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第80話

 新章始めます!

  『空間転送(トランスファー)


 対象物とその周辺を一時的に固定、「梱包物」として転送する。転送先で自動的に「梱包物」は解除され、中身が残される。転送先が宇宙空間であるならそれは……死、を意味する。


 タケル・マティスはそのことをわかっていて確実に死ぬことになる魔法をかけ、以後自分の計画から外した。それがどれだけの齟齬(そご)とズレを生むことになるのか、気づかぬままに。





    ヒュ~~ッ    トサッ


「!?!? な、何が起こったっ!?」


 全身に軽い衝撃が走ったことでオレの意識は急浮上した。え、オレって、寝てたのかっ?


 慌てて辺りを見まわすと、今まで見たことのない景色が目に飛び込んできた。

赤茶けた大地にぶっとい幹を持ったサボテン? のような植物、それとは反対に、地面に張り付く形で広がる苔のような草。


 これ、水分が少ない土地なのかもな。


「ここどこだ! オレ、何してる? 『瞬転(テレポート)』使った?」


 そんなはずがない、と、直前の記憶を呼び起こす。そう、オレはベイレスト共和国と新生エリシオ教国をつなぐ街道にいたんだ。


 出会ったのが聖獣とマイルズ、そして。


「胡散臭い笑みを浮かべたあいつ……思ったより危険な奴だったんだな」


 タケル・マティス。

 260年前のガルマン帝国で魔術師部隊の元局長を務め、『合成(シンセサス)』を推し進めていた男の末裔。元の世界からの転生者。


 危ないワードが燦然と輝いている。間違ってもお友達にはなりたくない候補第一位だな。


 そいつが使った『空間転送(トランスファー)』。古代魔法のひとつ『虚空(ヴォイド)』の下位魔法だと言っていた。オレはそれに囚われて、宇宙空間に送られた、はず、だが……?


 何があったか額に手を当てようとして、オレは固まった。


 ヒュ~~~ンン………ン…ン……


 え、何この音は!? 音源は?

 上を見ると、上空から何かが落ちてくる。って、あの銀色の塊は!!


 慌てて両手を広げるが、今はまだ落下地点が予測できない上に速度が無茶早い!

 このまま受け止めても、衝撃が大きすぎて骨折やら内臓破裂やら、助かる確率がほとんどゼロになっちまうっ!


「えっとえっと……『エアークッション』!」


 自分でも訳の分からない言葉を叫んでいた。いやね、空気の層を分厚く丸めてゲル状にして、ポヨンポヨンのアレなら、って。

 トランポリンだと跳ねかえってしまうし、固くしちゃうと衝撃の吸収が出来ないし! 低●発クッ●ョンなら何とかなるかと考えたんだ。


 オレのとっさの言葉に、今回もINT(知性)が答えてくれた。

 銀の塊の速度が目に見えて落ちてきている。そのままこの腕の中へと、ゆっくり、ゆっくり誘導してきて……ぽすっと手の中に納まった。


「オーリィ?……息、してない……? おいっ! オーリィッ!!」


 オーリィの身体は生きているとは思えないほど冷たく、身動き一つしない。慌てて懐に入れて温める。僅かに生命の鼓動が感じられるが、このままでは確実に消えてしまう。


「どっ、どどどーすりゃいいんだっ!? 医者、いや獣医なんてここにはいない。回復薬、はあるが、この状態じゃ飲めないし……でも、どうにかしないとっ!」


 肌に感じる鼓動がどんどん弱く儚くなっていく。ええい、何してるんだオレ! 動け、それから考えろ! 今は立ち止まってるときじゃないっ!


 見知らぬ場所だが関係ない、今はオーリィを助けるんだ!

 方向も定めず走りかけたオレに、


『これ、どこに行くのだえ、ヌシは』

 声をかけてきたものが居た。


『わらわの山に勝手に入り込んで挨拶も無しかえ? 礼儀を仕込む必要がありそうじゃの』


 振り返ったオレの眼に映ったもの、それは。


「火の鳥、か? それにしてもデケェ」


 目に映ったのは、炎々と燃え上がる焔の柱。二本の足からずうっと上の方まで、ごんぶとの柱が、もう延々と炎々と渦を巻いて立ち上がっている。それなのに、周りに燃え広がることがない。


 その巻き上がり燃え盛る焔の先端に、これまた炎で形作られた頭があって、爛々と光る眼が2対、オレを見下ろしている。


  2対?


