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第8話

お待たせしました。いよいよ移動します。

 街道沿いに歩き出してみると、後ろから人や馬車が近づいてきた。街の門が開いて一番に出てきたんだろう。オレは脇によって先に通すことにした。


「お先に通ります」

 御者の人が上から挨拶してくる。

「お構いなくどうぞ」

 軽く会釈して見送る。商人の一行らしく、3台の馬車が連なって次々に追い抜いていった。


 この先にあるのはタンカーグイ山脈の南端イルド山とそのふもとに広がるバラッツィ森林。そこを抜けた先にベイレスト共和国とアルマニア皇国の国境がある。

 街道は森に向かう手前でさらに分岐して、北に行けばウーランダ公国、少し東にそれるとフォルカイス王国、逆に南に向かうとガルマン帝国の国境へ通じる。ベイレスト共和国からだとフォルカイス王国への道は平坦で楽ではあるのだが、嫌われ者の国だけにあまり向かうことはないらしい。却ってアルマニア皇国やウーランダ公国への行き来が激しいそうだ。


 ガルマン帝国は文字通り軍事大国で、武器の生産や軍人教育が盛んなんだとか。そうかといって好戦的ではないと書物には書かれていたが。どっかの世界で言う専守防衛、かな?

 それらの国を超えた向こうにもまだいくつかの国があるようだが、今のオレにはあまり関係がない。さて、どちらに向かうか。


 フォルカイス王国はまず除外。ポイ捨てされた国に好感情なんて持てないだろ? 第一、オレのことがばれてでもしたら、今度こそ監禁・隷属・酷使一直線だ。もっとも、今の状態で捕まるつもりはないけどなっ!


 ウーランダ公国は北国だが、人柄は暖かだと言う。厳しい冬を乗り越えるために一致団結する気風が、旅人だろうと風来坊だろうと受け入れて歓迎する習慣となっているらしい。うん、一度は行ってみたい国だよね。

 こうしてみると、オレの選択肢は多くない。まぁ、普通に歩いていくならアルマニア皇国へ行くのが自然かな。


 考え事をしているうちに速度が落ちていたようだ。さっきから何組もの人や馬車に追い抜かされている。今も後ろから追いついてきた人が声をかけてきた。


「よお、何か考えてたようだが大丈夫か?」

「あ、お構いなく先へどうぞ」

「そうか? それならいいが、この先の野営地に行くならもうちっと速度を上げないと暗くなる前にたどり着けないぜ。バラッツィ森林に踏み込む前の最後の安全地帯なんだからよ」

