ver.4 碧の黄昏と、二人の兵
ゆっくりと目が覚めるように視界が開けていくと、そこは洞窟だった。
薄暗い中でも鮮やかさを残す黄昏色をした岩が作る壁に囲まれている。そこからつららのように、柱のように伸びる大小様々な鍾乳石。地底湖のように広がる水は、深さの見えない暗い碧。水の色は天井にも反射し、岩の黄昏色と美しいコントラストを作っている。完全なる地下というわけではないようで、遠く地上へと届く穴が所々にあるらしく、帯のようにいくつも太陽光が差し込んでいる。それに照らされる一帯はまさに碧と黄昏色のみ。
「ここが『碧の黄昏』……」
どうやらあたしは件のアイテム名そのままの場所に転移してきたようだ。神秘的で美麗な世界に見惚れて思わずふらふらと歩き出しそうになるが、その前に確認しなければならないことがひとつ。
「……で、まぁ、そうだよね」
それはもちろんあたしの装備品。少し視点を下げれば一目瞭然。多くの肌色と、左手の盾のみが見える。
「どう見てもダンジョンだけど、これは……このまま進めってことになるのかな」
装備の剥奪からダンジョンへ。なかなかの強行軍を強いられている、このイベント。考慮された難易度設定なら、いいけれど。
「す、少しずつ、進んでみようか」
転移し目覚めた場所は行き止まりのような場所で、地底湖を泳ぐ以外なら一本道。唯一の頼みの綱である盾を構えて歩き出す。素肌全部を守るには心許ないサイズだが、今はこれしか頼るものはない。唯一オルフェウスだけがあたしを守ってくれてる。とか、なんか気持ち悪い発想が頭をよぎったので頭を振ってかき消しながらそこをしばらく行くと、
「ぎぎぃ!」
突然の耳障りな声に驚き思わずしゃがみ込んだその頭上を、けたたましい羽ばたきでなにかが通り過ぎる。振り返れば、不安定にバタバタと飛ぶ洞窟にはお決まりの敵、蝙蝠だった。左右の翼は鈍く光る機械のような質感。赤字でEN『金属バット』と表示されている。ていうか、駄洒落だ。
その場にとどまる飛行は苦手なようで、勢いそのままで旋回してこちらへと突進してくる。
「ちょ、待ッ」
あたしには盾を構えるしかない。ガインッと金属同士の衝突音。両手に握る操作端末とヘッドギアが振動し、衝撃を伝える。視界の端にある体力ゲージとスタミナゲージが僅かずつ消費される。ガードが成功しても削りダメージあり。相手にも衝突ダメージがあったかは不明。音と衝撃から考えれば見た目だけでなくその翼は名前の通り金属のよう。果たして素手の攻撃が効くのか。
盾にぶつかり軌道を変えながらも、再び突撃の構えの金属バット。逃げようにも細い一本道。初戦闘にして早くも『詰み』の二文字が頭をよぎって、
「ぎぎぃいアア!」
まるで金切り声。それは突撃のための咆哮ではなく、断末魔だった。風と一筋の紫が視界を通り過ぎたと思った刹那、金属バットは身体を細剣に貫かれ、標本のように壁に打ち付けられた。最期の力で二、三度バタつき、力尽きる。蝙蝠だった身体はドロドロの闇へと変わり果て、地面に染み込み跡形もなく。残された細剣も、どこからか鈴の音がすると陽炎のように揺れて消えていった。
「君、大丈夫か!?」
再びした鈴の音と共に声がした。振り返ると美しい女性がひとり。出で立ちはまるで平安時代の童子水干姿。上から下へ、白から瑠璃色のグラデーションが美しい。このゲーム内には着物や袴などのこんな純和風な世界観もあるのかと驚いたが、着ているその人物は短い髪も瞳も瑠璃色で、頭に被ったヴェールのような薄絹の下は透き通る肌の西洋の顔立ちだった。腰には二振り剣を帯びている。
「いや、ていうか君、なんて格好だ!?」
