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勉強会

「今週末に勉強会するつもりなんだけど、一年生ズも来ない?」


「「「勉強会ですか?」」」


 中間テストまであと8日、テスト前最後の部活にて暁先輩がそう提案した。

 詳しく話を聞くと、先輩は一人でじっと勉強するのが苦手な性質(タチ)らしく、誰かと一緒に勉強したいそうだ。


「加奈ちゃんと二人で勉強する予定なんだけど、みんなも一緒にどう?」


「どこでやるんです?」


「私の部屋」


「え、それって全員入ります?」

「入る事には入るでしょうけど……」

「勉強するってなると狭いのではないでしょうか?」


「ベッドのマットレスをどかして机代わりにしたら、結構広いよ!」


「そうですかね? お邪魔じゃないなら、ぜひ参加したいです。今テストされても大丈夫な程度には仕上がってますし」

「私も大丈夫です。流石に終わっては無いですけど、順調に進んでるので」

「私も参加します。暗記カードが仕上がって、今から覚えるところって感じですので」


「ちょっと待って、そこは『私もヤバいんです、ぜひ一緒に猛勉強しましょう!』って感じじゃないの?」


「え、もしかして本当に真面目な勉強会をするんですか?」

「途中から遊んじゃったりせず?」

「お邪魔しまーすから今日はありがとうございましたまで集中し続ける感じですか?」


「もちろん! まあ確かに、勉強会って途中から遊ぶイメージあるよね。でも、私が主催するからには、必死で勉強するよ! この、今にも赤点を取りそうな私が主催するんだ、それはもう必死に勉強するよ!」


「なんかやだなあ、そんな自信」


「失敬な。というか赤木君に至ってはもうテスト勉強終わってるの? どういうこと?」


「ああ、実はバフかけながら勉強したんですよ」


「え、そんな事が出来るの?!」


「あはは。ごめんなさい、冗談です。普通に授業中にしっかり聞いてたんで」


「ちぇー! 期待したのにい! このー! このー!」


 ぷんすか怒って、俺をぽかぽかと殴る暁先輩。何この可愛い生き物。


(やっぱり二人、仲良くなってるよね?)

(私もそう思います!)



 ピーンポーン


「おはようございます、赤木です」


 ガチャリ。扉が開くと、何故か桜葉先輩が出てきた。いや、一緒に勉強会するのだから、ここにいるのは分かるけど。


「おはよう、赤木君」


「おはようございます、先輩。えっと、暁先輩は……」


「まあまあ。入ったら分かる」


 桜葉先輩に案内され、中に入る。当たり前だが間取りはほとんど同じなので目新しさはないが……。


「……なんで暁先輩、椅子に縛り付けられてるんですか?」


 勉強机の前の椅子に、暁先輩が固定されていた。何があったんだ?


「……」


 しかも暁先輩は無言。

 無言を貫く暁先輩に代わって、桜葉先輩が答える。


「うむ。30分ほど前に私が来たんだが、その時から『あーお部屋の掃除しなくちゃ』とか『男の子に見られて不味い物、無いよね』とかなんとか言ってその辺を歩き回ってたんだ。だから縛ってやった」


「そうですか。賢明な判断だと思います」


「……! ……!」 暁先輩は手をぶんぶん降って抗議している。


「ちなみに、声を出さないのは何でなんです?」


「固定した後も私語を辞めないから、次に一言でも喋ったらこれを咥えてもらうって言ってある」


 桜葉先輩の手には……。


「おしゃぶり?」


「いかにも。ちなみに、この為だけにわざわざ注文した『大人用のおしゃぶり』ってやつだ」


「あー、禁煙したい人が使ったりするやつですよね」


「そうそう、良く知ってるな。まあそういう訳で、瑠璃は9時まであと30分は一切無言と思ってくれ」


「了解です」



 この後やってきた七瀬さんと宮杜さんも、暁先輩の惨状を見て変な顔をしていたのは言うまでもない。



「9時だ。もう喋っていいぞ」


「はあ~! えーと、改めて今日は集まってくれてありがとね」


「お疲れ様です、先輩」「あ、お疲れ様です」「お茶、出しますね」


「ありがと~。あれ、この家の家主って私だよね……?」


「さて、瑠璃よ。もうこれで英語は完璧なはずだ。今から口頭試問するぞ」


「の、望むところよ!」


「immuneの意味は?」

 「……」

「時間切れ、正解は……」

 「待って、思い出した! 移民とかそう言う感じの奴」

「はあああ~」

 「あっれ? 違ったっけ?」

「違う。逆に移民は英語で?」

 「……」


「これは確かに不味いですね」


「だろ? ちなみに、君は知ってるか?」


「immuneは免疫って意味ですね。免疫機構(immune system)って形で使われたりしますね。あとは、免疫不全(immunodeficiency)とか? 移民はimmigrantでしたっけ?」


