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盾の魔術師、トップを疾走れ!  作者: 九五
【終わる世界、始まる世界】
16/33

ver.12.1 金糸の妖精と、銀炎の虎②

「……やっぱり」


 あたしは森の中を走りながら、メニュー内【How to】のPvP(対人戦)PK(プレイヤーキル)の項目を見ていた。掻い摘んで大事なところだけ要約すると、こうだ。


 

①特殊なワールドイベント時などを除き、基本的に街中はセーフゾーンとなり、PC(プレイヤーキャラ)へ攻撃することができない。攻撃行動はフィールド上、またはダンジョンでのみ可能。NPC(ノンプレイヤーキャラ)への攻撃は可能だが、全て『犯罪行動』と見做される。

 

②他プレイヤーを攻撃して死亡させた場合(PK)、またRECAPTURE HEROS世界における『犯罪行動』を行ったプレイヤーは【クライムポイント(CP)】を得る。このCPは犯罪行動を行った時の“PC、NPCの目撃者が多いほど”多く獲得できる。


③CPは“犯罪歴”のように判断され、場合によっては国際指名手配されて街中での活動に制限を受ける。またNPCの反応にも影響し、攻撃を受けたり、施設の使用を拒否されるなどもあるが、これは国ごとの法律、NPC個人の考えに準拠し判断される。


④PKを行った相手のWISが自身と同等以上だった場合、PKをしたプレイヤーはそれと同量のCPを得る。CPはランキングにおいてはWISと同様のポイントと判断される。また、CPを得た時点で所持していたWISは全てCPに変換される。


⑤PKをなどを行いCPを所持しているプレイヤーを死亡させる(PKK(プレイヤーキラーキル))と、それを行ったプレイヤーは相手CPと同量のWISを得る。またPKKされたプレイヤーは、所持しているCP、所持金、装備品と大事な物以外の全てのアイテム(倉庫等に預けているものも含む)を全て失い、サウザンドの冒険者協会からリスタートする。



 うーん、なるほど? 複雑だが、要は悪いことをすると悪名が上がる。悪名も名声として扱われるけど、懲らしめられたり捕まったりしたら清算してもらうよ。と、そんな感じか。PKすることのメリットも、デメリットもあるようだ。


「よ、よくわからなかったでヤンス」


「あたしもです。とにかくまずはここを離れてセーフゾーンまで行きましょう。詳しくはそれからで」


 一旦棚上げをして、森の中を並走する。けもの道はあるが、足場は悪く走りづらい。だがイベント時と違って一本道でなく鬱蒼としたジャングルのようなフィールドだ。仮にカナリアさんが突破されて追われたとしても、逆に助けになるはず。


「どうなってんねん! ウチにも説明してや!」


 Stevepunkさんの腕の中で、最初は暴れていたウランちゃんも今は大人しく運ばれている。


「あたしたちもよく分かっていないんだ。とにかくさっきの人が悪い人で、安全な街に向かわなきゃいけないの。ウランちゃんは近くの街とか村とか知らないかな」


「知らん。そもそもここがどこだかわかってへんし、仮にわかってても知らんやろな。ウチ、年中ゴミ山におったし」


「引きこもりだったんでヤンス?」


「屋根のないとこにおったんやから、引きこもりちゃうやろ」


 ……不憫エピソードじゃん。強く生きてるのね。とにかく、現状の最悪のパターンは、カナリアさんとあたしがキルされて大量得点されること。そしてなにかしらのキーキャラクターであると思われるウランちゃんが連れられて、イベントを横取りされてしまうかもしれないところだ。