おっしゃる通り。あたしもそう思います。
「じょ、女性がなんでそんな格好でこんなところに!? 全然大丈夫じゃない! と、とにかく、一緒に来てくれ。なにか、着るものを貸そう。話はそれからだ」
イベントととして、こういう決まった流れなのだろう。けれど、なぜだろうか。あたしはなんだか、情けない気持ちになった。
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「他になくてすまないが、ひとまずこれを着てくれ」
和装の令嬢に連れられ、洞窟内の開けた場所に来た。そこには布の屋根だけで作られた簡易テントのようなものが設営され、いくつか物資が置かれているようだった。そこで彼女に白を基調として青で装飾されたローブマントを受け取る。背中には3本の剣が突き立った紋章が刻印されていた。
「で、その、なんだ……。趣味、なのか?」
「え?」
ローブマントを羽織りながら、された質問の意味がわからず首をひねる。
「いや、なんというか、こんなところで、あんな格好で。そのー、」
言いづらそうにして、彼女は、
「性癖、かと」
「ち、違いますよ!」
真面目そうな顔でとんでもないことを。思わず大声で否定する。
「あ、や、そう。そうだな。そんな、訳はなかったな」
うんうん、と慌てて頷いてみせる。今のは割と本気だったろ、と思わせる細やかな表情にやっぱりAIすごいな、とは思わない。いらんでしょ、今のセリフ。その機能。
「ラズライト様! 今のは――」
あたしの大声のせいか、駆け寄ってくる男性がひとり。あたしが借りたものと同じ紋章が刻印された鎧で身を固め、肩からショートマントを羽織っている。後ろで黒髪をひとつ結びにしている、兵士。
「……なんだ貴様。見ない顔だが、どこの隊だ? いつからここにいる」
凛々しい顔を厳しい表情にして言う。まさに上官といった雰囲気に気圧され言葉に詰まるあたしに、
「いや、待てルクス。この人は千武隊兵ではない。裸で蝙蝠に襲われているところを保護したんだ」
「裸で!? 変態か貴様ぁ!」
「マジで待って! あたしがちゃんと説明します!」
不名誉過ぎる誤解を生むまいと、ここまでの経緯を本気で説明する。こういうNPCとの会話では、プレイヤーとかイベントだとかのゲーム的な用語は伝わらない。きちんと世界観に沿った説明が要求されるため、色々と苦心した。しかし、言葉を尽くしたかいあって、
「なんと……この場所が、闇に餐まれた。というのか」
ちゃんと伝わったらしいけれど、絶句し、押し黙ってしまう二人。
「出鱈目を言うな! そもそも貴様の言葉を信じる理由がどこにある!」
「落ち着け。座るんだ。冷静にひとつずつ情報を整理する」
言われて声を荒げた男性の方は、その言葉にすぐに従う。
「申し遅れた。私はラズライト=サウザンドだ。名前の通りサウザンド国主のひとりで、軍務を仕切る“軍姫”の職についている。こっちは従者のルクスだ」
なんと、偉い人だった。
「貴様、よもや知らぬわけではないだろうな」
「ルクス。落ち着けと言っている。雰囲気から察するに、君は異国の人だな?」
「あ、はい。そうです。えーっと、ナインと言います」
と、思いついて冒険カバンから最初に受け取った冒険身分証明書なるものを取り出して見せる。すると二人は目を見開いて、
「こ、これは……。ラズライト様……」
「……ああ。公的書印は本物だ。これは、この上ない証明だ」
見事スムーズに私の身分を証明することに成功したのかと思ったのだが、
「君は、これを、どこで?」
違ったかもしれない。ラズライトは真剣な眼差しで問う。
