閑話7 ~ 姉妹姫とアーミンたち ~
閑話第3話です。
アタシはルゥ。正式名はルゥエントゥリーナ・フォン・エリシオ。神聖、じゃなかった、新生エリシオ教国の第一王女だよ。
前の神聖エリシオ教国では光魔法が至高とされてたために、アタシの存在は長く隠されていた。だって、アタシの属性は闇で、悪とされていたから。
でも、ケインが来て、そんな考えがおかしいって教えてくれた。この世にある物はみんな必要だから存在してる、無くてもいいものはとっくになくなってるんだ、ってそう言ってくれた。光も闇もこの世にはなくてはならない大事なもの、お互いに必要としているんだ、って。
今ではアタシもリィと一緒に表に出てる。
光と闇、同等であり両立しているもの。光の大神官だったバルラトゥール・カヴィラスが光を集めすぎて暴走しかかった時、リィと二人で調整していて思ったんだ。ああ、本当に一緒のものなんだって。
『黒の森』で闇の調整をしている時とは全然違ってた。闇魔法の使い方は同じなんだけど、隣りで光を調整しているリィの力がアタシに流れて来て、すっごく楽だったんだ。あとで訊いたらリィもそうだったって。お互いの力がお互いを補助して、より良い方向へと持っていく。そんな感じだったんだ。
だからアタシとリィは二人で玉座に就く。二人でひとつ、それでいいんだと思う。いずれは配偶者をどうするとかいう話が出てくるだろうけど、今はこれで。それに、ケインが……ううん、何でもない。
今は生まれ変わったこの国のあれこれをきちんとしなくちゃね。
それでさ、あの日。
ケインが軍隊と『勇者』たちを追い返した後、大広間に戻ったらすっごく面白いものを見ちゃったんだ。ケインたら、『あの貴族たちの中に帰るなんて!』と身震いしながらガル爺様とダンジョンへ行っちゃったから見てないんだよ。惜しかったね~。
軍隊や『勇者』たちとのやり取り、実は城の魔術師たちが前庭のビュースクリーンに流していたんだって。だから、城の皆や街の人達も見ていたんだけど、中にはこの隙に逃げようってした人が居てね。うん、宰相一家と腰ぎんちゃく君!
その人たちが玉座の前に倒れてたんだ。それもボロボロのズタズタになって。
比喩じゃないよ。文字通りボロボロだったんだ。
みんな豪華な服着てたんだけど、宰相以下全員がもう……。ローブ、マント、チュニック、ドレス、上衣、ズボン、ソックス……とにかく何もかもがズタズタになってた。特に宰相は、穴が開いて布が垂れ下がってて、浮浪者でももちっとマシかな~って格好になってたんだ。
おまけに全員、顔やら手足やらに噛み傷やらひっかき傷もあったしね。
で、周りをアーミンが取り囲んで威嚇してたんだ。少しでも身動きしようものなら、飛びついてバリバリとひっかいていた。アタシもリィもビックリして一瞬戸惑ったんだけど、すぐにわかったよ。これ、アーミンが足止めしてくれてたんだって。凄いよね、彼ら。
「リィ、アーミンが手伝ってくれたんだよ。良かったね」
「そうですわね、ルゥ姉さま。この人達を逃がしたら大変なことになっていましたわ」
「うん、だからさ、こういうのはどうかな?……(ごにょごにょ)」
「…! まあ、それ素敵ですわ! 是非ともそうしましょう!」
明るい顔でリィがアーミンたちの前にしゃがみ込む。王族が簡単にこんなことしちゃいけないって教わったけど、ちゃんと向き合ってお話するには目線を同じにすべきだと思うんだよ。
「ありがとうございます、アーミン様方。この者たちの逃走を防いでくださって感謝の言葉もありませんわ。この御礼に、離宮の奥庭をあなた方に開放いたします。どうぞおいでくださいませ」
アタシもリィの横にしゃがみ込む。
「ホントありがとう。一番大変なときに来てくれてうれしかったよ。奥庭はきれいだからいつでも好きな時においでよね。食べ物と水も用意しておくから、他の皆にも伝えてくれると嬉しいな。どう?」
アーミンたちはじっとアタシたちを見上げて、
「「「「キュ~~!」」」」
と啼いて一斉に消えた。多分伝わったんだろうね。
「衛兵! この罪人たちを牢へ! 今までの事もそうですが、逃亡を図ったことも許せません。しっかりと逃げられないように監視をしなさい!」
「「「はっ!」」」
