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魔力の奔流

 魔力感知状態で宮杜さんが魔法を使うのを待つ。数秒後、宮杜さんの体から魔力が溢れ出すのを俺は知覚した。魔力は宮杜さんの全身を覆い、その量は増え、増え、増え……え?

 男子二人が放った魔法の数倍……いや数十倍の量の魔力が宮杜さんからあふれている。魔力が激しく流れる様は、豪雨の後のアマゾン川のようである。



 『魔力の奔流』


 そんな表現がこの状況を一番よく表現できるだろう。



 さて。魔力を知覚出来る俺は、魔法の発動メカニズムをある程度理解している。まず、魔力を体から放出する。次に、その魔力を一か所に集める。最後に、その魔力を操作して意味を持たせるのだ。最後のステップで、属性が付与されるのだが、今はおいておこう。


 例えば、俺がバフをかけた男子二人は、最初のステップ「魔力を体から放出する」が苦手だったと考えられる。だから、俺の魔力を補う事で攻撃魔法を強化したのだ。

 一方、宮杜さんは最初のステップは難なくクリアしている。むしろ、魔力を放出し過ぎだ。それ故に次のステップ「魔力を一か所に集める」が上手く出来ておらず、魔法が発動していないと考えられる。


(さてと、それじゃあ俺がすべきことは……)


 宮杜さんが放出した魔力の大半を俺が奪う。残った魔力を一か所に集めるように誘導する。先ほど奪った魔力の一部を彼女の攻撃に還元して……


(どうだ?!)


 コントロールすべき魔力量が減ったからか、宮杜さんの手の中から魔力の塊が撃ちだされた。これは成功ではなかろうか。魔力感知状態を切って、通常の感覚に戻る。すると……。


「「「おお!」」」


 バスケットボールサイズの水の塊が高速で撃ち出された。成功したようだ!


「良かった! 成功だな!」


 宮杜さんは「え、私、魔法を使えたの?」という驚きと困惑の表情で周囲をキョロキョロ見ている。そうだよ、間違いなく君が使った魔法だよと言ってあげたい。


「すごいですね、先ほどまで全く成功しなかったのに……」


 先生も驚いているようだ。これは俺の想像に過ぎないが、彼女のように『多すぎる魔力をコントロールできず、魔法が発動しない』人にとっては、バフはかえって意味が無いのではなかろうか? 俺のように、魔力を直接操作できる人物でないと、彼女を補助出来ないのかもしれない。


「赤木、お前は宮杜との相性がいいようだ。今後は二人でペアを組んで練習に励んでもらおうと思うが、問題ないか?」


「「大丈夫です」」


「じゃあ、引き続き練習に励むように。無理だけはしないようにな?」



 さて。ゲームにおいて、主人公がバフをかける相手は火属性の男子だったはずだ。しかし、ここにいる男子二人は火属性ではない。そもそも、先生の名前もゲームとは全く違っている。

 つまり、人間関係ではゲーム知識は全くあてにならなさそうなのだ。ダンジョンの構造なんかはゲーム通りとして、人間関係なんかはバタフライエフェクトを受けやすそうだし納得である。


※バタフライエフェクト=少しの誤差が、時間をかけて大きな誤差に発展する事。この場合、俺が転生した事による行動が巡り巡ってフォルテメイアに務める先生とかクラス分けに影響を与えてしまったのではないかという事。



 だから今、俺が宮杜さんの魔法を補助した事が、未来にどれほど大きな影響を与えるか俺には想像出来ない。だが、宮杜さんのほっとした表情を見ると、悪い展開にはならないだろうと思った。



「宮杜さんって魔力量が多いよな。いったいどれだけの……」


「いやいや、赤木君のバフのおかげですよ……。実際私一人では全く魔法を発動できないですし……」


 他のメンバーは頻繁に休憩を挟んでいる。先生に詳しく聞くと、魔力が底を尽きると魔法を発動できなくなるらしい。しかし、宮杜さんはほとんど疲れていない。『魔力の奔流』とも言える量の魔力を放出しているにも関わらず、魔力が底を尽きていないのだ。これって、凄い事ではなかろうか? 彼女、ひょっとしたら最も強いフォルテの一人なのではなかろうか?

 だが、そんな考察が出来るのも俺が魔力を知覚出来るから。他の人たちは「赤木君と相性がいいのね~」程度にしか考えていない。そして宮杜さん本人も同様に自分の身に起こっている事について理解できていないようだ。


 とは言え、暫く経つと宮杜さんの魔力も底をついてきたようだ。魔力感知状態になって宮杜さんの魔力を見ると、当初の半分程度しか放出していない。


「おいおい、大丈夫か? 魔力が減ってきているだろ?」


「いえ、大丈夫です。私はまだやれます! あ、赤木君がしんどいですよね。休憩にします?」


 確かにまだやれるだろう。宮杜さんの放出魔力は半分になったとはいえまだ多すぎるくらいだ。

 だが、このまま訓練を続けるべきか? 俺は不味いと思う。本調子が出ていない状態で無理に訓練を続けるのは、宮杜さんの心身に悪影響を及ぼすかもしれない。


「実はちょっと疲れてきちゃってさ。休憩しようぜ?」


 頑張り屋さん?な宮杜さんに休憩を促す。正直俺は全くと言っていいほど疲れていないのだが、嘘も方便ってやつだ。


「そう……ですね。私も休憩します」


 そして休憩している内に、宮杜さんはベンチで寝てしまった。やはり無理していたのだろうな。先生と目が合う。


「あ、先生。えっと……」


「よっぽど疲れたんだろうな。何せ宮杜は能力調査の時も水を一滴しか生成できなかったらしいからな。実質、今日が初めてって訳だ」


「そういえば、僕も初めて魔法を使った時は、気分が悪くなりました」


「だろ? よっぽど疲れたって事だろうな。保健室に連れて行くとするか。おーい、田中先生!」


 少し離れたところで生徒を指導している女性教員がこちらにやってきた。事情を説明し、田中先生が宮杜さんを保健室へ運んで行った。


「あの、僕はどうしましょう?」


「あー、どうしようか? そもそも、お前は大丈夫なのか? 相性が良かったとはいえ、全く魔法が使えなかったやつにバフをかけていたんだ。相当疲れているんじゃないか?」


「いえ、まだまだ大丈夫そうです」


 実際、ほとんど疲れていない。だが、先生は心配そうに俺を見つめ、最終的に「残りの時間は休んでろ」と言った。少し申し訳ないが、お言葉に甘えて休ませてもらおうかな。






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