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イチゴフェス

 チリンチリン♪


「はーい、二名様ですか?」


「はい、二名で予約してる暁です」


「えーと、はい。10時からカップルでご予約の暁様で間違いないですね?」


「そうです」


 カップルクーポンとやらを使って予約している、と事前に聞いていたけれども、改めて言われると恥ずかしいな。なんて思っていると。


「はーい、それじゃあカップルである事を確認する為に、お二人はキスして下さ~い」


「「へ?」」


 なにそれ、そんな制度あるの?

 いやいや、あってたまるか。だって、仮にカップルでもキスするまで関係が進んでるところなんて少ないだろ。いや、でも今どきの学生カップルってそういうの緩いのか?

 どうしましょ、的な目線を暁先輩に送る。


「キ、キ、キ、キチュー? へ、あ、そ、その。わわわ私は別にイイケド?! キ、キスくらい、あ、あはは」


 視線の先で、暁先輩は壊れていた。おそらく処理能力が追い付かなかったのだろう。


「せ、先輩?」


「あ、赤木きゅ()んはイヤだよね、わわわ私なんて。でででで、でも赤木君が良いなら、私はイイケド?! さああどうぞ!」


 あ、やばい。暁先輩、本格的にパニックになってる。どうしよ、チョップしたら治るかな?

 先輩が近づいてくる。つい視線がその瑞々しい唇に吸い寄せられる。柔らかそう……。って、いやいやいや。駄目だろ、こんな事で先輩のファースト(かどうかは知らないけど)キスを奪ってしまったら、俺はどう責任を取るんだよ?!


「冗談ですよ、二名様ご案内です~!」


「あ、やっぱり冗談なんですか」


「流石にね~。でも、彼女さん、『イイケド?!』って言ってましたよ。二回も。けど、そういうのは二人っきりの所の方がいいですよね~! 二人きりになったタイミングでゴーですよ! 陰ながら応援してます♪」


 そもそもそういう関係でもないのだが……。ま、わざわざ訂正したりしないけどさ。



 処理落ちして壊れたラジオみたいになっている暁先輩をチョップ、無事再起動に成功した。一件落着。

 案内された席は、窓際で「花の丘」を見渡せるいい席だった。にしても本当に凄いな、一面がピンクだぞ?! あれだけの花を管理するのにどれだけの費用が掛かるのか、なんて思ってしまう俺には無邪気な精神が足りていないのであろう。


「めっちゃいい席ですね!」


「そ、そうね」


「……なんかいつもよりも元気が足りないですね。もう一回チョップした方が良いですかね?」


「しなくていいから! ごめん、さっきは取り乱して。お恥ずかしい所をお見せしました……」


「あはは。壊れてる先輩、面白かったですよ。写真に収めなかったのが悔やまれますね」


「イジワル~! ってこんなこと話してる場合じゃないわ! イチゴを食べないと!」


「俺、荷物ここで見てますね~」


「ありがとー!」



 イチゴのパンケーキ、イチゴのゼリー、イチゴのムース、イチゴのプリン、イチゴのロールケーキ、イチゴ大福、イチゴアイスクリーム、イチゴタルト……。


「凄いですね、ここ。ほぼすべてのスイーツにイチゴが使われてる……」


「すごいよね~! このイチゴフェス、毎年やってるらしいのだけど、去年は良くタイミングを逃しちゃってさー! ずっと来たかったのよね~!」


「先輩、やっぱりイチゴが好きなんですか?」


「うん! イチゴに囲まれてるって最高ね! 赤木君はそう思わない?」


「まあ、イチゴは好きですけど。けど、ここまでイチゴだらけだと、イチゴがゲシュタルト崩壊しそうです」


「なあに、その美味しそうな崩壊?」


「美味しそう……? いや、ゲシュタルトって名前のタルトじゃないですよ?! ゲシュタルトはドイツ語で形態って意味で、同じ文字を見続けていると、その文字がまるでバラバラになっているように見えて分からなくなる現象ですね。ほら、子供の頃、漢字ドリルをさせられてるときに『あれ、私は今、なんていう文字を書いてるんだ?』ってなりませんでした?」


「ああ~! あるある!」


「ちなみに、お菓子のタルトはフランス語が語源ですから、ゲシュタルトとは無縁……のはずです」


「ふええ~!  なんでそんなの知ってるの?」


「なんかクイズ番組でやってまして。あ、タルトについてはお菓子の本で知りました」


「へえ、タルトも作れるんだ!? 今度作ってよ!」


「そうですね……テスト明けに慰労会がてら作りましょうか?」


「て、テスト……。なんて恐ろしい単語。どんな魔物よりも怖いよね……」


「あはは……。もしかしなくても、暁先輩って勉強苦手なんですか?」


「平均……よりもちょっと下くらい? でも、迷宮攻略についてはトップクラスだよ! 加奈ちゃんに助けられながらだけど、100層到達したし!」


「へえ! 凄いですね!」


 凄いですね! なんて返事したけど、それって凄いのだろうか? この世界の到達記録が300階層って事を考慮すると、100階層ってかなり凄いのかな? ま、その辺りは後々分かるだろう。

 ちなみに(ゲームの通りだとするなら)最深層はまだまだ先だ。と言っても、途中から馬鹿みたいに強いアイテムが集まるようになるから、ある時点からは攻略がサクサク進むようになるけど。


「昨日もかな~り強いボスを倒して、SRドロップを当てたんだ! 後で見せてあげるね!!」


「楽しみにしてます」


「あ、そういえば、一気に話を変えちゃうけど、赤木君のつぶやいたーに上がってたケーキ、すっごく美味しそうだったね! イチゴ乗ったやつ! あれ食べたい!」


「ああ、見てくれたんですね! あれですか、正直かなり面倒なんですよね。まあ、また時間があれば作りますね」


「楽しみにしてる! お代は幾らほどで?」


「ホールで5000円くらい?」


「高?!……くもないね。手作りって事を考えると、むしろ安いかも? 是非買わせて頂きます!」



 その後もおしゃべりを楽しみながら、90分が過ぎていった。ごちそうさまでした。



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