髪をくるくるとネイビーのリボンが根本まで包んでいる。現実よりも簡単な分、アバターのメイク、髪型を頻繁に変える人も多いけれど、しかし、似合っている。

 

「体調は、大丈夫なのかしら」

 

「あ、は、はい。昨日はすみません」

 

「謝ることなんて。礼儀の知らない子供を存分に躾けて、カナリアも楽しかったわ」

 

 た、楽しかったんですか。声をかけてきた三人組の末路は、考えないようにしておこう。

 

「それで、ナインちゃんは何してる人なの」

 

「あ……え、えっと……」

 

 突然、プライベートな質問がきて、口ごもってしまった。視線も逸らしてしまった。こんな質問、世間話なんだろうに。

 

「ごめんなさい。カナリア、こんな感じだから誤解されやすいけれど、実は優しいから」

 

「え、え? あ、や、いやいや、その」

 

「別に詮索をしたかったわけじゃないのよ。そうね、言い方を変えなきゃ。ゲームは、1日何時間してるの?」

 

 気を遣わせてしまった。

 

「違うのよ。そうじゃない。カナリアはプロゲーマーだから、毎日ゲームするのがお仕事なのよ。ナインちゃんはカナリアと同じようにゲームをしてるのかしら」

 

 言ってることは不明瞭で、表情は終始無表情に近く分かりづらいが、どうやらあたしを気遣って言葉を選んでくれているようだ。やっぱり、この人は良い人。

 

「違うのよ、つまり」

 

「すいません、気を遣わせてしまって。でも、その、大丈夫、です」

 

 またも言い直そうとしてくれる彼女に、伝える。普通にしてもらって大丈夫と。それは自分にも言い聞かせる。

 

「えっと、この春、高校を卒業したんですが、進学や就職は、その、していなくて。フリーターというか、充電期間、というか。だから、その、ゲームばっかり、やっています」

 

「やだわ。カナリア、貴方のこと好きみたい」

 

 ちょ、ちょっと。どういう意味ですか。この人、なんか表現があれだな。独特というか、危うい。

 

「カナリアからの話というのは提案よ。このゲームをプレイする上で、相棒(バディ)になって欲しいのよ」

 

「ば、ばでぃ……ですか」

 

「そう。バディ」

 

 ゲーム攻略のためのチームアップ、マルチプレイというのはとても一般的だ。難易度的な利点もそうだが、ゲームはワイワイみんなでやった方が楽しい。そもそもがそういう構造の作品も多い。MMORPGなんてその最たるものかもしれない。が、それはあくまでも一般的な話。

 

「そ、そうですね。……そのー」

 

「もちろんこれは、強制でもなんでもないわ」

 

 即決できずに言い淀むあたしの先回りをするカナリアさん。

 

「昨日も言ったけれど、無理して一緒にやらなくても構わない。少しでも躊躇うのなら断っていいから。たまたま同じイベントを引いたというだけよ。プレイスタイルも人それぞれ。誰にも否定されるものではないわ」

 

 カナリアさんはまだまだ知らない人だが、あたしのことを考えてくれているというのが伝わるだけで嬉しいものだ。逃げてもいいよ、と示してくれるだけで、十分。もう一度、やり直すためにあたしはこの世界(ゲーム)にいるのだから。

 

「えーと、なんと言ったら良いのかはわからないんですけれど、その、大丈夫です。是非、一緒にプレイしてください」

 

「無理しなくても、いいのよ」

 

「ありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですから」

 

「猫ちゃんのイベントが終わるまででも構わないから」

 

「あー、そこは、そうですね。展開によって考えましょうか」

 

「嫌だったらすぐに」

 

「あ、あの! 本当に、大丈夫ですから!」

 

 自分を変えたい、と思っています。

 

 とは口に出せなかったが、その意志は込めて見つめ返す。

 

「わかったわ。ありがとう」

 

 少し微笑むカナリアさん。とすん、と彼女は背もたれに身体を預けて、

 

「実際には、打算なのよ」

 

 と話し始めた。

 

「カナリアはプロゲーマーで、それなりに食べていけているわ。でも、勝負事はやっぱり勝ちたいでしょう? 目指したトッププレイヤーになれたとは、まだ言えないの」

 

 彼女は自分の目の前にあるウインドウをくるりと回してあたしに向ける。それはこのゲームで通達されたばかりのランキングだった。

 

「この中にナインちゃんが知っている名前って、あるかしら」

 

 問われて改めて、その名前をひとつひとつ見てみる。正直、あたしはこの業界はあまり詳しくない。ゲームも全くやってこなかったわけじゃないけれど、ハマってたくさんやったのはShadow Rebellionだけだし。プロを目指していたわけでもないし。

 

「うーん、と、この10位の、『Yuzuharu』さん? くらいですかね」

 

「ふん、やっぱりそうよね」

 

 わかりやすく感情がカナリアさんに宿った。なにかはわからないが、悪い表情。

 

「言わずとしれた、世界一位(・・・・)様だものね。一時的とはいえ、それより上にカナリアの名前があるのはいい気分」

 

