僕とひまわり畑のあの人
お久しぶりです。何とか生きてました。この作品は昔別のところで書いたものの加筆修正を行ったものです。つたない文章ですが、温かい目で見ていただけると幸いです。
今年の夏、またこの場所を訪れた。
大都市から電車に揺られて三時間、何回か乗り継ぎをして来ることができる僕の思い入れの場所。このひまわり畑の景色は自分が成長しても変わらない。なんだか時代に取り残されている感がある。そんなひまわり畑を眺めながらポツンとあるベンチに向かう。
その際にすれ違う人々の数は、例年に比べて多い。まあ、そうであろう。今年でここは閉園になるからだ。非常に寂しい。ここにいる人たちもそんな思いだろう。イチャイチャしているカップルは別にして…だが。
そうこうしているうちに目的のベンチにつく。僕は腰かけた。落ち着く。この場所は本当にいい。ひまわりの生き生きした姿がよく感じられる。きれいな景色を眺めながら、あの人は現れるのだろうかと考える。半分ぐらいあきらめている節がある。あの出来事以降一度もあってないのである。少し心が痛む。どうして自分は恋と自覚できなかったのだろうか。後悔しても、過去に戻ったところでも変えることのできないぶつけようのない思い。自分の中であの人を超える人には会えないだろうなと感傷に浸る。
思い出されるのはあの夏の日、僕とあの人、初恋の人とのお話だ。
夏の日差しがじりじりと身を焦がし、セミはせわしなく鳴いている。しかし吹く風は涼しいし、川の水は冷たい。子供ながらにいい田舎だと思っている。家のテレビで見る街はいつでも暑そうだ。なぜそんなところに住むのか親に聞いても便利だからとかよくわからない。成長すればわかるのかな。なんて思って考えることを放棄する。そして僕にとっての秘密基地、ひまわり畑へ遊びに出かけた。このひまわり畑は、今じゃ人は少ないものの、数年前は、取材が殺到し、多くのお観光客が訪れるほどには人気があった。だが、最近では都市部にも、ひまわりを見るところができたらしくだんだん人が来なくなってきたのである。僕にとっては人に迷惑をかけにくいのでありがたいことではあるが。
いつものように遊んでいた僕、そんな僕に声をかけてくる人がいた。
「あの、君ってこの辺に住んでいるの?いつもここで遊んでいるけど。」
と僕より年上の雰囲気のワンピースの女の子が声をかけてきた。
「そうだよ!ここはぼくにとってのひみつきちなんだ!」
僕は元気に答える。
「ふふっ、楽しそうね、私も混ぜてくれないかしら。」
「もちろん!いいよ。」
「ありがと、最初はなにをするの?」
そうしてあの人との関係が始まった。
この日は、虫を追いかけまわった。特にちょうちょをメインで。彼女がちょうちょが好きなこと、それとこのひまわり畑にはちょうちょが多いことが理由である。バッタなどもいるのだが、バッタとかって、個人的にだけど面白みに欠ける気がする。取りやすいのだけどね。網を持ってはいたが、むやみやたらに振り回すとひまわりに影響が出てしまうために、ひまわりにいるちょうちょを素手で捕まえるか、あえて飛ばして通路で網を使って取る方法を試していた。どっちもどっちだったが、六匹取ることができた。結構な収穫である。時間もだいぶ過ぎたみたいで、日が少し沈みかけていた。夕焼けに照らされているひまわりたちはとても優雅な雰囲気を醸し出していて、美しかった。いつもならあまり気にしていないのだけど、ひまわりとともに夕焼けに照らされるあの人の姿は、かわいかった。
多分僕はこの時はまだ意識していなかったが恋に目覚め始めていたのだろう。
「僕、そろそろ帰らないと。」
「そうね、遅くなると、いけないわね。」
「おねーさん今日はありがと、また遊んでくれる?」
「もちろん、また機会があればね。」
「やったー、じゃあまたね、バイバイ。」
「さようなら。」
そう挨拶して別れた。
充実した一日だった。そう感じながら、帰るのであった。
次に会ったのは、一週間後のことである。
といっても僕は、あのお姉さんが気になって毎日出向いていたのだが。
その日はお昼ごろにいつものベンチに行ってみるとあの人は座っていた。僕を見かけると、笑って手を振ってくれた。僕もうれしくなって手を振りながら、駆け足で向かった。
「こんにちは、今日も元気そうね。」
「はい!げんきですよ、今日は何して遊んでくれるの?」
「そうね、ちょっと離れたところの公園で遊びましょう。」
「いい!そうしましょう。やったー。」
ということで僕たちは、近くの公園に移動する。
ここの公園は、アスレチックな遊具が多く設置されている。そんな場所で、いろんな遊具で遊ぶのであった。ゆらゆら動く丸太の橋を、僕がわざと激しく揺らし、バランスを崩れさせたり、ターザンロープで競争したり、長い滑り台を思いっきり滑ったり、追いかけっこしていた。
なかなか楽しい時間だった。あの人のはしゃいでいる姿はなかなかに新鮮だった。自分まで元気になれたしドキドキした。