「カナリアさん……」


 昨日も今日も、自分の無力を感じ入るところばっかりだな。初めてハッキリと『上手くなりたい』『役に立ちたい』と思ってきたけれど、今は彼女の勝利を願うしかなかった。





◆◆ NOW LOADING…… ◆◆





「あー……前に対戦したのって、なんだったっけかな。『ストエス』?」


「そうね。覚えてもらえてない程度の試合だったわ」


「あー、いやいや。別に煽っているわけじゃなくてね。本当に覚えてなくて」


 カナリアは彼との対戦をよく覚えていた。世界でも屈指の人気を誇る『超能力ハイスピード格闘ゲーム【STREET Esper】』。その公式世界大会。Very Niceの防御を度外視した超攻撃的スタイルに対して、守備を起点にリズムを作るカナリアのスタイルはある種噛み合い、噛み合わず、二度の対戦はカナリアが文字通り力でねじ伏せられた。一昨年はわけもわからずあっという間に。去年は対策を練ってきたにも関わらず一方的に。カナリアからすれば自らの確立したスタイルを全否定されるような、屈辱の敗戦だった。


「試合内容は覚えていないのに、カナリアのことは覚えてるのね」


「そりゃあもちろん。中高生に絶大な人気のファッションアイコン、『インフルエンサーの』Canaryさんは有名人だから、知らなきゃモグリだよ。そっちこそ、俺なんかのことよく覚えておいでで」


「よく言うわ。貴方を知らないなんて、それこそモグリだわ。『世界賞金ランク』1()7()()のVery Niceさん」


 カナリアは自分のことをよく知っている。それ故に、諦めや見切りの早すぎることがあり、しばしばそれが彼女を勝利から遠ざけていた。今もナインとウランを守ることを最優先に据えており、格上相手に時間稼ぎができれば上等。勝ち気はなかった。しかし、今この瞬間においては、


「(プロゲーマーとしてのCanaryを刻みつけてやるわ)」


 その気持ちを持って、刀を抜く。瞳にこもったその情熱は、『PvPこそゲームの全て』をモットーとしているVery Niceを確実に焚き付けた。


「お、お! いいよ、いいよ。そうこなくっちゃ。どんなに高度なAIも気持ちまでは作れないよね。対人こそ至高の競技なんだよ」


 と、嬉しそうに臨戦態勢をとる。彼の両手には肘までバンテージのように布が巻かれている。それにはびっしりと見慣れない文字が書かれていて、その両腕を腰のあたりの中途半端な位置に構える。両足を開きスタンスをとり、相手サーブを迎え撃つテニス選手のように細かく左右に体重を移動させながら、立つ。


「さ、楽しもうか」


 瞬間空気が張り詰めた。


 それを破ったのはVery Nice。肉食獣の瞬発力で一足飛びに接近する。カナリアが突き出して構えた右の刀で牽制の突きを放つ。それを掻い潜って右拳を振るう。対して短くバックステップをしたカナリア。高速のジャブは空を切るが、構わずもう一歩踏み込み追いかけるVery Nice。


「ちっ」


 その速度と距離を嫌がって、カナリアは右腕を畳んで刀を胸の前に構える。敢えてそれを目掛けてVery Niceは左拳を叩きつける。鳩尾の前で拳と刀の鍔元がガチンと音を上げる。拳を振り抜いたまま相手の武器を押さえつけて、振りかぶられた右の拳。それを見てカナリアが左の刀を抜く。


 首を目掛けて迫るそれを、Very Niceが右拳で防御した。彼が腕に巻いたバンテージのような手甲は、その見た目に反して硬い音で刃を防ぐ。お互いの武器を抑え合って睨み合う刹那に、Very Niceの顔が離れて仰け反ったように見えた。


「――っ!」


 空へ駆け上がる稲妻のようなバク宙蹴り(サマーソルト)が間一髪反応したカナリアの前髪を掠めた。


 身体が伸び切り、前に出れないと判断したカナリアが、大きくバックステップで後退する。着地の瞬間にそれを見たVery Niceは、


「スキルON! 『爆拳酩拳(ラチェット&クランク)』!」


 スキルを発動する。右拳にバスケットボールサイズの球状の赤いオーラ、左拳に禍々しく揺れる黒いオーラをそれぞれ纏う。


 どう見ても左右別々の特殊効果を持っている技だ、そう判断して警戒するカナリア。素早く左の刀を腰の鞘に納刀し、体勢を整えて、


「スキルON。『精密騎士(クロックワークナイト)』」


 スキル発動。剣術の正確性を高め、迎撃の構えをとる。カナリアが発動したスキルが未知のものだということなどお構いなしに、右拳をその場で振るうVery Nice。纏った赤いオーラが放たれカナリアに迫る。