 なにやらトゲのあるトーンだった。よくは知らないけれど、嫌いなのかな。

 

「ナインちゃんは詳しくないのね。ハッキリ言うけれど、このランキングに載っているプレイヤーでナインちゃんとカナリア以外は全員|年間賞金ランキングの常連・・・・・・・・・・・・よ」

 

「……え?」

 

「もっと言えば、上から世界3位、日本7位、日本5位、世界8位――」

 

「ちょ、ちょちょっと待ってください」

 

「それらトッププロを抑えて、貴方が1位なのよ」

 

 ちょっと理解が追いつかない。

 

「あ、あの、まだ始まったばっかりですし、その、一時的なものですよ。すぐに追い抜かれると思いますよ」

 

「それはもちろんそうかもしれない。加点されていないだけで潜在的に進行中のイベントなんかもきっとあるでしょうね。ただ、カナリアはこのゲームに独特の難しさを感じているわ。普通RPGは基本となる筋道が示され、全プレイヤーにある程度の共通の体験というのが担保されている。でもこのゲームは最初なにもなく、プレイヤーの活躍でコンテンツが解放し、追加されていく。”追体験“はできたとしても、同じ体験はできない。試しにあの後、もう一度洞窟に戻って蟹ちゃんを倒してみたけれど、ポイントはもらえなかった」

 

 行動、検証が早い。あれ、ちゃんと寝たのかな、この人。

 

「自由度の高さはただゲームとしては素晴らしいけれど、これが競技(ゲーム)である以上、こんな風に『早い者勝ち』とでもいうような数値で【EGsports】として競うのであれば、先んじて得られるアドバンテージは必ずある」

 

 運営としても後続参加組が必ず不利、というようなことにはしないだろうとは思うけれど。とカナリアさん。ふわふわっとした人かと思ったが、そこはちゃんとプロの人だ。冷静な分析をしている。

 

「だからこそ、貴方の今の順位はとても素晴らしいわ。引いたイベントも一度で終わらず連続的だし」

 

「で、でも、なんであたしが一位なんでしょうか」

 

 当然の疑問を口にする。もちろん、直接対戦をして技術を競うものではないから、あたしみたいな立場のプレイヤーにもチャンスはある。ということなんだろうけれど。他の人たちの達成した内容を見る限り、あたしの功績の方が見劣りするような。実際裸でウロウロしてただけだし。いや、裸ではなかった。着てたから。

 

「評価の基準はまだ不明だからなんとも言えないけれど、例えば貴方がそれをしたのがワールドファーストだった、ていう加点もあったのかもしれない」

 

 うーん。とにかく運が良かった、ということなのだろうか。腑に落ちないけれど。

 

「そうなんですかね……。特に、ワールドアナウンスにある『真言者』なんて【十国の支配者】の肩書きなわけですし、もっと大量得点しててもいいような重要人物だと思うんですが」

 

「要所でもしかして、って思っていたけれど、ナインちゃんはこのゲームに詳しいのかしら?」

 

 え。そんな素振り、出していたかな。あたし。

 

「え、あー、その、前作? は結構やり込んでいたかなー、というくらいです」


 というか、ストーリーそっちのけで王立図書館と魔術じじいの家に入り浸ってた、ただの世界観設定厨なんだけれど。

 

「十分ね。やっぱり貴方はカナリアと添い遂げるべきだわ」

 

「え、えぇ。や、あはは」

 

 独特の表現にリアクションとれない、あたし。なんとなく気まずさを感じて話題を変える。

 

「あのー、でも、注目されてるとは思っていたんですけど、そんなにトッププロが参加しているゲームだなんて知りませんでした」

 

「それはそうよ。シーズン制とはいえ、月間トップに1000万、年間総合トップには1億5000万円の賞金だもの」

 

「ふへぇ!?」

 

 変な声出た。





≫≫≫≫≫ Save and continue……

【tips(語られぬ予定の設定たち)】

●EGsportsとは

『エンターテイメント・ゲーム・スポーツ』の略で、過去はコンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦等をスポーツ競技として捉えたものの名称のこと。現在では主流となる【VRゲーム】によるエンターテイメントコンテンツ、またはスポーツ競技のことを指します。

EGsportsの競技人口は全世界で約35億人とも言われ、ゲーム機やソフトなどの初期投資が必要であるにも関わらず、サッカーやバレーボールなどの現実のスポーツと比べても競技人口で大きな差をつけていて、そのうちプロライセンスの所持、非所持に関わらず、なんらかのゲームで賞金や収入を得ている人は約3億人ほどもおり、配信、ライブイベント、大会などを合わせた市場規模は500兆円を超しています。

日本国内だけでも70兆円を上回っており、トッププロと呼ばれる一握りのプレイヤーは、練習動画を配信するだけで数千万円を稼ぐとか。

人気ジャンルは格ゲー、バトロワ、スポーツなどで、近年はMMOもドラマや映画を観る感覚で人気が出ており、俳優さんが世界観に沿ったロールプレイをすることで人気な配信などもあります。

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