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第90話

「まずは、この周りにレンガを積んで固定させるんだ」

「え~? 何もないところに積むの?」

「この中をマートに掘ってもらうんだ。そのための壁にするんだよ」

「そっか~」


 話すうちに大人たちがレンガを積んで固めていく。見る間に井戸の形となった。


「じゃマート、この中を掘っていってくれ。あ、その時に壁の部分をオレが固めていくからな」

「分かった~! よぉっし、いっくぞ~!」


 マートが腕まくりしてレンガに囲まれた中へ手をかざす。土と砂が一気に持ち上がって横へ流れていった。


「トラグは掘った土から鉱物をより分けておいてくれ!」

「分かった~!」

「ルイエとチコルには後で作ってほしいものがあるから待っててくれ!」

「「いいよ~!」」


「どんぐらい掘るんだ兄ちゃん!」

 ちょっと息を切らしながらマートが聞いてくる。


「ん~、そうだな。村の周りの堀よりもう少し深く、だな。ちょっと大変かもしれんが」

「平気だよ、もうちょっとだから!」


 え” もうちょっと? もうそこまで行ったってのか!?


「兄ちゃん、なんか土がグズグズで柔らかくなってきちゃった!」

「おう、それでいいんだ! 周りを固めるからそのまま掘っていってくれ!」

「分かった!」


『状態固定』で壁を固めて周りからの湿潤を止めておく。これで地下からの湧き水だけが昇ってくるはず、だ……たぶん。


 オレ、井戸の正式な掘り方なんて知らないんだけど、魔法のある世界だからな~。


 そんな事を考えていたら、マートの悲鳴が。

「ひゃああぁぁっ、にににに兄ちゃぁぁんっ! なんか出てきたあぁぁっ!」

「来たかっ!」


 レンガの上でのけぞったマートを抱えて後ろへ飛び退る。その後を追うように、泥水が噴き上がった。


   ドドドオォォッッ……ピュウウゥゥ……シュウウゥゥゥ……


 「「「「「ワアアァァッッ!!?」」」」」

 「「「「「ちめたい~~っ!?!?」」」」」

 「「「「「ウオオォォォッッ!?!?」」」」」


 周りに居た大人や子供たちにも容赦なく降りかかる水を浴びて、右往左往する小人族たち。


 泥水はすぐに清水となり、高さもなくなってレンガの中へと鎮まっていき……オレがのぞいた時には積んだレンガのすぐ下に静かな水鏡が広がっていた。


「ど、どうですかのう、ケイン殿?」

 おっかなびっくりの様子で長老が近付いてくる。振り向いたオレは大きくうなずいた。


「見てください。うまくいきましたよ」

 その言葉に恐る恐るレンガの中を覗き込む長老。その眼が大きく見開かれた。


「お、おお、おおお……み、水じゃあ~~!」

「! 長老、ホントですかっ!?」

「おおっ、水が、水があるっ!」

「凄い、水だっ!」


 「「「「「みずだあぁぁっっ!!!」」」」」


 周りに押し寄せた大人が叫び、我も我もと押し寄せる。


「待ったまったぁっ! ちょっと待ってくれっ!!」

『音量拡大』で呼びかけ、押しとどめる。

「この水が大丈夫か調べるから、それからにしてくれ! 『鑑定』っ!」


 ……相手が小人族でよかった。でなきゃ、オレ、押し倒されていたかも、な。


 急いで『鑑定』をかけて水質を確かめる。

 良かった、異常はないみたいだ。だが、湧き出た直後だからか、細かい砂が混じっているし、今後もそうなる可能性がある。やっぱり濾過器は必要だろう。


「どうすっかな。さびない金属というと……やっぱステンレス鋼だよな。あれは鉄とクローム鋼を混ぜるんだっけ」


「兄ちゃん降ろしてくれよぅ」

「おう、ごめんよマート。悪かったな」


 気が付けば、マートを小脇に抱えていた。そう言えば、水が噴き出すときに抱えていたな。


「どうだ兄ちゃん、しっかり掘ってやったぜ」

 得意気に胸を張るマート。この歳でよくもまあ、あれだけ掘れたもんだ。


「よく頑張ったな、凄いぞマート」

「えへへへ」

 頭をなでてやると嬉しそうに笑う。


「兄ちゃん兄ちゃん、鉱物ならこっちにあるよ」

 ぶつぶつ言っていたら服を引っ張られる。お、トラグか。

 誘導されるままに動くと……お、鉱石があるな!