「完璧だな。さて、瑠璃。罰ゲームだ」


「ふえーん」


「罰ゲームって何するんです?」


「これだ」


「……ネコミミ?」


「うむ。本気で猫の真似をするという罰ゲームだ。動画を撮影してもいいって事になってる。後でこの五人のグループトークに挙げるよ」



「にゃ、にゃーん」


「ほーれほれほれ」(桜葉先輩が猫じゃらしを振る)


「うにゃう! うにゃう!」


「……なんか可愛くないな」「猫っぽさが足りないのでは?」


「ふしゃー!!」



「もう無理! もう嫌! 単語を覚えられない! 文法も覚えられない!! 何よdevourって! Not having time, I skipped breakfastってどうなってるの?!」


「devourは貪り食う! Not havingに関しては、さっきから言ってるじゃないか! 否定語を前に出すって!」


 あれま……。険悪な雰囲気になってきちゃった。


「桜葉先輩、落ち着いてください! びっくりして七瀬さんと宮杜さんが固まってます」


「う、うむ。すまない、大声を出して。勉強の邪魔だよな」


「あはは。気持ちは分かります。弟に勉強を教えてるときとか、私もそうなってました……」

「わ、私も大丈夫です。ちょっとびっくりしましたが……」


「あの、桜葉先輩。暁先輩の指導役、俺がやります。このままだと、桜葉先輩が勉強できないでしょうし……」


「いやだが、しかし……」


「俺は自分のテスト勉強終わってますから」


「いや、問題ない。私も勉強は終わってるから」


「でしたら、宮杜さんと七瀬さんに物理の指導をして頂けませんか? 二人とも、結構ミスが目立つんで」


「分かった。済まない、恩に着る。あ、あの。さっきは怒鳴ったりしたが、本当の私はああじゃないから。その……」


「大丈夫です、先輩が優しいのは知ってますから」

「はい、お世話になります」


「良い後輩だなあ……」



「さて、向こうもいい感じに馴染めてそうですし、こっちはこっちで始めましょうか。さて、先輩。試験範囲はどこからどこまでですか? ……なるほど。このくらいならいけますね。先輩、俺が今から示す文章を紙に映してください。……。お疲れ様です。じゃあ、これだけ、この15文を丸暗記して下さい」


「この文章を? 丸暗記?」


「ええ。例えばこれ“Not knowing what to do, I decided to sleep”(何して良いか分からなかったから寝る事にした)という文。これを丸暗記しちゃうんです。そうすれば、他の分詞構文がきてもNot 動詞ingの順番って分かるでしょう?」


「なるほど、なるほど。『否定語を前!』って覚えるのではなく、例文で覚えるんだ」


「そうです。本来、言語と言うのはそうやって覚える物ですから。という訳で、ここにある例文だけ丸暗記です。ゴー!」


……

………


「ありがと、なんとなくわかった気がする。こっちの小テストも満点だったし」


「良かったです。例文丸暗記法は他にも、古文でも使える技です。例えば土佐日記の冒頭『男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり』を覚えるだけで、伝聞推定の助動詞『なり』と断定の助動詞『なり』の接続を覚える事が出来ます」


「えっと確か、『男もすなる日記』は『男が書くと聞く日記』だから伝聞の助動詞。『してみむとてするなり』は『してみようと思ったからするのだ』だから断定の助動詞? だっけ?」


「はい。ですから、伝聞推定の方は終止形接続、断定の助動詞は連体形接続ですね」




 ちらっと桜葉先輩たちの方を確認すると、和気あいあいと勉強会をしていた。良かった良かった。



「じゃあ、先輩。英語はいったん休憩して、理系教科をしましょうか」


「うん。まずは数学からかな?」


「分野は? なるほど、なるほど。あ、これ苦手な感じですか。めっちゃ間違ってますけど」


「う、うん。理解はしてるんだけど、何故か間違っちゃうの……」


「ここはこういう裏技があって……」


「へー! 分かりやすい!! ……あれ、赤木君って年下だよね?」





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