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ジグゾーパズル

 困った。特にやる事が無い。

 いやね、休みを有意義に過ごそうとして、必死にすることを探したり作ったりするのは本末転倒だと思うんだ。実際、昨日も特に何かをするわけでもなく部屋でゴロゴロしてただけだし。


 けど、せっかく穂香と一か月ぶりに対面したのに、特に何もしないのはなあって思ってしまうのだ。


「なあ、穂香~。今日はどうする?」


「うーん、なにか映画でも借りてきて一緒に見る?」


「あー、それいいかもな~。どんな映画がいいかな?」


「うーん、特に思いつかないな~。お兄ちゃんは?」


「俺も特にないかなあ。ってこれってまさしくアビリーンのパラドックスになりそうだな」


「何それ?」


「お互いが相手の事を考えるあまり、結局二人とも望んでいない選択肢が選ばれてしまう、集団心理学のパラドックスだよ。今回の例で言うと」


俺『特に見たい映画とか無いけど、何もしないと穂香が退屈に感じるよなあ』

穂香『あ、お兄ちゃんは映画が見たいのね。私は興味ないけど、まあ……』


「……と思った結果、二人とも特に映画が見たい訳じゃないのに映画観賞する事になるって感じ」


「へー! そういう事ってよくある事だと思うけど、ちゃんと名前が付けられてるんだね」


「そうそう。という訳でだ。改めて何かしたいことある? 先に言っておくと、俺は特にないかな。このまま二人でダラダラするのもいいかなって思ってる」


「そうだね……。私も同感かな~」



 こうして、特に何もせず一日が過ぎて……




 ――がっしゃーん!

「きゃあああ~!」




 部屋の外で、母さんの叫び声が聞こえた。


「……何があったのかな? 見てくるよ」

「私も行く!」


 階下では、母さんがジグゾーパズルの前で呆然としていた。あれって確か全2000ピースもあるジグゾーパズルで、廊下に飾ってあった奴だよな?


「母さん? 大丈夫?」


「あ、ごめんね、大声出しちゃって。私は大丈夫、だけどこれは大丈夫じゃなかったみたい……」


 バラバラになったジグゾーパズルを指さす母親。そして、俺達を見て言う。


「これ、組み立ててくれる?」


「マジで言ってる?」


「嫌ならいいのだけど……やってくれると嬉しいかな?」


 穂香と俺は顔を見合わせる。


「じゃあやるよ」「どうせ暇だったし」



 それから二時間が経過した。そして俺達は今、絶望の淵にいる。


「お兄ちゃん……。これ、全然終わる気がしないんだけど……」


「だな……。安請け負いするんじゃなかった」


 休日のはずが、何故か疲労困憊になっている。どうしよ、これ?


「お兄ちゃんのフォルテを使って何とかならないの……?」


「いや、ジグゾーパズルが解ける能力なんて持ってないぞ。そもそも……」


 学外で能力は使わない、と言おうとしたその時だった。



 ――音が消えた。



 何が起こったのか把握しようとしたが、体が動かせないことに気が付く。眼球すら動かす事が出来ない。

 視界の端で穂香がいくつかのピースをばらばらと地面に落としているのが確認出来た。しかし、それらのピースの落下が止まっている。時間が止まっている……?


 自分の目の前にあるピースの山に目を向ける。どこにはまるか分からず、放置されているピースの山である。

 それらピースをじっと眺めていると、不意にピースとピースの関係性が把握できた。ああ、あのピースはここに当てはまるのか。こっちのピースとこっちのピースが繋がるんだな。


 気持ちが悪い。大量のピースの情報が、頭の中で激しく暴れまわっている。やめろ、助けて、止まって……!



 カラカラカラ……。



 音が聞こえた。それは穂香が手に持っていたピースを落とす音。そちらに目を向けると、穂香と目が合った。


「お兄ちゃん?! 大丈夫、目が充血してるよ!」


「え? あ、うん。大丈夫……」


「大丈夫じゃないよ?! 目薬、取ってくるね!」


 そう言って、穂香は部屋を飛び出した。



 なんだったんだ、さっきのは? 俺はピースの山に手を伸ばし、組み立てていく。パチンパチン。まるで、最初からどことどこが繋がるのかが分かっているかのように、ピースが綺麗に組み合わさっていく。


「まさか、情報処理能力の強化……?」


 身体強化を使えるキャラの中には「パラレルパラドックス」という必殺技を持つ者がいた。それを使用すると、敵の弾幕がゆっくりになる。同時に味方の移動速度もゆっくりになるけど。

 公式の説明によると、その能力は「脳機能を多重並列化する事で脳の情報処理能力を向上させる技」らしい。つまり、時間を操るのではなく、思考能力を向上させることでまるで時間がゆっくり進んでいるかのような効果を得るのだ。


 ゲームではこの能力を覚えるのは特定のキャラだけだった。けど、理論上全ての能力を使える風兎(主人公)が操れたっておかしくはない。


「お兄ちゃん~! はい、これ。目薬。自分でさせる?」


「ああ。うん。流石にさせるけど……」


「やっぱり私がさしてあげる! はい、ここに寝転んで!」


「いや、自分で……」


「カモン、お兄ちゃん!」


「う、うん」


 妹に膝枕されながら、俺は目薬を差してもらい、何故かそのまま穂香に頭をなでてもらった。ジグゾーパズルは終わらなかった。





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