 縦に並んだ紅玉の瞳が両脇にある、な。へえ、初めて見たぞ、こんな眼は。


『なんじゃ、わらわの眼がおかしいか?』

 じっと見上げていたら、そう聞かれた。


「いや、おかしいとかそうじゃなくて、初めてだな、と。それより、すまないがちょっと通してくれ。謝罪も後で来るから、とにかく急がないと!」

『ん、何じゃ急ぎとな? それはヌシの懐にあるアーミンの事かの?』


「ああそうだ。なんか身体が冷えて息絶え絶えで。もうどうしていいか分からんのだが、じっとしていたら確実に手遅れなんだ!」


 言っても仕方ないとは思うが、耐えきれずに叫んでた。身体の冷えは少し納まったようだが、意識はまだ戻らない。

 焦りが身の内から湧いてきて、じりじりと精神を焼いていく。どうしていいか分からないだけに余計焦りたくなる。背中からは冷や汗が止まらない。


 そんな俺を見下ろし、炎の柱はため息をつく。


『ヌシは何と歪じゃのう。それほどの力を持ちながら、助ける方法を知らんとは』

「えっ、オレが助けられるのっ? ホントか! どうやるんだっ!?」


 思わず問いかけた。なら、やってやる!

 そのオレを見て首を振りかけた柱だが。


『うむ。あまり余裕がない、の。良かろう、わらわも手伝うてやるから、ヌシの魔力をアーミンに流し込んでやるがよい』


「オレの魔力を流し込む? なるほど、フィリーの時のアレと同じか」

『ヌシ……本当に大丈夫かえ? それとな、一気に流し込むでないぞ。ヌシとアーミンの繋がりがどれほどか知らぬが、魔力の差が大きいとうまく流れない故、な。焦るのは分かるがゆっくり慎重にやる事え』


「わかった。ゆっくり、慎重に、だな」


 その場でオレは胡坐をかき、懐のアーミンを両手で抱え込んだ。これ以上体温が奪われないように、魂がどこかへとんでいかないように、全身でオーリィを抱きしめた。


『この場でやるとは…よほどそのアーミンが大事とみえる』

 5階建ての焔の柱が何やら言っているが、構っていられるか!


 一気に流すとマズいらしいから、少しずつ少しずつ、と。でも、どうすっかな。


 オレはイメージを探った。そうだな、こんなのはどうだろうか。


 夜明けの空。まだ深い微睡(まどろ)みの中にいる、すべての生きとし生けるものに届けとばかりに差し込んでくる曙光の針。何本も何十本も飛んで来るその針が、やがて闇を押し広げる光と……あ、ヤバい、これ以上はいかんな。


 それならこれはどうか。雪解け水だ。極寒の冬を耐えて硬く凍った樹氷の先端が、春の日差しを浴びてきらめき、透き通っていく。そして一滴、また一滴と滴る先にあるのは白い根雪。そこに落ちる雫が穴をうがち、根雪の中の雫と共に細い糸のような流れを作っていく。


 水では属性が違うから、真夜中の夜空、はどうか。生きとし生けるものが明日への希望を胸に深く眠る深夜。その眠りを見守るように煌めく星辰。密やかに(さや)けく、細やかに、でも途切れなく降り注ぐ。ゆっくりと天空を横切りながら、地上へと満遍なく注がれる空からの慈愛。


 そのイメージにたどり着くと、オレの中から何かがオーリィに向けて流れていく。フィリーの時と同じに感じるそれが魔力回路が開いたんだと理解できた。

 ようし、後は流れを調節してゆっくりと慎重に……


『ヌシ! おいヌシ! やりすぎぞ、やめんか! コラッ!!』


 やろうとしたら頭に衝撃を受けて集中が途切れる。繋がっていた回路が切れてオレは目の前のでかい鳥を睨んだ。


「なんだよ、やっと繋がったと思ったのに切りやがって。もう一度やり直さなきゃいかんだろうが!」

 その睨みに呆れ顔(?)の火の鳥。


『繋ぎなおすも何も、それ以上は無理え。すでに魔力は上限ぞ? ヌシはそ奴を壊す気かえ?』

「え……?」


 言われて手元を見れば、さっきまでのぐったりした姿ではなく、しっぽを丸めて寝入っている。冷たかった身体もいつものようにポカポカとしてきた。


「そ、そうか、助けられたんだなオレ。よかった。ゆっくり休めよオーリィ」


 グス、と鼻をすすり、そっと懐にしまいなおした。今度目が覚めたら、一杯うまいものを喰わせてやろう。


 さて、今度はこっちの方の後始末だ。





……またしても聖獣に絡まれてしまいました。

ケインと聖獣の縁は切れそうもありません。


読んでいただく方に感謝です!

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