「それからほかの方達も順次確認させていただきます。逃亡やごまかしなどはお考えにならないように。マディーノル・コーランド元宰相のようになりたくなければ、ですが?」
うん。リィは妹だけれど、アタシよりずっと王族らしいね。その脅し文句はすごいよ。
みんなコクコク頷いてる。あ、何人かは顔色が悪いね。
とにかくこの日は大騒動だった。メイドや侍従は使い物にならないくらいのショックを受けてて、足腰がたたない人間が多かったよ。
そういう人たちはそれぞれの部屋へ連れて行ってもらったんだけど、残りの動ける人たちが全員アタシたちに群がって来て……延々と謝罪と言い訳を繰り返してるんだ。正直鬱陶しくって、何度「やめて」って言ったことか。そのうえ、アタシたちに付いて歩いて、世話を焼こうとするんだよ。それも我先に争いながらね。
さすがにリィもキレてね。
「あなた方の行ってきたことについては思う所も多々ありますが、今は不問としておきます。
で・す・が! 今日これ以上の接近は許しません。ワタシとルゥ姉さまは、この後離宮へ籠ります。必要あれば呼びますので、だ・れ・も! 近づかないでください。いいですね? この言葉を無視したものは誰であれ、即刻この国から追放いたします!」
かなりきつい言い方だったけれど、この場では正解だと思ったよ。
それでも、侍従のひとりが恐る恐る聞いてきた。
「で、ですが、それでは、身の回りの世話や警護…はどうなさるので…?
流石に王族の……方々をおひとりにはできません、が……」
今までほったらかしにしておいて何を言うかとアタシは思ったよ。言ってる本人にもその自覚があるんだろうね、ところどころ詰まってたから。
リィが良い笑顔で答える。
「ワタシもルゥ姉さまも自分の事は自分で出来ますから。これまでの5年間で鍛えられましたわ」
ここでメイドたちが真っ青になったんだ。
「身の回りの警護も必要ありませんわ。ラルカンス将軍とその配下の方々にお任せしていますから」
ここで侍従と騎士たちが絶望的な表情になり、アタシは危うく吹き出しそうになっちゃった!
「と・に・か・く! 離宮へは近寄らないでください。いいですね?(にっこり)」
「「「「「「……はい、承りました……」」」」」」
しょぼくれて引き下がるメイド&侍従&騎士を横目に、次は貴族の方々へ。
「ワタシとルゥ姉さまは離宮へ向かいますが、執務を止めるつもりはありません。毎日、この城の執務室へ出向いてまいりますので、お気遣いはいりませんわ。ちなみに」
ここで言葉を切ったリィ、貴族の皆さんをひとわたり見つめて。
「執務室は仕事の場です。謝罪や言い訳だけならお入りになる必要はありません。きちんと仕事をしてくださいね?(再びにっこり)」
「「「「「「はい! 姫さま方の仰せのままに!」」」」」」
おー、リィ、偉い! 頭なでなでしちゃうよ! 貴族様方の顔色がとんでもなく悪いけど、アタシは見なかったことにした。
その日から言葉通り、離宮と執務室の往復が始まったんだ。
離宮のアタシの部屋で一緒に休み、朝食をとってから二人して王城の執務室へ入る。リィと同じくらいの大きな机といすを用意してもらって、アタシはリィの横に座る。王族の仕事をしたことのないアタシは、リィに教えてもらいながら仕事を覚えていくんだ。
移動するときには必ず将軍か、配下の騎士さんが付いてきて扉の前に立ってくれる。食事の世話や生活に必要な物資も、全部将軍の信頼がおける人たちばかりだから、アタシもリィも安心していられるよ。
そうそう、奥庭にね、アーミンたちのための場所を造ったんだ。
食べ物を置いておくテーブルと、新鮮な水が湧き出る噴水式の水飲み場を設置して置いたら、翌日からアーミンたちが出入りを始めたの。
アタシたちが休憩しているときにも現れてくれるようになってね、果物をかじったり水を飲んだり、庭中を駆け回って遊んでいる姿を見せてくれるんだよ。
数えたことは無いんだけど20体くらいのアーミンたちがいるんじゃないかな?
いつも賑やかでほっこりして。ここを解放したのはアーミンへのお礼だったんだけど、こんな風景が見れて、アタシたちの方が得しちゃってるかな?
読んでくださって感謝です。
フォルカイス王国軍&『勇者』たちとやりあった少しあとの
お話になります。




