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盾の魔術師、トップを疾走れ!  作者: 九五
【天は世界の理を、煉獄は過去を渇望す】
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ver.19 ある魔術師の手記と、変わり果てた今

もっと面白くしたい。

・ライラス正暦112年 水の月

 突如として大地から噴出した黒い液体のようなもの。便宜上【闇】と表記する。原因もわからず、対策もできず、対抗手段も見つからないその闇は、世界全土を飲み込み始めている。生き残った者のために、この手記を(したた)めることにする。なにかの助けになれば良いが。



・ライラス正暦112年 風の月

 闇は徐々にだがその範囲を広げている。豊かだった故郷も、今や【清森都市】と呼ばれた面影すらない。そこに住み続けること叶わず、やむを得ず生き残りの皆を率いて移動することにした。まるで遊牧民だ。かつての友を頼れればと速鳥(エアメル)を飛ばしたが、返事はない。皆、無事でいてくれと、願うばかりだ。



・ライラス正暦112年 氷の月

 大陸を南に移動している。この辺りでは闇の浸食は一時落ち着いている。小康状態ではあるものの、わからないことが多すぎる。いつまた湧き出すかが不明な以上、警戒を解くことはできないだろう。


 デイード公国に流れ着く。幸いこの辺りは闇の浸食が少なく、資源も残っているように見える。郊外でも構わないから身を寄せることができないだろうか。知人がいるというアレイヤスが交渉にあたってくれている。結果を待つ。


 ありがたいことにデイード公国の領内に居を構えさせてもらえることになった。アレイヤスの知人のオルチタという女性と、その友人で公職のヒルダという女性が掛け合ってくれたそうだ。落ち着いたら今度、皆で礼を言いに行こう。本当に良かった。



・ライラス正暦112年 呪の月

 闇が広がる地域では大気中の精霊が極端に薄い。吸われているのか、散らされているのか。いや、草も生えないような状態になるのだ。そもそも精霊を生むものが無くなっていくのだろう。しかし、あの闇が言葉通りの『闇』ならば、闇属性の精霊濃度が高くなるはず。そうでないところを見れば、あれは闇ですらないということか。精霊力さえ潤沢ならば、魔術さえもっと使えれば、受け入れてくれた彼らに恩返しができるのに。口惜しい。


 

・ライラス正暦113年 光の月

 あれから5ヶ月ほどだ。世界全体の状況は知りようもないが、少なくともこの一帯では減ることもないが、闇の広がりは見られていない。お陰で作物が育ち始めたようだ。故郷での経験が生きた。皆よくやってくれている。



・ライラス正暦113年 神の月

 近くの小高い丘にエリスの花が咲き、花畑になっている。薬に使える花だ。ありがたい。なにより美しく、皆の癒やしにもなっている。


 花畑の丘でアレイヤス、ヒルダ、オルチタが楽しそうに語り合う姿を見た。こんな状況にあっても若さとは特権だ。“人間族”との関わりを五月蝿(うるさ)く言う老人も今はいない。未来が彼らの手で作られることを願う。



・ライラス正暦114年 無の月

 大変なことが起きた。なんてことだ。公国の東側、都市の三分の一規模が、闇に沈んだ。突然だ。あまりに突然だった。瞬きの瞬間に、私たちが立っていた大地はまるで水泡だったかのように、一瞬のうちに、沈み、消えた。


 被害にあった何百人もの人の中、数人の同胞も巻き込まれたと聞いた。混乱の中でまとめられた被害者のリスト。その中にはアレイヤスが、含まれていた。ヒルダ、オルチタの名前もあった。




 私は、なんと無力か。


 賢者とまで呼ばれながら、なんだというのだ。








・ライラス正暦116年 神の月

 アレイヤスと、オルチタを見かけたと言う者がいた。悪い冗談だと思っていた。あれから二年以上経っている。しかし、エリスの花の丘で、私も確かに二人を見た。本当に、帰ってきていた。


 話してみたが、確かにアレイヤスだ。何も覚えていないという。信じられないが、生きていたことを素直に喜ぼう。今は記憶が混乱しているようだ。落ち着くまで療養するよう言った。



・ライラス正暦116年 火の月

 アレイヤスもオルチタも、すっかり身体は良くなったようだ。それは良い。しかしながら、僅かな違和感。不安が片隅にある。彼らはいつの間にか不思議な力を持っていた。精霊魔術ではない。その上、違和感は彼らの人格や記憶のようなものにある。全てではないが、人が変わったような時があり、辻褄の合わないことを言ったりする。二言目にはヒルダのことばかり気にしている。


