第81話
ケインの現在地、判明です。
頬を叩いて気合を入れなおし、5階建ての焔の柱に向き直る。
「おかげでオーリィ、アーミンを助けることが出来た。無断侵入したオレたちを助けてくれてありがとう。心から感謝する。
それと、ここがあんたのテリトリーだとは知らなかった。不可抗力で来てしまったが無作法なのは間違いない。本当にすまなかった、このとおりだ」
そう言い切って頭を下げる。許してくれるかどうかはこの焔次第だが、言うべきことは言っておかないと、な。
そのまま頭を下げていたら、
『ふふふふ、最初に言うことが感謝かえ。よほどそのアーミンが大事と見ゆる。それとここへ来たは不可抗力であったとな? 事情を聞かせてたもれ』
聞こえてくる声は一定なんだが、気配が変わってきている。近付いてきた……?
『わらわのことを恐れずによう話したの。顔をあげりゃ、ヒト族の子』
言われて顔をあげた、ら……あれ? あの5階建ての焔、どこ行った?
目の前にいるのは、オレとそう違わぬ背丈の……
「ハルピュイア? いや、違う……鳳凰に近いな」
『ほぉ。ヌシはわらわを認識できるだけの力を持っておるえ。珍かなるヒト族よ。それにこの香り……何やら好もしいえ』
「あ~、それはオレが聖獣に好意を持たれやすい原因だな。そうそう、名乗るのを忘れてた。俺はケイン、冒険者をやってる。それと異世界人だ」
いきなりぶっちゃけたけど、相手は聖獣、言わない方が後々恐ろしい。
『ほうほう、異世界の者かえ。ならば納得じゃわいな。わらわはジェイルニークス、このあたり一帯がわらわのテリトリーなんえ』
そう言って胸を張った焔の柱、じゃなくて鳳凰ジェイルニークスは自慢げだ。
確か鳳凰ってキメラ状態の伝説の鳥、だったよな。
頭と嘴が鶏で首が蛇、胴体が麒麟と鹿、亀、しっぽが魚、だったか。中国じゃクジャクの羽があった気がする。ただ、どちらも5色の色があったように思ったんだが……。
目の前の聖獣と比べてみる。
確かに頭は鶏に近いな。でも嘴はない。普通の人間と同じ感じだ。首はちょっと長めの蛇だけどつるっとしてて、ただただ綺麗な白い首でしかない。眼は2対、スタールビーのような輝きを放っている。
胴体は鱗?と焔の羽根が混在してどちらも金色に光ってる。足は猛禽類の鳥で、腕は炎々と燃え盛る翼になってるし、しっぽはまさに孔雀そのもの。ただし、全体では焔の赤と金色だ。
うん、鳳凰とは似て非なる、異世界産の聖獣、が正解だな。
『さっき言うておった不可抗力、話してたもれ。ここらはそう簡単に来れる場所ではないぞえ』
え、そうなの?
「その前にここがどこだかオレは分からない。場所を教えてくれ」
こんな赤茶けた大地は今まで見たことがないからな。
鳳凰は目をすがめてオレを見つめる。
『……ヌシからはこの大陸の匂いがせぬ。ならばどこか他の大陸から飛ばされた、という事かえ?』
「え、大陸が違う? 俺が居たところは……アルカン・ロスト大陸、だったな」
これはグィード爺さんの所で爆読みした知識のひとつ。ホント、あれには助けられてる。
『ほう、西大陸の者であったかえ。そこで出会うた聖獣はおるのかや?』
「一番初めはウラヴィスだ。それからメイマーニア。あとは知ってるかどうか、光と闇の聖獣サーラとキールにも逢ってるぞ」
そう言うと、鳳凰は大仰に驚いてる。
『おおう、西大陸に居る聖獣の半数に見えておったわいな。サーラ、キールというのはまだ若い聖獣かや?』
「リッチロードと成った錬金術師が卵を託された、と聞いている。元は1体だったとか」
『なるほど、やはりの。あやつ、命数が尽きておったか……』
沈痛な表情になったジェイルニークス、長いため息をついてる。
ガル爺さんが託された卵の親を知っているようだな。
「オレは話でしか聞いてないが、どうやら寿命が尽きかけたところへ錬金術師が偶然行き会い、卵を託したらしい。託された錬金術師はその聖獣の心臓を身の内に取り込んで……」
『取り込みおったと!?』
「話しではな。おかげで5日5晩苦しんだんだと」
『そうであろうなぁ。よう、その程度で済んだものよ。普通なら無理だぞえ』