「そうですか、教えてくれてありがとうございます。頑張っていきますね」

「おう、待ってるぜ」


 笑いながらポンと肩を叩き、先へ行く。確かにすごい健脚であっという間に見えなくなった。


「おれにもあのくらいのスピードが出せるかな?」

 思い立ったら吉日と体をほぐして足を急がせる。するとグングン、スピードが乗ってきた。

「おお~、できるもんだな」

 周りの風景も飛ぶように流れ、オレは走る勢いで前に進んでいく。


 と、オレの腹が盛大に鳴った。どうやら昼を過ぎたようだ。足を緩め、街道を少し離れたところで昼食をとることにした。

 今日の朝、食事しながら作ったサンドイッチを、大口開けてかぶりつく。我ながら美味い出来だ。


 モシャモシャやってると誰かが同じように街道を外れてこちらにやってくる。見ればそれはさっき声をかけてきた男性だった。


「よお、お前さん。えらく速い足だなぁ。あんだけのたのたしていたと思ったら、凄い勢いで追い抜いていったのには驚いちまった。鍛えてあるんだなぁ」

「旅に出るのは久しぶりなので、気分が舞い上がったんですよ。でも、そちらもいい脚ですね」


「おう、俺はこの脚で稼いでるからな。どうだい、野営地まで一緒に行かねぇか?」

「良いですね。そうしましょう。お昼はどうしました?」

「俺は昼飯だけ歩いたままで食べられるようにしてるんだ。だから遠距離移動できるんだぜ」

「それはすごい。もう少し待っててください、すぐに終わりますから」


 手に持ったサンドイッチを口に押し込み、コーヒーで流し込む。ポットを腰のポーチ(に見せかけたストレージ)へ入れると立ち上がった。


「お待たせしました。行きましょうか」

「よっし。じゃ動くか。それとそんな丁寧に話すなよ。ざっくばらんにいこうぜ」

「はい、じゃなくて、わかった」


 声を掛け合って街道に戻り、再び移動を開始する。二人して風を起こして歩くものだから、周りは目を丸くして見送っている。


 男性はマイルズと言う名で、町や村を結ぶ飛脚便を営んでいる。運ぶのは主に手紙、至急を要する薬や馬車で運ぶことのできない壊れ物を扱っているのだと言う。背に負った荷物の塊は登山用のリュックに近いが、


「なあに、壊れ物を運ぶんだ、緩衝用の綿やら布やらが嵩張ってるだけでそう重くはねぇんだよ」

 笑いながら話しているうちも足の速さは変わらずに移動している。この人の頑丈さも相当なものだと思わず『鑑定』してみた。



 名前  マイルズ

 職業  運び屋 (『空駆ける飛脚便』の社長) 

 POW  212

 STR  184

 VIT  331

 DEF   49

 MGP  145 

 MGR   56

 INT   70

 LUK  112

 EXP   43


 スキル 重さ軽減  (ただし自身の身に着けている場合のみ)

     回復(小) (休んでいるときに限り10分に5回復する)



 この世界で成人男性の平均はだいたい100前後だ。それを考えると、マイルズは確かに頑丈だった。POW(体力)が通常の2倍、VIT(持久力)が3倍以上あるのはすごい。

 だが物理と魔法の防御が弱い。それを補うように高い幸運値があるから、これに助けられてこの人は走り抜けていくんだろうな。

 それに加えて、重さ軽減と言う珍しいスキルを持っている。荷物運びが楽になるようだ。おまけに休んでいれば少し回復する。夜にしっかり寝れば翌日はまた元気に走り出せるんだろう。

 

「それにしてもお前さんの脚も相当だねぇ。俺はこの年まで走りっこをして負けたことがないんだが、お前さんにゃ勝てそうもねぇよ」

「そうでもないさ。今は目的地がわかってるけど、分からないところに行ったら無理だよ」

「あはは、そりゃそうだ。俺も始めた最初は相当うろうろしたからなぁ」


 和やかに話しつつ道なりに走っていくと、陽が傾きかけた頃、前方にたくさんの人や馬車が固まっているのが見えた。

「見えた見えた。あそこが野営地だ。お前さんに引っ張られて結構早く着いちまったな。助かったよ」

「こっちこそ教えてもらって助かった。おあいこでチャラにしよう」

「おお、そうかい。ならそれで行こうか」


 話しながら徐々にスピードを落とし、野営地に入る。片隅の開いている場所にテントを張って、晩飯の用意を始めた。マイルズも隣に陣取り、焚火で干し肉をあぶってパンをかじっている。


 オレは解体済みのラビットの肉を一口大に切り分け、塩で味付けしてから串に刺して焚火の周囲に突き刺した。同時に野菜のコマ切れと干し肉をなべに入れてスープにする。じりじりと焼ける肉の脂がしたたり落ち、良い状態になったところでマイルズに差し出した。


「マイルズ、どうぞ」

「えっ、で、でもお前さん、これはお前さんの食事だろ。俺がもらう訳には」

「今日の御礼って事で」

「そ、そうかい? じゃあ、いただくよ……ん、うまい!」


「このスープもどうだい」

「済まねぇな、何から何まで」

「その代わりにさ、オレ、この先の国、よく知らないんだ。マイルズの分かる範囲でいいから教えてほしい」

「お、そうか。俺もそう知ってるわけじゃないが、それでよけりゃ」

「交渉成立、だな」

 そうやって話しながら夜は更けていった。





ここからしばらくはボッチです。なので、独り言が多いかも。

それでも読んでいただいて感謝です。

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