「――っ飛び道具!」


 その可能性を失念していた事に唇を噛む。視界には、その球体オーラを盾にして追従してくるVery Nice本人も見える。一瞬にして択を迫られカナリアは、


「(球を避けるか、受け流(パリィ)するか。爆発する系の可能性も。球に触れる選択はない。避ける。間に合う)」


 瞬時に判断したカナリアが左にステップ。上半身を傾けながら赤のオーラを回避する。


 残る左拳のオーラを警戒して左に回避する可能性が高いことを読んでいたVery Niceは、すでに回り込むようにステップをしていた。同時に振りかぶっている右拳。


 渾身の力で振り抜かれるそれを、カナリアは咄嗟に攻撃用の左を抜刀、防御した。衝撃に歯を食いしばる。僅かに崩れた体勢。構えられる左拳が見えた。受け流しのタイミングはとれない。顔と鳩尾を庇うように防御。


「くっ!」


 右肩に衝撃。防御の隙間を通してVery Niceの左拳はカナリアの右の鎖骨当たりを叩いた。


 数メートル身体がずれる。HPバーの減少は軽微。しかし、攻撃を受けた箇所に黒いオーラが染み込んで、


「状態異常」


 カナリアは“酩酊状態”に。視界が歪み、目が回るようだ。モザイクがかったような視野の中、Very Niceと思われる影が視界の外へと逃げていく。


 ――まずい。訪れたピンチにカナリアは思考力をフル稼働させる。受け流すにはタイミングが最重要だ。視界が不安定で相手の姿もハッキリしない中でそれをやるのは至難だ。反撃しかない。精密騎士のスキル効果で会心(クリティカル)は確定に近い。


「スキルON! 『収束剛腕(アインハンダー)』!」


 Very Niceがスキルを発動させた声は右側で聞こえた。集中を高めておおよその位置を判断、踏み込み、渾身の斬撃。左右両手を連続で振るった。


 手応え――は、僅かだった。


「危っねぇ! やるなぁ!」


 捉える確率が上がるように、左右別々の軌道で。威力が増すように身体で巻き込むように。そうして放たれた双撃は惜しくも紙一重。Very Niceの胸と腿にそれぞれ薄く刀傷をつけるに留まった。


 引き絞る弓のように、避ける動作と力を溜める動作を同時に行っていたVery Nice。その右拳には巨大な腕の形でオーラが生まれている。ぎりり、と拳を握り込む音さえ聞こえるほどに力を込めた剛腕は、丸太を振りかぶって叩きつけるような威力をもって、カナリアを捉えた。





≫≫≫≫≫ Save and continue……

【tips(語られぬ予定の設定たち)】

●【STREET Esper】

ガチムチ超能力者たちがハイスピードで戦う格ゲー。ハリウッドのトップCGチームが立ち上げたスタジオの制作で、その技術がふんだんに使われた超美麗CGと、それを活かした数々のハリウッド俳優コラボキャラ。そしてPhysical、Paranormal、Spiritのシンプルな三竦みシステムが人気となり多くのプレイ人口を獲得しています。数年前、とあるトッププレイヤーが大会の対戦中にコラボ俳優キャラで、その映画のワンシーンを完全再現して勝利したことでその人気に爆発的に火が付き、世界的なトップタイトルにまで登り詰めました。現在はエンターテインメントとしての側面が強くなりすぎていて、様々な“if展開”が観れると映画ファンが集まってしまい、“魅せ”要素が過剰に求められ過ぎる環境になっていてプロレスと揶揄され、プロゲーマー人口は逆に減少しています。

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