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盾の魔術師、トップを疾走れ!  作者: 九五
【天は世界の理を、煉獄は過去を渇望す】
24/33

ver.16.1 天理の真言者と、世界一の剣②

年末。来年もゆるり頑張ります。

皆様、良いお年を。

 『柚春 新』


 元オリンピアンで、5、6年前にフェンシングで銀メダルか銅メダルだった選手だ。足かどこかを痛めてしまい若くして引退。数年後にプロゲーマーに転向して大々的にEGsportsへと参戦。瞬く間にいくつかの大会を制して去年、世界最大の賞金額を誇る『STREET Esper』のナンバーワンプレイヤーを決める世界大会、通称【BIGtournament】で優勝を果たし、一躍『世界一』のプロゲーマーに上り詰めた。


 メディアにもEGsports業界にも疎いあたしでも、これくらいは知っている。それくらいのビックネームということだ。その有名人を前にして、あたしは少し緊張していた。


「まずは自己紹介をしよう。僕はユズハルだ。こっちはLANCER君にHachi君。みんなゲーム内で知り合ってね、この国のイベント攻略のために共闘している。よろしく頼むよ」


 と、彼は簡潔に挨拶してすぐに本題に入る。


「すでに理解しているだろうが、イベントをクリアするまでは国外に出ることができないという状態だ。ただ、それ以外の方法がないわけじゃあない。Watch君、この二人はどこまで?」


「“連行”を目撃したところまでですねー。『分身』と戦闘になる前に私たちがおさえました」


 ウォッチの答えに静かに頷くユズハル氏。


「まず、この国に悪政を布いているのが【天理の真言者】オルチタ=グラヅネカと言う人物(NPC)だ。君たちが対峙したであろう()()はその分身だ。あれが全部で11体、常に街中を彷徨(うろつ)いていて国民とプレイヤーを監視している」


 「あれでいてまぁまぁ強ぇんですよね」と子供を評価するのはLANCERさん。喋ってもやはりどこか軽薄な感じがする。言うなれば見た目(アバター)にマッチした声。


「それなりの実力があれば勝てる相手さ。問題は国民を城へと連れて行こうとすることに介入し、分身を倒した場合だ」


 なるほど。あれは入国したプレイヤー全員に起きる強制イベントのようなものということか。


「感覚を共有した“11体で一人”というような存在なのだろう。すぐに他の分身が何体も駆けつけてきて、今度はプレイヤーが城へと連行される。ボクはここで従ったが、もう一度抵抗しても結果は同じらしい。それに助けたはずの人物含め、周りの民衆が一切感謝をしない。むしろ罵倒される、まである。助けた相手からは『イベントが進行しなさそうだった』とも言えるね」


「僕は最後まで抵抗しましたが、結局は変な魔術で拘束されての強制連行でしたから、戦う=城へ行く。という流れのようです」


 と補足したのはHachiさん。ハスキーな声は、声変わり直前の男の子とも、低めの女の子の声ともとれる。


「君たちが戦闘にならないよう邪魔してもらったのは、その後の展開が理由なんだ。城には当然()()()オルチタ=グラヅネカがいるわけなんだがね」


 ここでユズハル氏は一呼吸おいて、


「正直、ボクでも歯が立たなかった」


 と、言い切った。世界一のプレイヤーが歯が立たないって、どんな難易度なんですか……。


「オルチタ=グラヅネカ本人は、あの分身を成長させて大人にしたような姿だ。30歳前後くらいだろうか。城で会うと取引が持ちかけられる。単純さ。死か、服従か」


 物騒な二択だ。まぁ、流れ全てにストーリー上の強制力が働いているのであれば、ユズハル氏も勝てない相手というのも、きっと強制負けイベントなのだろう。というか、そうじゃなければクリアは絶望と思えちゃうけれど。


「死というのはそのまま従わずに戦って負けることだね。ボクはもちろんこっちを選んだが、負けても特にペナルティはないよ。知らない宿屋のベッドで復活しておしまいさ。単にステータスが足らなかった、という部分もあるだろうがね、感知できない攻撃や効果の分からない魔術も多かった。しっかりした攻略が必要なボスだね。あれは。そして問題なのは、もうひとつの服従の選択の方だ」


「LANCERさんが後者を選ばなかったっていうのは意外でした。どう見てもそっちを選びそうなのに」


「お前さん、それマジで失礼なこと言ってるぜ。見た目で人を判断すんなよ。俺はこう見えても義理人情の男だぜ」


 と、毒舌のHachiさんと、自分のキャラクター性が軽薄だとわかっているLANCERさん。すでに軽口を叩ける関係性とも言える。それにはリアクションなく、ユズハル氏は続ける。


「服従を選ぶと“あること”を条件に国外へ出る権利をもらえる。そのあることと言うのは――」


 眉間に(しわ)を寄せ、まさに(はばか)られるといった風にしてユズハル氏は、後の句を結んだ。


「――なんの罪もない国民を、生贄として差し出すことだ」







◆◆ NOW LOADING…… ◆◆







 彼らの調べによれば、オルチタ=グラヅネカは平たく言ってマッドサイエンティストのような人物らしい。国民を使って魔術の実験を日々行っているのだそうだ。何不自由ない生活を国民に与える代わりに、無作為に選ばれた人間が日に数人城へ呼ばれて実験体として命を落とす。つまりここは、巨大な人体実験場なのだという。


