人生の再スタート
えーと。今の状況を整理しよう。赤木風兎はわずか八歳にして両親を失い、その後、叔父叔母の家に引き取られることに決まった。のだが、そのタイミングで前世の記憶を取り戻した。
「つまり、僕は叔父と叔母の家族に引き取られる、という事でしょうか?」
状況説明に困っている叔母を助けるべく、俺は声をかける。
「え。ええ。そうよ。理解してくれてよかった」
「分かりました。改めてよろしくお願いします」
ペコリ。礼儀正しい子と思われるべきだろうと考え、お辞儀する。これからお世話になる人だ。好印象を持ってもらおうと思う。
「うん、よろしくね。えっと、それじゃあ、さっそく移動しましょうか」
「はい」
こうして、赤木風兎の人生は、再スタートしたのだった。
◆
「従妹の穂香ちゃん……がいるんですよね? 何歳くらいですか?」
赤木穂香。従妹であり、そしてこれから兄妹のように過ごす事になる女の子だそうだ。できれば仲良くしたいものだ。
「風兎君より一歳年下よ。仲良くしてあげてね」
「一歳年下……。分かりました、立派なお兄ちゃんになります!」
「ふふふ、そうね」
家に到着した。集合住宅地の中の家で、四人で暮らすには少し狭いかもしれないという印象。いや、四人の内二人は子供だし、このくらいの広さは十分広いと言えるか?
「お邪魔します」
「あ、風兎君だね。こんにちは」
男性が優しそうに声をかけてきた。この人は確か、退屈そうにしている女の子を連れて、先に葬儀場を離れていった人のはず。なるほど、俺の叔父だろうな。
「えっと、僕の叔父……ですよね。今日からお世話になります」
「お、おう。移動で突かれているだろうし、ゆっくり休んでくれ。あ、子供部屋に布団を用意しておいたから……」
「ありがとうございます! えっと、子供部屋は……」
「ここをまっすぐ進んで左だよ。子供部屋って書いてあるから」
「はい」
荷物を下ろすため、子供部屋に向かう俺。精々リュックサックくらいしか持っていないのだが、子供の俺からすると結構な重さなのだ。
歩いている途中、叔父さんと叔母さんの声が聞こえてきた。
「八歳ってこんなにも落ち着いているものなのか?」
「両親を亡くしたりとつらい経験を積んだから……かしらね。凄く大人びて見えるわね。早くここの生活に慣れて、気楽に接して欲しいわね」
む。確かに、堅すぎたかもしれない。少し砕けて接した方が良かったかもしれないな。
さてと、ここが子供部屋か。穂香ちゃんもこの中に居るだろうか。それなら、先にノックした方が良いかな?
コンコン
「何ー?」
「こんにちは、風兎だけど、入って良いかな?」
「うん」
ガチャ
「失礼しまーす。あ、穂香ちゃんだね。こんにちは。えっと……俺の事、覚えてるかな?」
「うん。お祖父ちゃんの家に行った時、一緒に遊んだ」
「そうそう、覚えてくれてて良かった。その……これからよろしくね」
「うん」
可愛い。めっちゃ可愛いぞ! ぷっくりしたほっぺたからはあどけなさを感じ、ぱっちり二重の目からは将来有望だろうなと感じさせられる。肩に少しかかるくらいの長さの黒髪はツインテールに結っており、可愛さを強調している。
はあー。自分に娘が居たら、ちょうどこのくらいの年齢だったのかなあ。前世の俺は独り身だったし、子育ての経験はない。そんな俺に出来る事なんて少ないかもしれないけど、頑張ってこの子を守ろうと決めたのだった。
◆
その日の夕食は豪華だった。ピザ・チキンナゲット・オムライスなど、子供が喜びそうなメニューが揃っていた。おそらく、両親を失い意気消沈している俺を励まそうとして用意してくれたのだろう。
「わあ! すっごく美味しそう! 食べていいですか!」
少し子供っぽく、喜びを表現する。実際、おいしそうなので、テンションも上がっている。前世ではカップ麺とかコンビニ弁当ばっかりだったからなあ……。
「ええ、どうぞ。召し上がれ。あ、それと。風兎君? 別に敬語じゃなくても良いわよ? これからは家族になるんだし、さ」
「そうですか? ……分かったよ。うーん、大人に敬語で接しないのは違和感があるけど、そのうち慣れるかな……?」
伯父と叔母から目をそらすように俺は横を見る、とそこにはほっぺにケチャップを付けた穂香ちゃんの顔が。
「穂香ちゃん、ほっぺにケチャップが付いてるよ」
「どこ?」
「取ってあげるねー」
ティッシュでふき取ってあげる。それから。
「ピザ、小さく切ってあげるねー」
「ありがとー」
「どういたしまして」
大人向けのピザだから、我々からすると、少し食べにくい。半分に切って食べやすいサイズにしてあげる。
「風兎君、立派なお兄ちゃんね」
「そうかな?」
「ええ。穂香とも仲良く出来そうで良かったわ」
まあ精神は大人ですから。と俺は心の中でつぶやくのだった。
◆
次の日、叔母にスマートフォンを借りて、能力について調べまくった。なるほど、能力を持っていたとしても、使えるようになるのは基本的に高校生以降らしい。稀に小学生の頃から使える人も居るらしいけど。
そういえば、ゲームでも能力測定のシーンが描かれていたような気がする。「俺はフォルテなのか?! よし、これで仇を討つことが出来る……」みたいなセリフがあった覚えがある。なお、一度読んだストーリーは基本スキップしていたので、ぶっちゃけ記憶は曖昧だ。
さて、情報収集で分かった事を、ゲームで明かされていた設定と併せて整理してみよう。
・能力者かどうかは遺伝するとされるが、非フォルテからフォルテが生まれたり、フォルテの子供がフォルテじゃなくなったりする事もあり、詳しくは解明されていない。
・全ての国民は中学三年生の時点でフォルテか否かの検査を受ける義務がある。国としては、フォルテの人数と動向を確認しておきたいのだろう。
・検査で陽性反応が出た者は、魔物と戦う職に就くべくフォルテの集まる学園「フォルティス=アカデメイア」に進学するように勧められる。
・フォルティス=アカデメイアは全寮制の学園で、能力者の他にも研究者を目指す人もいる。年齢的には高校生が集まるので、フォルティス=アカデメイアは一種の高校であると考える事も出来る。ただ、小中学校と大学も併設しており、一種の学園都市となっているようだ。
・フォルテとしてフォルティス=アカデメイアへ入学する場合、基本的には無試験で入学する事が出来る。ただし、普段からの素行が悪い生徒は、入学拒否されたり、退学処分が下りたりするとか。よって、フォルティス=アカデメイアは治安のいい学園だそう。ちょっと意外。もっと野蛮な学校をイメージしていた。まあ、人類の命運を託された学校だし、規律違反をするような学生はいらないという事か。
・フォルティス=アカデメイア卒業後は、基本的には魔物の討伐に従事する事になる。能力の強さにもよるが、給与はかなり良いらしい。
ざっとこんな感じだ。あと、フォルティス=アカデメイアは長いので、『フォルテメイア』と略されて呼ばれているらしい。フォルテメイア……かっこいいな。
「取りあえず、知っておきたい事は大方調べ上げたし、あとはのんびりと過ごしましょうかね……」