「え、えっと。冒険者協会、って言ってたかな。その、協会の人? に発行、してもらいました」
「そうか」
割としどろもどろで、逆に疑われたかと思ったのだがそうではないらしい。しばし思案してラズライトは、
「サウザンドには私の他に国主は二人いる。国政を任される“政姫”と、外交を担う“交姫”だ。その政姫である『ロデット』が闇に対抗するための力として異国の冒険者を受け入れることを決めたのが数日前。まだ外部への発表はしておらず、冒険者協会の設立は準備を始めた段階のハズだ」
ルクスがギリ、と歯噛みした音が聞こえた。
「ナイン、君がここへ来たのはいつの頃だ?」
「いつ、というのは」
「暦で言うと、何月何日だろうか」
ゲーム内日時、ということだ。うーん。わかるかな、とメニューを開く。するとコマンド内に現実時間とゲーム内時間を確認できる項目があった。
「あ、わかります。えーと、『気』の月というんですかね。その11日。気月11日? みたいですね」
「そんな馬鹿な!! 有り得ない!!」
ルクスが大声で立ち上がる。ラズライトも爪を噛み、もう落ち着け、座れとは言わない。二人の動揺っぷりに、私も動揺してしまう。
「……先日、この場所で大型の魔物の目撃情報があった。私たちはそれの討伐の為にここに来ている。サウザンド城を出立したのが、昨日のことだ。だがもし、君の言う暦が今日なのであれば、私たちの言う昨日は3ヶ月前ということになってしまう」
「有り得ません! 行軍と休憩でまだ一日も経っていない!」
「そうだ。長期遠征の準備をしてきたわけでもない我らが、こんな場所で3ヶ月間を生き延びれるわけがない。現に体力的にも腹具合をみても我々にとっては一日程度の時間経過であることは疑いようがない」
ラズライトは努めて冷静に続ける。彼女からは歴戦の気配がする。
「しかし、この証明書、発言、時間を調べた見慣れない魔術を見ても、君が異国の冒険者であることは、私が知る情勢から考えても信憑性が高い。思えば私たちは入り口から来ているのだから、君と出会った場所も不可解だった。こんな深部の突き当りに、君はいきなり現れたようにも思える」
「も、元々洞窟内に潜んでいたのでは?」
「残念だが、おそらくそれはないだろう。出会ったときの彼女の格好ではまず遭難者などに思うのが普通だが、私がそう思わなかったのは小綺麗だったからだ。潜伏や滞在をしていたのだったらもっと汚れているだろうし、もし私たちを騙すつもりであるならそれこそ遭難者を装うはず。そのほうが自然だ。信じ難いのは私も同じだが、残念ながら現状では一番得心の行く可能性だよ。例によって闇に餐まれ、皆の記憶から消えてしまったのであれば、ロゼットやミクリが援軍の一つも寄越していないことにも説明がつく」
「そ、そんな……」
狼狽えるルクスに、しかしラズライトは力強く言う。
「だが、ナイン。君がこうして来てくれたことが救いだ。入ってくる方法があるのなら、きっと脱出の方法もあるはず」
彼女は立ち上がり、
「わからないことも、確かめたいこともたくさんある。だがここまで来ている以上まずは当初の目的を達成しようと思う。さらに深部へ進み、件の大型の魔物を討伐する。ルクス」
「は。奴めの場所は特定できています。深部広場、通称“額縁の水平線”に潜んでいるかと」
よし。と応えてラズライトは、地べたに座り込んでいるあたしに右手を差し出す。
「ナイン。是非、冒険者としての君の力も借りたい。戦闘の心得はあるか?」
このゲームでの実戦経験ほぼゼロですけれど。とは思ったが、ここでそれを言うのは野暮な気がする。あたしは格好つけて、無言でそれを握ったのだった。
