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盾の魔術師、トップを疾走れ!  作者: 九五
【天は世界の理を、煉獄は過去を渇望す】
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ver.16.4 天理の真言者と、世界一の剣⑤

「まず最も重要なことが、やつに人質を取られないようにすること。それを前提としなくてはいけないということが先の接触でわかった」


 ユズハルさんは滔々(とうとう)と語る。


「毎回あんな風に、自在に一般人を盾にされては手の出しようがない。もう一度言うが、彼らの存在を無視する、という戦略は却下だ」


「ひとつ、攻略の糸口になりそうなことが、人質となる市民を送り込んでいるのが『分身』の方だという可能性が高いということ」

 

「城に攻め込む前に分身を全滅させてしまえば、もう市民を送り込まれることはなくなるかもしれない。僕が最初に分身の一体を倒した感触から言えば、一体ずつならそれほどの脅威ではない。どのくらいの時間で復活するのか。その検証は必要だが」


「全部の分身を同時に撃破し、その復活より早くオルチタ本体を討つ。これが現状の情報でたてられる作戦のひとつかと思う」


「問題は、これをするのにそれなりの数のプレイヤー参加が必要になりそうだということ。分身を“一人一殺”で倒したその足で急いでオルチタ本体の元に集まる、というのでは復活時間の猶予次第だけれどハードルもある」


「それよりも頭数を揃えてチームを分けて、分身討伐組が11体を同時撃破後即、突入組が本体へ攻撃。というのが理想だろう。確実に倒せてかつ分身の討伐タイムまで足並み合わせることを考えれば、今いる我々に加えて3人パーティを11チーム、計40人程度の参加が理想だろうか」


「この人員に関しては、気長に自由参加を待つというわけにはいかないだろうから、僕が『連盟』に話して人を集めよう。別ゲーでも協力してもらっているチームアップのメンツがいるから、確実に参加してもらえると思う」


「ただ、その彼らへの協力はお願いするが、獲得ポイントの関係もある。本体のオルチタ戦にはなるべく今のメンバーで臨みたいと思っている」


「人員が揃うまでに数日はかかるだろう。それまでは各自ステータスアップに努めてほしい。僕はオルチタ攻略の情報収集を続けてみる」


「作戦の決行日時は追って連絡する。イベント攻略の新たな手がかりなどが見つかった時も、パーティチャットに書き込んでほしい。だから、クリアまではパーティ設定は解かないように」


「以上だ。健闘を祈るよ」







◆◆ NOW LOADING…… ◆◆







「『健闘を祈るよ』じゃないのよね」


 珍しくぷりぷりと感情的になっているカナリアさんを横目に見ながら、あたしは苦笑いを作ることしかできないで歩く。なにか因縁があるのか、単なる相性かはわからないが、本当に彼が苦手なんだなぁ。


「自分が強引に話を進めていることがわかっていないのかしら。それこそ自分の『私兵』を使ってクリアまで勝手にやったら良いのだわ」


「ま、まぁまぁ。カナリアさん」


「こちらの意見は何も聞かず、偉そうに作戦だなんて。全く」


 はぁ、と一度大きく嘆息して、彼女は自ら話題を変える。


「さて、これからどうしようかしら」


「えーと、ともかくステータスアップをしなければ、というのはあたしも賛成です。この街に閉じ込められ続けるわけにもいかないわけですし」


「それなのだけれど、まだこのゲームの成長システムをちゃんと理解できているわけではないから、どうするのがいいかしら」


 一般のRPGであるならば、敵を倒す、イベントをクリアする、そういったことでもらえる経験値を貯めてレベルアップさせていくことが成長の近道なのだが、


「ソウルタブのシステムは、他のゲームで言う『実績』に近いかもしれません。経験して、達成したことが能力という形になる」


 旧作でも1000種以上のスキルがあったと言われていた。さらに増えたであろうそれの中から、狙った能力を獲得するのは至難の業だろう。


「新しいソウルタブの習得条件を解明するのは難しいですし、まずは今取得できているもののレベル上げが一番手っ取り早いですかね」


「なるほどね。持っている能力を手に入れたと思える行動や経験をさらに反復してみるってことかしらね」


「そうですそうです」


 ただこの街から出られない、という状況は一つ問題だろう。特に戦闘スキルに関しては、魔物がいる所の方が遥かに実践しやすい。この街中にそういった場所や施設があるかどうか。いちいちオルチタの分身少女に勝負を仕掛ける、というのは現実的でないし。


「あ、あの。そのですね、えーと」


 あたしはひとつ“やりたいこと”を思いついた。それをするために必要なことを整理しながら話す。


「能力をアップするためには、そのー、反復練習が必要です。技術的なことでもそうですが、旧作では単純な試行回数が条件になっているものが多かったように思います」


 それこそ素振りをする、走り込みをする、ガードや回避を繰り返す、などだ。ゲームなのに現実みたいな練習をさせられる、と当時は一部ライトユーザーから批判はあったみたいだけれど。