 ……いや、大切な人を失い、自分たちだけ生き残り、気持ちの整理がついていないのだろう。時間が解決してくれる。きっと。



・ライラス正暦116年 雷の月

 アレイヤスが失踪した。誰も、何も、聞いていない。一体どこへ。



・ライラス正暦116年 氷の月

 オルチタが、シグイオラ公爵を、殺した。デイード公国の領主だ。この状況にあって住民をよくまとめていた。好人物だった。なぜ。


 城を占拠したオルチタが、自らを城主と名乗ったそうだ。この国の民は、全て自分に従え、と。気でも狂ったか。止めねばならない。私が。


 オルチタが宣言しただけで領内全てを囲う城壁が生まれた。一夜にしてこの国は鳥籠になった。なんという強大な力か。デイード公国が誇った剣士隊も刃が立たなかった。まるで望んだことを全て実現するような、行き過ぎた力だ。彼女はそれを『真理魔術』だと言った。見たことも聞いたこともない。



・ライラス正暦117年 風の月


 なんとか秘密裏に妨害を続け、情報収集に徹していようと考えていたが、限界だ。彼女は次々と市民を城内に呼びつけては手にかけている。そんなことをして何になるというんだ。一体、なにが彼女をそうさせてしまったんだ。もはややるしかない。


 果たして、私で彼女を止められるのか?




 いや、私が、止めるんだ。










 この手記を読んでいる同胞へ。エリスの花畑のあった丘に仕掛けを施してきてある。あそこはオルチタにも思い入れのある場所だからなのか、彼女は訪れないようだ。不自然に近づかないともいえる。彼女に良心が残っている証拠かもしれない。


 この手記にも、私の記憶と人格の一部を封じてある。まずはこの手記を手にエリスの花の丘に向かってほしい。この国の平穏を諦めないために、世界について、彼女についてわかったことを語り継いでいく必要があるためだ。


 今でなくてもいい。誰かに、託せるように。




 

 友と、真実を取り戻したいのだ。 







◆◆ NOW LOADING…… ◆◆







「ナインちゃん、大丈夫かしら」


「……え? だ、大丈夫です、よ?」


 その話を、一体あたしはどんな表情で聞いていたのだろうか。カナリアさんに気遣われて居住まいを正す。


 しかし、確かにあたしの胸には様々な想いが渦巻いていた。


 かつて歩いた世界。それから200年後の、変わり果てた世界。あたしにとってはほんの昨日の出来事だ。しかし、ガライアにとっては長い長い時間だった。暮らしていた世界が突如、終末世界へと変わり果て、足掻き、抗ってきたのだろう。


 その事実に、去来するいくつもの想い。


「ガライア」


 あたしはそれを、吐き出さずにはいられなかった。


「かつて、あたしはあなたを含む、多くの仲間と一緒に戦ってきました。それが、その日々がどんなものだったか。あたしにとって、どれだけ影響を与えたものか。それを語る時間も、語る言葉も今はないけれど」


 さっきあたしは、彼のことを興味がなさ過ぎた。と表現したけれど、それは飽くまで推しキャラと比べたら、と言う話だ。一生懸命プレイをしていた一年の間に、彼とも何度も死線を越え、冒険を繰り返してきた。


「間違いなくあなたはあたしの仲間で、戦友です。その仲間が何百年もの間に守り続け、願い続けたものは、あたしが、受け取りたい」


 あたしがこのゲームをやる目的。


 好きだった世界(ゲーム)(キャラクター)の行く末を、見届けたい。


 自分を、変えたい。


 そして今は、一緒にプレイしてくれる人の足を引っ張らないように上手くなりたい。


 その全ては本物で、本心だ。


 しかし、あたしは今ハッキリと火が着いた気がしている。かつて一緒に旅をして、弱っていたあたしの心に寄り添ってくれていた人たち。その人たちはゲームのキャラクターで、どんなに自由度が高いと言ったってこの話の最後は用意されている結末だ。


「ガライア、あなたが知っていることを教えて欲しい」


 だとしても、それが納得のいくものになるようあたしも抗いたい。彼が自らの運命(シナリオ)に抗っていたように。


「あたしが……あたしたちが、彼女を止めてみせるから」








≫≫≫≫≫ Save and continue……

【tips(語られぬ予定の設定たち)】

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いつも読んでいただきありがとうございます。


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