しかし楽しい時間というものは待ってくれやしない。
「あ、帰らないと。」
「またね、バイバイ。」
少し寂しくなりながら、帰るのであった。
次にであったのは、その三日後であった。
少し彼女は深刻そうな顔をしていた。
どうしたんだろうと思いながらあの人のところへ向かう。途中で僕の存在に気が付いたのか、笑顔に変わり、手を振る。
「こんにちは、今日も元気そうだね。」
「こんにちは!今日は何しますか?」
「そうだね、あの山登らない?」
そう指さされた山はハイキング感覚で登れるこの田舎のシンボルのような場所である。
僕にとっては、ひまわり畑や僕の家を眺める場所として、ひみつきちの監視するところの役割を持っている。僕にとって二番目に重要な場所である。
「行きましょう!」
なので反射的に答えたのであった。
そうして僕たちは山を登りだしたのである。
山を登る際中、お姉さんは少し考えることが多く、たまに足をふらつかせていた。その姿に心配と不安を覚えつつも、山の頂上付近に来たのである。
「ここが頂上なのね、思ったよりいい景色が見れるのね。」
「ここに来るの初めてなの?」
「そうね、この町に来ることは何回かあっても、ここに来たことはなかったのよね。」
「へえー。」
確かにここに登る観光客とかましてや地元の人もそんなに登らない場所である。機会がなければ登らないだろう。
ぼーっとそんなことを思っていると、唐突に僕のおなかが鳴る。登っている間にエネルギーを使ってしまったようだ。少し恥ずかしくなる。
その様子を見て、お姉さんはくすくす笑う。余計に恥ずかしくなってしまった。
するとお姉さんは、持っていたカバンから弁当箱を取り出した。
「おにぎり作ってきたんだけど食べる?」
そういうと弁当箱のふたを開け、おにぎりを見せてきた。
僕は、それを見て、すぐに頭を縦に振っていた。ということで山頂でのランチタイムになるのであった。お姉さんが作ったおにぎりは少し形がいびつではあったもののとてもおいしかった。その際の会話のお内容は覚えてはいないが、とても充実していた。
本当に今思えば一番幸せだったのかもしれない。
だがその幸せもあとの言葉によって、すべて吹っ飛んでしまった。
「あのさ、今日山に登ったのはね、少し君に言いたいことがあるの。」
とさっきの雰囲気から一転して、まじめな表情を僕に向けるのであった。
「実はさ、私、ここに訪れるは今年で最後なんだ。今までは何度か訪れてはいたんだけど、事情があってね。だからさ、今年たまたま君に出会って、いつもよりずーっと楽しく過ごせた反面とても別れがつらいんだ。」
すこしお姉さんは目に涙をためていた。
「もっと前に出会えてたらなって、なんで今年しか遊べなかったんだろうなってどうしようもないんだけどそれが悔しくて。」
僕はこの話を聞いて、驚きを隠すことができなかった。この夏の間、自分にとって影響力の大きかった存在で、心がギュッと締め付けられる感覚であった。それと同時に僕は何も言いだすことができなかった。
「ほんとに君に感謝してる。ありがと。」
そういうとお姉さんは、すっと立ち上がり、涙をぽろぽろと流しながら、この場をそそくさと立ち去ってしまった。僕は一瞬のことで何が何だか分からなくなってしまっていた。頭の中ぐるぐるといろんな思いが混ざり、心は締め付けられる。そんな状態が三十分続き、ようやく落ち着きを取り戻したが、思い足を引きずって家に帰ることになった。どうやらその日の僕は本当に死人のような顔をしていたらしく、今でも親に言われることがある。それぐらい僕にとってショックのでかい出来事だったんだ。
その日以降ひまわり畑にずっとお姉さんを探したが会えることはなく、夏休みは終わりを迎えるのであった。
今になって思うのは、僕にとっての初恋と同時に一生後悔し、心に残り続ける思い出の人になってしまったのだ。告白とかそういったものにあまり気にしていていなかったのだから仕方ないのだが。
高校までもこの地域にいたために夏休みにちょいちょい訪れてもいたのだがそれらしい人物に遭うこともなかった。
そうして今に至る。
地元に帰る前にひまわり畑の閉園のニュースを耳にしていたので、自宅の帰省と同時によることにしていた。そして今に至るのだが、結局あの人は閉園の日に現れることはなかったのである。
人生というものは理不尽で、険しいものであると実感した瞬間だ。人間とは後悔とともに生きるものであり、背負っていかなければならない。しかしそれは悪いことではないと思う。その後悔があってこそ人は進んでいけるんではないかと少し哲学的なことを考える。それにあの人はあの人なりに人生を生きているのだろう。あの出会いは一種の分岐点みたいなもので、今の僕らの人生につながっている。そう考えていきたい。
今でも夕焼けに照らされたひまわり畑とワンピースのあの人は僕にとっての宝物だ。