「なので、この街の中に『訓練所』のような場所があるかどうか。特にあたしは魔術の試し打ちができるような場所……人のいない広い空き地のような場所が必要だな、と思いまして」


「なるほどだわ。探しましょう」


 彼女はそこでメニューウインドウを開いて、


「ちょうどいいわ。時間的にはもうお昼をだいぶ過ぎてしまったけれど、休憩にしましょう。朝から何時間も続けてプレイしているわ」


 言われてあたしも時刻を確認する。カナリアさんと合流してから5時間近くが経過していた。確かに少しお腹も減った。


「そうですね。じゃあ、一旦ログアウトしよう、かな」


「ちゃんとお昼食べてくるのよ。疲れてたらお昼寝してきてもいいし、なんなら今日は戻らなくても構わないわ。それから――」


「だ、大丈夫です。その、好きなようにさせてもらいますので」


 気を使ってくれるというより、母親のようなことを言うカナリアさん。世話焼きというか、いや、あたしが情けない状態を見せてしまったからだろう。心配してくれているのだ。良い人だな、この人はやっぱり。


「ありがとうございます」


 あたしが頭を下げると、彼女はその綺麗な顔で笑顔を作って、


「戻ったらメッセージ、お願いね。じゃあ」


 と言って街の中に消えていった。


「……自分は休憩にログアウトしないのね」


 その背中に呟いて、あたしはログアウトをタップした。







◆◆ NOW LOADING…… ◆◆







 ログアウトした後の現実世界。電子レンジが昼食を完成させるのを待ちながら、あたしは部屋の小さなデスクから一冊の書籍を取り出し、パラパラと開いていた。


【Shadow Rebellion 世界観設定集 〜魔術編〜】


 そう題された一冊の本は、拘られ作り込まれた重々しい装丁。まさに“魔導書”と呼んで差し支えないデザインは、あたしの世界観厨心を刺激し、ゲームにハマって程なく購入ボタンを押させたものだ。これを持ち出したのは、ここまでのプレイでシステムとしては旧作とさほど変わらないという印象から、前作のことをおさらいすることで成長の手がかりになるのでは、と考えたのだ。


「ええと……プレイヤーが使う【精霊魔術】について」


 この世界での精霊は、一般に言う妖精のような姿のものとは少し違って、姿形のないエネルギーそのもののことを指す。あくまで大気中に漂ってる物質であって、意思も思考もなくただそこに存在しているだけ。ゲームの世界の中では魔術や自然現象、物理法則なんかのこの世界で起こる不思議な現象を司る存在と考えられている。精霊は大気のように常に身近に存在しているけれど人間は普段それを知覚することができない。魔術などにより“燃焼”して、現象として起こることで初めて認識ができる。プレイヤーが精霊魔術を行使するためにはこの精霊の力を借りなければならないが、体内に留めておける分には上限がある。自然界のものには全て精霊力が含まれており、食事で摂取することで体内に補給ができ、また大気中にも存在するから呼吸でも少しずつ回復する。


「いや、まぁこの辺は確認するまでもないかな」


 必要なことは、魔術の習得に関してだ。今後、役に立ちそうな魔術を調べておきたかった。


「うーん、せっかくだし、ゲーム内で習得したいというのはあるんだけれど、まぁ、もう結構記憶の中から使っちゃってるしな……」


 裏技、とは思うまい。継続プレイヤーとしての利点、と思おう。


 ぴー、とレンジが調理の完了を知らせ、蓋の隙間から蒸気を漏らすパスタと飲み物、分厚い本を脇に抱えてベッドサイドの小さなテーブルの横に腰掛けて、あたしはかつて歩いた世界の書物を開いた。








≫≫≫≫≫ Save and continue……

【tips(語られぬ予定の設定たち)】

●スキル習得の契機

基本的にソウルタブと同じで、ゲーム内での経験や達成した条件によってスキルを獲得します。突き攻撃でクリティカルを何回出す、〇〇を相手にジャスト回避を何回、一撃の最大ダメージが〇〇に達する、などなど。

しかし、今作RECAPTURE HEROSでは新たなシステムとして『各々のプレイスタイルを解析し、そのプレイヤーの得意行動をスキル化する』という技術が採用されています。後にプレイヤー間で【逆輸入スキル】と呼ばれるようになるもので、システムが用意していなかった行動も反復することでスキルとして昇華される。これによって個人差の大きい独自スキルが生み出され、その条件も複雑化しており、同じスキルを他人が習得することが難しい。このことからもスキルは魔術と違って、ソウルタブに密接な関係性があります。

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