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マロンマロンの眼

 マロンマロンはでっかいザリガニ型の魔物であり、そのドロップアイテムは三種類ある。

 ノーマルドロップは栗である。ザリガニから栗が出てくると考えると違和感しかないが、どういう訳か何の変哲もない栗がドロップする。

 レアドロップは甲羅である。普通の甲殻類の甲羅はキチンと呼ばれるたんぱく質の骨格に炭酸カルシウムなどが混ざって出来ているが、ドロップアイテムとしての甲羅は全く違う。魔力線(だっけ?)が骨格になっているらしいのだ。その性質上、魔法化学的な技術を駆使する事で、プラスチックのように手軽に加工できるそうだ。

 そしてスーパーレアドロップは……眼球である。


「この眼球ってドロップアイテム、使い道がほぼ無いから売れないのよね……。むしろ、処分代を取られるんだっけ」


「授業でもハズレ枠って習いましたよね」


「出る頻度が低いのが救い。けど、出てしまった時の悲しさは大きい」


 とまあ学生から不人気なアイテムである。


「これ、俺が貰っていっていいか? ちょっと試したいことがあって」


「うん、もちろん問題ないよ! けど、どうするつもりなの? まさか食べるの?」

「すっごく苦いって聞いたことがあります! けど、コアなファンがいるとかなんとか」

「そう聞くと、ちょっと食べてみたい気もするね」


「いや、食べるつもりはないぞ? ちょっと詳しく調べてみたくてさ」



 とまあ、この世界では嫌われているアイテム「マロンマロンの眼球」。しかし、ゲームでは真逆の評価が付けられていた。マロンマロンの瞳には、実は使い道がある。

 ゲームにおいて、マロンマロンの眼球は「眼球系アイテム」と呼ばれるカテゴリに分類されており、きちんとした使い道がある。「○○の眼球」というアイテムは、加工する事で「○○の視界」と呼ばれるレンズに加工できるのだ。

 マロンマロンの眼球を加工した「マロンマロンの視界」は「水中の視界が良くなる」という効果を持っており、水中フィールドで大活躍する。今後の為に是非そのアイテムが欲しいのだが、この世界ではその加工方法が見つかっていないらしい。



「確かゲームでは『眼球を高温高圧下に置く事でレンズになる』って書かれてたから……。そういう装置がある研究室を探すか」


 フォルテメイアの公式ホームページから研究室紹介ページを見つけ、その中でも魔物の素材を研究しているラボを探す。なんだか大学の時を思い出すなあ。


「魔石エネルギー研究所、皮革線維研究所、魔法エネルギー研究所、魔鉱石研究所、魔法医学研究所、魔法微生物研究所……。お、これは!」



魔法高分子研究所:後藤(ごとう) (ゆう) 教授

=====

 はるか昔に生きた生き物の亡骸を、我々は石油という形で発掘し、それを加工する事でプラスチックという素材を手に入れました。そして今やプラスチックは無くてはならない物となっています。

 これを魔法化学にも応用できないでしょうか。つまり、魔物のドロップアイテムをそのまま使うのではなく、何らかの方法を使うことで液体化し、そしてそこからプラスチックのような素材を生み出す。そんな事が可能なのではないかと我々は考えて、日々研究しています。

=====


 この研究室の目標は「ドロップアイテムからプラスチックを作る」こと。俺の目標は「眼球からレンズを作る」こと。似通っていると言えるのでは?

 早速、コンタクトを取ってみよう。



 俺は扱い的には高校生な訳で、研究室への訪問が認められるかどうかは五分五分かと思っていたのだが、次の日には「是非来てください」と言って貰えた。

 日程調整の結果、その週の土曜日に訪問させてもらえることになった。



「こんにちは、改めて研究室訪問を許可して下さってありがとうございます」


「いえいえ。戦闘職でバリバリ戦える子が研究に興味を持ってくれるなんて、珍しいからな、驚いたよ」


 それから、「フォルテメイアの生活には慣れたかい?」とか「迷宮攻略の調子はどうだい?」などの他愛ない話をした後、いよいよ本題に入った。


「それで、君が調べたいと言っていたのは、眼球アイテムの使い道についてなんだね」


「はい。メールにも書きましたように、眼球系のアイテムは通常の生物の眼球と違って高温下でも熱変性を起こさないと思うのですが、じゃあ何度まで上げたら硬化するのかって気になりまして」


 焼き魚の目玉って大抵硬い球体になっているが、あれは眼球の中の「硝子体」というたんぱく質が熱変性を起こして硬化した物である。

 しかし、マロンマロンの眼球は高温化に置かれても硬化もしないし、変性もしない。そして、ある程度の温度に達すると燃えてなくなってしまう。


「なるほど。面白い疑問だな。レアドロップという事もあってあまり研究は進んでいないし、そういう研究は前例がないはずだ。さっそく試してみようか」


……

………


 結論だけ言うと、眼球アイテムは500℃、21MPa(メガパスカル)に置かれた時に硬化する事、そしてそれが非常に透明度の高いアイテムでありガラスのように加工できる事が分かった。

 そして俺は「これで論文を書こうじゃないか!」と勧められ、暇な時間を使って論文執筆する事になった。思ったより大事になってしまったなあ。


 とまあ色々想定外はあったものの、無事眼鏡型アクセサリー「マロンマロンの視界」の入手に成功したのだった。







これにて第二章『フォルテメイアでの生活』は終わりで、魔物の紹介を挟んでから第三章『ゴールデンウィーク』が始まります。


ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。もしよろしければ、高評価やレビューをしていただけると幸いです。

今後とも本作をよろしくお願いいたします。

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