「もう分け終わってたのか。トラグも頑張ったな!」

「えへっ。なんか魔力が多くなっててさぁ、この量でも大丈夫なんだ」


「そうか、凄いぞトラグ」

「ありがと兄ちゃん!」

 トラグも嬉しそうにしている。子供は誉めて育てるもんだ。


 オレの胸がチクッと痛んだが、アレはもう過去の事、気にする必要なんてない。


 目の前にある鉱石に意識を向ける。


「鉄と、クローム鋼。このふたつでいいはずだ。ルイエ、これを混ぜてくれ」

「おっけ~! 混ぜ混ぜ~~♪」


 その間に長老の所へ行き、必要となる数種類の砂をもってきてもらう。

「ケイン兄ちゃん、出来たよ~」

「ありがとな、ルイエ。おお、たくさん作ってくれたんだな!」


「兄ちゃんの手伝いしてたらワッチも魔力の量が多くなったみたいでね~。あんまり疲れなくなったの~」

「え”…オレ、無理させてたのか? すまん、気が付かなくて」


 申し訳なくて頭を下げたらルイエがコロコロと笑った。


「謝るなんて兄ちゃんおかしいよ~。ワッチ、とっても面白かったんだ。昨日のシンチュウ? だって、すっごくきれいだし。だから、これからもっといろいろやりたいって、そうおもってるんだよ?」


 下からすくい上げる目線で言われ、ちょっとどぎまぎしてしまった。ルイエ自身にはそんなつもりがないんだろうけど、結構色っぽい……げふんげふん、子供相手に何考えてるんだオレは!


「あ、ああ、そうか、真鍮は加工しやすいし、今作ってくれたのは錆びにくい性質だから、使い道が多いと思うぞ」

「そうなんだ~。じゃ、いろいろやれるんだね」


「ああ、大人の皆とも相談して考えてくれ。今回は井戸の濾過装置に使おうと思ってな。チコル、手を貸してくれ!」

「あ~い! やっとワッチの出番だね!」


 そう言ってこっちへ駆けてくる。向こうではマートが大の字に伸びていた。


「マートはどうしたんだ?」

「今になって、お腹減ったってひっくり返ってるんだよ。もうすぐご飯だからいいけど、我慢が効かないんだから!」


 そう言えばそろそろお昼だな。


「じゃ、チコルもご飯が済んでからの方がいいか?」

「ワッチは何もしていないから大丈夫だよ。ごはんの前にやってみて、足らなかったらまたあとで続きをやるから、形を教えて?」


 オレは持ってきてもらった砂を片手に、形と用途を説明した。


「そっか~、確かにそうするときれいになるね。うん、頑張るよ!」

 可愛いファイティングポーズをとって気合を入れ、加工を始める。オレはそのそばに立って、砂を順次入れていった。


「ふい~、終わったぁ~~!」

 チコルがぺたんと座り込む。その頭をオレは撫でた。


「良くやったなチコル。おかげで完成したぞ」

「うん、ワッチ頑張ったもん!」


 輝く笑顔のチコルに頷き返し、

「さて、もうひと働きだ。これに滑車と枠をつけてバケツをくっつければ……」


 これで井戸の完成となる。


 オレはまず釣瓶を繰って水をくみ上げ、横に出来ているじょうごのような入れ物に流し込む。今回、濾過装置を井戸の横に造ったのは、どうしても不純物が入ってくるからだ。『鑑定』で真水だと分かってはいるが、備えはしておくに限る。


 濾過装置はもちろんステンレス鋼で、中には徐々に目の細かい砂が詰められているから、下から出てくるのは本当にきれいに済んだ水だ。そこにバケツなり甕なりを置けばいい。


「兄ちゃん、こっちは何するところ?」

 トラグが不思議そうに聞いてくる。バケツを置くところから延びた水路の先にあるのはレンガで円形に張られた浅い水たまりのような場所。


「そこはみんなで使う洗い場だな。畑でとれた野菜を洗ったり、洗濯したり、さ。小さい子たちの水遊びにも使えるかな」

「え、ホント!?」


「使おうと思ったら、しっかり水を汲み上げて流さないといけないけどな」

「おいら汲んでみる!」

「ワッチも!」

「おいらも!」


 いつの間に復活したのか、マートが真っ先に釣瓶に取りつき、水をじょうごへ流し込む。

 釣瓶の両側にバケツをくっつけたから、交互に引き上げれば結構な量を汲み上げられる。濾過装置から出た水が円形の水たまりへと流れていき、たちまち浅い池が出来上がった。


「わ~い! 池だぁぁっ~~!」

 今度はトラグが真っ先に踏み込んだ。続いてチコルとルイエ、釣瓶から離れたマートが一番最後にじゃぶじゃぶと水をかぶりだす。


 それを見ていた子供たちが一斉に群がった。


  「「「「「わあぁぁっ~~!!!」」」」」

  「「「「「気持ちいい~~~っ!!」」」」」

  「「「「「ちめた~~いっ!!」」」」」


「こ、こらっ、おまえたちやめんかぁ~~っ!」


  「「「「「やめな~~いっ!!」」」」」


 川だと深いところがあって危ない水遊びも、ここなら大丈夫だからと大人も子供も大騒ぎ。

 久しぶりに大笑いしたと、みんな満足そうだった。






 井戸の掘り方は独断です(きっぱり)。

作者の思い込みで突っ走ってますので、流してください。

にぎやかな集落の様子を堪能していただければ幸いです。

今日も読んでいただいてありがとうございます!

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