「俺もそう思う。で、苦痛を耐えきってリッチロードに成ったから、サーラとキールが誕生した。そういう流れだ」
かなり長い間、ジェイルニークスは黙り込んでいた。
『……ヒト族は無茶をするえ。だが、そのおかげであやつの命脈が消えずに済んだか。そのリッチロードに逢うたら礼を伝えてたもれ。『焔王のジェイルニークスから多大な感謝を』と』
「わかった。は良いけど、ここ、違う大陸だろ? どうやったら戻れるんだよ」
思わず受けたけど、そもそもの方法が分からないんじゃどうしようもない。
『おお、済まぬな。あまりに衝撃的な事で我を忘れて話し込んでしもうた。こっちに来やれ』
手招きされるままに進んだ先には小作りの東屋があった。そこの椅子に座り、出してもらった茶と菓子でのどを潤す。
『さて。では先ほどの話に戻ろうかえ。ヌシが西大陸…住む者にはアルカン・ロストと呼ばれておる大陸から飛ばされてきた者だと確認できた。今いるここは南大陸、マルタ・ストルス大陸と呼ばれておるわいな。
で、じゃ。このような事態になった出来事はなんだったんえ?』
オレは求められるまま、今までの経緯を簡単に……結構難しかったが……説明した。
話を聞きながらジェイルニークスは、懐から出した長い棒を咥えている。先端からかすかに煙が上がっているから、キセル、だろうな。
わあ、こうやって見ると、凄いサマになってる! キセルを支えてるのが翼の一部だったとしても、かっこいい。
『ふうむ、成程のう。『空間転送』を使えるヒト族が居るとは思わなかったぞえ。しかもそれで虚空まで飛ばされながらも、生きて帰ってくるとは。ヌシも相当なものえ』
そう言われて、オレはあの前後の行動をひとつずつ思い返した。
「…あの時オレは少し前に『バリア』を発動してたんだ。何してくるか分からん連中だったから用心のためにね。身体全体を覆っていたから、それごと固定されて飛ばされたんじゃないかな」
『幸いにもじゃな。それで納得え。あのようなところから落ちて来て、擦り傷ひとつ作っておらんとは、どういう頑丈さなのかと思うておったわいな』
何じゃそれ。オレってそんなに硬いと思われてたの!?
「じゃ、オレ、どうやって戻ってきたんだろう?」
ぼそりとつぶやく。それに聖獣が当然と言った顔で、
『それはアーミンの力に決まっとろうえ』
などと言ってきた。
「オーリィ? あいつが?」
『ヒト族は知らぬかや。そうかものう。
アーミン種というのはの、わらわたち聖獣とは違うが、闇魔法に特化した種族なんえ。そ奴らが使う魔法には、古代魔法に匹敵するものもあるわいな。
ヌシの懐のアーミンも相当な力の持ち主ではあるが、今回は飛ばされたところが遠すぎた故に、ちょっと無理をしたようじゃ。それが魔力の枯渇となったんえ』
キセルを弄びつつ、ジェイルニークスが答える。
「遠すぎた、とは?」
『本来なら元の場所へ戻るようにと設定するはずえ。それをしとらんのは、ヌシたちが出会った御仁、相当剣呑な気配がしよったんじゃろう。故に、離れた場所を目指しおった。わらわが思うに、『隙間』で抜け道を造って戻ってきたんかの』
「……抜け道?」
ポリポリと頭をキセルで書きながら、ジェイルニークスが説明しだした。
『どう言えばうまく伝わるかいな。
……そうよなぁ、闇の中に細い空間を通して、滑り降りる感じというのが近いわいな。普通の時ならばそれでよかったんじゃが、今回マズかったのは遠距離だったために、少しの角度が地上近くへ来ると大きくずれる、その度合いが大陸移動の元となった可能性が高いえ』
そのたとえは良く判る。近ければ多少ズレても問題ないが、離れれば離れるほど、最初のずれが大きくなる。
オーリィもそんなつもりがなくてやったんだろう。
そのために魔力の枯渇を招くほどに必死になって。オレは懐をそっと押さえた。
オーリィが何気にすごい闇魔法の使い手でした。
その所為でノビてますが(笑)
登場人物(?)の方言に、参考としたものはありません。
全て作者の聞きかじりと思い込みですので、ご容赦を。
読んでくださって感謝です。