「いらっしゃいませー! ぜひ、寄ってってくださいよー!」


 食堂の店先で客引きをしている女性は素敵な笑顔だ。そんな殺伐とした内情を微塵も感じさせない。


「システム的に言えば施設利用料とか品物が無料だったりするのは街の外に出られない制限に対する処置ではあるんだと思うけど、世界観的に言えば外国人や旅行者が増えると必然的に彼らが“招集される”確率が減るから、という背景もあるんだよね」


 と、ウォッチ。うーん、エグい……。彼らがあたしたちに優しくするのにはそんな理由があるとは。


「つまり、イベントクリアの目的としては、ボスである“オルチタ=グラヅネカ”を倒してその支配から国を救うこと、か」


「そ。断言はできないけど、現時点ではその可能性が濃厚」


 あたし、カナリアさん、ウランちゃん、そしてウォッチの4人で街の様子を見ながら歩く。さっきあたしたちが騒ぎを目撃した場所も、今は落ち着いて平静と活気を取り戻している。


 平静と言えば、ユズハルさんの話を聞いていたあたりからカナリアさんは随分と静かだった。今もあまり口を開かずあたしたちと並んで歩いている。


「あのー、カナリアさん。どうか……しましたか?」


 まだ出会っていくらも経っていないが、ちょっと変というか、黙っているのは様子として少し気にはなる。恐る恐る聞いてみた。


「ごめんなさい。カナリアはうまい言い方ができないから、余計なことを言わないように黙っていたのよ」


 んん? なんについて、だろう。とあたしは思ったが、ウォッチには心当たりがあるようで、


「あれ、もしかして、カナリアさんもyuzuharu氏が苦手ですか?」


 意地悪な笑顔で聞く親友。


「ちょっと、変なこと聞くのやめなよ」


「そう。カナリアはあの人嫌いなのよね」


 ハッキリ言った。え、そういう感じなんです? 世界一のプロゲーマー。


「あははー。ですよねー」


 乾いた笑いでやっぱり、という表情のウォッチ。『カナリアさん()』、とか言うからもしやと思ったが……。


「さっきも見たでしょう? カナリアたちはまだなにも言っていないのに、(はな)から攻略に参加するのはさも当然というような話し方だったわ。そういう人なのよ」


「なんていうか、自分の前方しか見ていないって感じの人ですよねー。自分の世界だけで、あとは有象無象というか。カナリアさんは以前も関わったことが?」


「高校の先輩なのよ。当時あの人はフェンシング部だったから大した関わりはなかったけれど、噂はそれこそ沢山。プロゲーマーとして会ったのは数回あるけれど、カナリアの髪が金髪じゃないだけで全然気付きもしなかったでしょう? あの人」


「顔が良いからモテるけど、続かないタイプでしょうねー。私はペーペーなんで、以前挨拶したことがある程度でしたけど。でもその時も『君たち新人も、プロになったからには品性を大事に活動してほしい。ゲーマーは世間知らずだと言われる時代は終わったんだ。ボクらも尊敬されるアスリートとして云々……』って長いお説法をいただいた感じで」


「あぁ、わかる。わかるわ」


 ……ここはOLの給湯室かな? 嫌な上司の噂話でもするかのように、ある意味定番の女子トークで意気投合するカナリアさんとウォッチのふたり。挟まれて気まずいあたしはウランちゃんへと視線を逃がす。


「なんやわからんけど、あんたらも苦労してるんやな」


 AIに慰められる始末。


「……あ! えーと、いましたよ。そこ」


 話題を変えるのには都合よく、あたしたちが街歩きをしていた目的が見つかった。先の話し合いで、当面の目標はイベントクリアのための情報収集と、攻略に必要なプレイヤーの確保を手分けして、という形になった。特に急務なのは回復役(ヒーラー)なのだとか。RPGにおいては必須の役割ではあるが、MMOとしては縁の下の力持ちというか、人気職ではないためその役割を選ぶ人口が少ない傾向になるのは常であったりもする。


「あ、本当だ。女の子、みたいだね」


「はいはーい。皆さん見えてますかー? Peachでーす! ワタシ、いよいよハドラインへと潜入してみましたっ。ここには一体どんな謎が隠されているのか、早速探索していきたいと思います! 気になるリスナーさんは、是非チャンネル登録してPeachのことを追いかけてねっ♪」


 虚空に向かってポーズを決めて、ウインクをひとつ。どうやら、配信者(ストリーマー)のようだが。


「助けてください!」


「おっと早速事件のようです! ゴシップ記者の如きジャーナリズムで、遠慮なき現地取材を敢行したいと思います! もしもーし、どうされましたかー?」


 なんだかコミカルな走りで入国後の強制イベントへと向かう少女を見て、


「なんか申し訳ないけれど、ダメそうね」


 カナリアさんが、容赦ない感想を呟いた。








≫≫≫≫≫ Save and continue……

【tips(語られぬ予定の設定たち)】

●世界一位と話している時のウラン

 ナイン「(NPC連れているとややこしくなるかな)ごめん、少しここで待っていてもらえるかな」

 ウラン「わかったわ」

カウンター前で座って待つウラン。

おじさん「……」

 ウラン「……」

おじさん「……コトン(オレンジジュースを置く)」

 ウラン「なんや、おっちゃん。 これ、飲んでええの?」

おじさん「……(こくり)」

 ウラン「わぁ、ありがとう!」


というやり取りがあったりしました。

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