……肌着にマントという変態チックな格好で、だが。
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そこはまさに『額縁の水平線』という名に相応しい場所だった。
広く、天井は高い。巨大な柱のような鍾乳石がいくつも立ち、開けた空間を支えているようだ。一面の壁がなく吹き抜けていて、そこから見えるのは水平線。それがまるで岩で出来た額縁に入れられた巨大な絵画のようだった。道中地底湖に見えた水は全てこの場所ヘと流れついているようで、聞こえる水音からはこの場所がかなり高い土地にあることがうかがえ、額縁の向こうはきっと断崖絶壁。水平線へと向かって瀑布のように流れ落ちているようだった。
それそのものは素敵な場所だと思うが、逃げ場はなく遮蔽物が少ない円形の広場であり、その形を見ればまさに『大型モンスターと戦うのにおあつらえ向きの場所』という印象だ。
「ここ、に?」
「そのはずだ」
あたしの質問に鋭い眼光で辺りを見回しながらルクスが答える。しかし、大型のはずの相手の姿が見えない。であれば、出現パターンとしてはもうお決まり。地中、もしくは――
ザバァ、という音と共に水面を割って現れたのは二本の鋏。いや、腕だ。
ガジガジという足音で陸地に上がり、その全身を晒したのは一軒家ほどもあろうかという巨大な、蟹。全身鮮やかな青紫色で白い斑点がある。鋭い棘のある身体よりも目がいくのはその両腕。まるで挟むよりも突き刺すことに主眼が置かれているような鋭利に研がれた鋏。その左右は自身の身体と同じくらいに巨大だ。そして表示されるEN。
『大腕ガザミ』
そいつはすでに段取りをわかっているかのようにあたしたちに向き直り、自慢の鋏をジャキジャキと鳴らしてみせた。
「あれか。どう思う、ルクス。“魔術都市”の放った魔導生物に思うか?」
そう問いながら、ラズライトは腰に帯びた二振りの剣を抜き放つ。その一振は幅広の三日月刀。濃い緑色の刀身には見たことのない文字で文様が彫り込まれている。もう一振は私を襲った蝙蝠を張り付けにした細剣。光輝く薄紫の刀身。
「なんとも言えませんね。聞いたところで答える知性は持ち合わせてなさそうですし」
答えてルクスは右手を前に差し出す。何もない空間に光が集まり、一本の槍が生まれる。装飾の少ないシンプルなデザインだが、サラサラと光の粒子が漂うエフェクト演出が美しい。
対して借り物のローブマントをできるだけ身体の前に集めて肌が見えないようにしながら、同じく借り物の質素なショートソードを構える、あたし。国主とその従者であれば、すでに彼らは高レベルなんだろうから仕方ないが、この装備格差。羨ましい。
対峙する巨大な蟹がジリジリと距離を詰めてきている。近づいてくると少し恐怖を感じるくらい、本当に大きい。ゲームじゃなければ戦おうなんて絶対思わないだろう。ていうか、ゲームとはいえその硬そうな外皮をこのショートソードでどうにかできるのかな?
「いくぞ」
ラズライトが静かにそう宣言すると、ルクスが動いた。素早く直線的な動きで大腕ガザミに一気に肉薄する。それを討ち取ろうとガザミは右腕を大きく振りかぶる。刹那、紫電が煌めきラズライトの細剣がガザミの顔面に突き立った。蝙蝠の時もそうだが、細剣は投擲武器か。思った瞬間、ラズライトがもう一振の三日月刀を鞘に収めた。と、ほぼ同時に彼女の身体は空中へ。ガザミの眼前、居合の構えで細剣の柄の上へと瞬間的な移動をしていた。投擲箇所に自身を運ぶ瞬間移動能力だ! か、格好いい!
