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成長して退化して

作者: エムティー

私は、会社を出た。いつもなら大層なBGMでも脳内再生しながら帰路を急ぐ。なぜか今日は家への電車には乗るつもりは無かった。理由もなくただ、歩きたかった。別に仕事で失敗したわけではない。人間関係が嫌になったわけでもない。ただ、日常に歯向かいたくなった。

「そういえば、この駅海近かったよな」

こんな独り言をマスクの中で漂わせ、私は海へと歩いていった。海風が強く私の行く手を阻んでいたが、構わなかった。全身で抵抗している気がしてむしろ心地よかった。


オフィス街を通り抜ける道を私は一人逆走していた。向かいから来る人は私を異端者のように見てくる。人々に注目されていることに喜びを感じる。これが自己顕示欲かなんて思いニヒルに笑う。この笑みだってマスクが吸収してくれる。素晴らしい時代だ。


ウキウキの私はひょんな事でリアルへと引き戻された。子供の笑い声が遠くから聞こえる。えらく無邪気でそれが何故か心に刺さった。見ると公園があり、親子連れから、子供だけで遊んでるグループもあった。何となく避けて通りたいと思ったが、海への道はその公園へと続いている。逃げられなかった。


自転車に乗る子供と迎えにきたであろう車に道を譲り私はゆっくりと横断歩道を渡る。眼をそらして、心をそらして。まるでそこに向き合いたくない現実があるかのように。


しばらく歩くと臨海公園のようなものについた。日は傾き夜の始まりを告げている。公園にはランニングをしている人が数人といつからそこにいるかわからない釣り人がいた。子供はこっちの公園には来ないらしい。

海と公園の境にはあるフェンスまで歩く。訳ありな顔して訳ありなため息をついてもたれた。なんか「ドラマっぽいな」この呟きもどこにも届かず消えた。海の向こうには工業地帯が見え、夜の帳が落ち行くなかそこそこの夜景になろうとしていた。


対して壮大でもない。その景色はぐらぐらしている私を飲み込むのには十分だった。私の眼には工場の光だけが見え、海のうねりだけが見えた。この景色は私にとって壮大だった。工場の光は私の想像を遥かに越える活躍をしてるのだろう。海なんて私なんて目にも止めずたゆたい続けている。


「小さい。小さいなぁ」


特に心持ちが変わったわけでもなく、ただ機械的に社会人として扱われる日々。まだ子供で居たいのに。そんな社会的な立場なんて求めてないのに。時間は無情にも私を変えていく。

「そっか、嫌だったか」

噛み殺して飲み込んだ。今ならちゃんと消化できる気がする。一つ息を吐き、空を仰ぐ。


駅への帰路に着く。向かい風もなければ追い風もない、風はやんでいる。公園にいた子どもたちも家に帰ろうとしている。

私は大人に成っていた、それを受け入れられずにいた。その違和感が今日の私を歩かせた。もう、迷いなんて無い。全力で大人で子どもでいよう。変にカッコつけても仕方ない。


俺は俺なんだから。


別に私の話じゃないですよ。

因みに聖地は横浜駅です。

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