足元のルクス、目の前のラズライト。二択を迫られ困惑したかどうかを読み取れる表情すらないが、ガザミは躊躇なく右腕を振り下ろす。その威力は凄まじく、地面は破裂したように抉れて土埃が舞う。しかしルクスは冷静にそれを紙一重で避けながら槍を突き上げる。同時に顔面に放たれたラズライトの抜刀術。それぞれが甲高い衝撃音を響かせ、ガザミの巨体が怯んで後ずさる。ラズライトが細剣をガザミから引き抜きその場に着地した。
やばい。レベルや装備どころの話じゃない。そもそもの体術プレイングで全然ついていけなさそう。
間髪入れずにルクスは懐に飛び込んで連撃を繰り出す。システム変更に伴い今作ではモンスターのHPバーは表示されていない。しかしダメージはしっかり出ているようで、
「ぎぎぎァアア!」
ガザミは嫌がって振り払うように両腕を振り回す。ルクスは懐の狭い中で槍を器用に使い受け流し、また棒高跳びのようにしてそれを避けていく。彼が大きく飛び退いたタイミングで再びラズライトが動く。右手に持った細剣を今度は弓矢を引き絞るように構える。細剣は紫光の輝きを増し、稲光を纏い出す。そしてそれは一筋の雷光として放たれ、ガザミの胴体をいとも簡単に貫いた。
「ガガガぁあ!」
ガザミが呻き、その巨体は見事にひっくり返った。その無様な姿を見てルクスがあたしとラズライトのところまで後退してくる。
「攻撃は力まかせ。やはり知性もなし。大した相手ではなかったですね」
余裕の表情。高レベルNPC帯同の安心イベントだったのかな。と、それぞれ気を緩めるあたしたちに、
「油断するなよ。それほど勝利を不確かにするものはない」
と、ラズライトは厳しい視線をガザミから逸らさない。三日月刀の柄尻にぶら下がる鈴をちりん、と鳴らすと投げ放ったはずの細剣が陽炎のようにゆらゆらと手元に現れた。刀と使い手を自在に移動させる二刀なんだ、これ。欲しい。
「ぎ、ぎ、ギ」
ラズライトの言葉の通り、さすがにまだ終わってはいなかった。ガザミは現実の蟹ではありえなそうな器用な動きで起き上がる。するとみるみる身体の色が濃い紫に変わっていく。それを見て警戒を強めるあたしたち。
ガザミはその場で両腕を大きく掲げ、叩きつけた。その威力と勢いで自身の巨体を空中高くへと運ぶ。その力は凄まじく、地面にはいくつもの地割れが走った。ガザミは落下地点に狙いを定めるように両の鋏の先端を鋭く構える。
「散開しろ!」
ラズライトが号令を発する。二人は素早く、あたしは慌ててその場から離れる。自重をそのまま威力に変えて、落下したガザミ。背を向けて猛ダッシュのあたしの後方で轟音。身体が浮くほどの振動と衝撃。土煙を孕んだ爆風があたしのことを追い越していく。
土煙に覆われ視界の悪い中、自分が犯した致命的なミスに気付く。地面に走った地割れのヒビからは青白い光が溢れそうに湧き上がってきている。それは逃げた先、足元!
「ナイン!」
ラズライトの叫び。視界を埋め尽くすほど立ち上る光。それは電気がショートするような音を伴って破裂した。
ヘッドギアと端末が強く振動し、致命傷であることを伝える。そして、暗転。
《あなたは力尽きた。》
《チェックポイントに戻ります。》
《冒険カバンから『忘れられた時系物』を使用することで再度イベントに挑戦することができます。》
……やっちまった。
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≫≫≫≫≫ Save and continue……
【tips(語られぬ予定の設定たち)】
●この世界でのFull-Dive型 VRゲーム
脳波コントロール機能を備えたヘッドギア型ゲーム機を用いた、ヴァーチャルリアリティゲームのこと。初期はFull-Dive型システムによる仮想世界への精神移送を行い、現実と何ら変わりない没入感を提供していたが、過共感による虚性脳障害、仮想体験によるPTSD、ゲーム世界から精神が戻ってこれなくなる『心体離間症』などに加えてゲーム内での犯罪も横行、大きな社会問題となった。その後の研究でそれらのリスクは低い水準で抑えられるようにはなったが完全に排除することができず、ついには反対派の声により供給停止まで追い込まれることになった。
それに代わって開発された技術がSemi-Dive型【拡張感覚操作】システムである。仮想世界でのアバターを『仮想器官として認識させる』技術で、自分の手足のように感覚によるアバター操作ができると同時に、増設した仮想器官が過共感による虚性外傷を肩代わりするデコイとしての機能を備えることで多くの問題をクリアした。これらを生み出した日本企業【佐渡島セラミクス】は一躍世界的トップ企業に躍り出ることになった。また同社が発売したSemi-Dive型新型ヘッドギアゲーム筐体【External Brain】はまたたく間に業界シェアを席巻。ゲーム業界を一気に塗り替え、進歩させることとなった。